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02 雨の夜
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久しぶりに二人になったパーシーはこれから告げる事を思うと憂鬱だったが、
「カミーユ、君の魔力は戻って来ない。婚約は白紙に戻されることになった。えーーとつまり、私たちの間はなにもなかった事になる。婚約した事もない・・・こうするのが君の為だ。わかるだろう」
「はい、承知しております」と静かな返事だった。
「わかってくれて助かる。手続きは終わっているので、心配することはない」
「ありがとうございます」声が少し弾んでいるようなのは気のせいだとパーシーは思った。これ以上は無理だ。未練がましい・・・パーシーは声が震えないように気をつけて
「後はひとりで帰れるだろう。気をつけてな」と声を搾り出すとカミーユに背を向けた。
カミーユはその背中を見送ったが、すべてを振り払うように首を振った。
『これで面倒から開放された。できるだけ早くここを出ていこう』
「どこでも行ける?」と言ってみた。ちょっと声が震えた。
「どこでも行ける!」今度は元気が声が出た。
ちょっと大股で歩くと、空気が美味しい。この角を曲がると畑だ。家はすぐそこだ。
カミーユは、神殿の中央に与えられていた部屋をオリビアに譲って以来、どんどん部屋を変えられ今は神殿を出てハーブ畑の隅の小さな家に住んでいる。自炊設備もあるそこの暮らしをカミーユは気に入っている。
簡単な夕食を作っていると、雨が降り出した。雨の音を聴きながらお茶を飲み本を読んでいると、窓の外が一瞬明るくなりドンと低い音がして振動が伝わって来た。
急に大きくなった雨音になぜか胸騒ぎがしてカミーユは外に出てみた。
外は暗かったが、窓からのあかりでなにかが倒れているのが見えた。近づくと子供だった。
そっと抱き上げると家に戻った。
濡れた身体を浄化で綺麗にしようとしたが、魔力が足りなかった。
カミーユはタオルでその子を拭いた。頭の上の耳と尻尾は念入りに。傷に包帯を巻き、自分の寝巻きを着せるとベッドに寝かせた。
服を洗って干すと、自分はソファに横になった。
朝起きて、ベッドを覗き込むと、まだ子供は寝ていた。
少々具合が悪くても、パンケーキなら食べられるだろうと、カミーユは多めに焼くと、とっておきの蜂蜜といっしょにテーブルに並べた。
子供に呼びかけると、はっと目を覚ましちょっとパニックになったが、ぎゅっと抱きしめて
「大丈夫よ、ここは安全だから」と言いながら背中を優しく撫でた。
「ここはどこですか?俺・・・いえ僕はどうしてここに・・・」
「庭に倒れていたの・・・・わたしの力だと出血を止めるくらいしかできないけど・・・・治ったのかな?どこか痛いとこない?治療してもらうから・・・・」
「いえ、大丈夫です」
「そう、けっこう傷が深いようだったけど、包帯の下どうなってる?」
「あれ?この服・・・」
「わたしの寝巻きよ。着てた服は洗濯したわ。そのままでいいからご飯にしましょう。顔を洗って」
子供は素直に洗面所に行ったが、すぐに
「あへぇ」と声が聞こえた。
「どうした?なにか怖いことでも?」
「いえ、お姉さん。大丈夫です」と返事が返って来た。
「これ、美味し・・・美味しいです。初めてだ・・・初めてです」と子供は大喜びでパンケーキを食べた。
綺麗な食べ方だった。
「そうだ。名前を言ってなかったわね。わたしはカミーユ・シトリー」
「僕はレイモンド」
「よろしく、レイモンド」
「お姉さんのことはカミーユと呼べばいいの」
「そうね、レイモンドはなんて呼びましょう。レイって呼んでいい?」
「はい、カミーユ。レイと呼んで下さい」
「レイはとても礼儀正しいのね」と言うとカミーユはレイをじっと見た。
「レイ、どうして倒れていたか、話せる?」
「・・・・・えーーと・・・あれ?」
「レイ?大丈夫」
「あの・・・・わからない・・・・なんか逃げてた?走って走って・・・・・」
両腕で自分を抱いて震えるレイモンドをカミーユがしっかりと抱きしめて
「大丈夫、怖い目に会ったのね・・・・大丈夫無理に思い出さなくてもいいから・・・」
レイの震えが止まるとカミーユは
「レイ、わたしは仕事に行かないといけないの。一応聖女だから・・・だからレイはここでお留守番していて」
「うん、カミーユ・・・大丈夫できる。お庭には出ていい?」
「ううん、今日はなかにいて。明日からのことは考えるから」
そういうとカミーユは神殿に向かった。
「カミーユ、君の魔力は戻って来ない。婚約は白紙に戻されることになった。えーーとつまり、私たちの間はなにもなかった事になる。婚約した事もない・・・こうするのが君の為だ。わかるだろう」
「はい、承知しております」と静かな返事だった。
「わかってくれて助かる。手続きは終わっているので、心配することはない」
「ありがとうございます」声が少し弾んでいるようなのは気のせいだとパーシーは思った。これ以上は無理だ。未練がましい・・・パーシーは声が震えないように気をつけて
「後はひとりで帰れるだろう。気をつけてな」と声を搾り出すとカミーユに背を向けた。
カミーユはその背中を見送ったが、すべてを振り払うように首を振った。
『これで面倒から開放された。できるだけ早くここを出ていこう』
「どこでも行ける?」と言ってみた。ちょっと声が震えた。
「どこでも行ける!」今度は元気が声が出た。
ちょっと大股で歩くと、空気が美味しい。この角を曲がると畑だ。家はすぐそこだ。
カミーユは、神殿の中央に与えられていた部屋をオリビアに譲って以来、どんどん部屋を変えられ今は神殿を出てハーブ畑の隅の小さな家に住んでいる。自炊設備もあるそこの暮らしをカミーユは気に入っている。
簡単な夕食を作っていると、雨が降り出した。雨の音を聴きながらお茶を飲み本を読んでいると、窓の外が一瞬明るくなりドンと低い音がして振動が伝わって来た。
急に大きくなった雨音になぜか胸騒ぎがしてカミーユは外に出てみた。
外は暗かったが、窓からのあかりでなにかが倒れているのが見えた。近づくと子供だった。
そっと抱き上げると家に戻った。
濡れた身体を浄化で綺麗にしようとしたが、魔力が足りなかった。
カミーユはタオルでその子を拭いた。頭の上の耳と尻尾は念入りに。傷に包帯を巻き、自分の寝巻きを着せるとベッドに寝かせた。
服を洗って干すと、自分はソファに横になった。
朝起きて、ベッドを覗き込むと、まだ子供は寝ていた。
少々具合が悪くても、パンケーキなら食べられるだろうと、カミーユは多めに焼くと、とっておきの蜂蜜といっしょにテーブルに並べた。
子供に呼びかけると、はっと目を覚ましちょっとパニックになったが、ぎゅっと抱きしめて
「大丈夫よ、ここは安全だから」と言いながら背中を優しく撫でた。
「ここはどこですか?俺・・・いえ僕はどうしてここに・・・」
「庭に倒れていたの・・・・わたしの力だと出血を止めるくらいしかできないけど・・・・治ったのかな?どこか痛いとこない?治療してもらうから・・・・」
「いえ、大丈夫です」
「そう、けっこう傷が深いようだったけど、包帯の下どうなってる?」
「あれ?この服・・・」
「わたしの寝巻きよ。着てた服は洗濯したわ。そのままでいいからご飯にしましょう。顔を洗って」
子供は素直に洗面所に行ったが、すぐに
「あへぇ」と声が聞こえた。
「どうした?なにか怖いことでも?」
「いえ、お姉さん。大丈夫です」と返事が返って来た。
「これ、美味し・・・美味しいです。初めてだ・・・初めてです」と子供は大喜びでパンケーキを食べた。
綺麗な食べ方だった。
「そうだ。名前を言ってなかったわね。わたしはカミーユ・シトリー」
「僕はレイモンド」
「よろしく、レイモンド」
「お姉さんのことはカミーユと呼べばいいの」
「そうね、レイモンドはなんて呼びましょう。レイって呼んでいい?」
「はい、カミーユ。レイと呼んで下さい」
「レイはとても礼儀正しいのね」と言うとカミーユはレイをじっと見た。
「レイ、どうして倒れていたか、話せる?」
「・・・・・えーーと・・・あれ?」
「レイ?大丈夫」
「あの・・・・わからない・・・・なんか逃げてた?走って走って・・・・・」
両腕で自分を抱いて震えるレイモンドをカミーユがしっかりと抱きしめて
「大丈夫、怖い目に会ったのね・・・・大丈夫無理に思い出さなくてもいいから・・・」
レイの震えが止まるとカミーユは
「レイ、わたしは仕事に行かないといけないの。一応聖女だから・・・だからレイはここでお留守番していて」
「うん、カミーユ・・・大丈夫できる。お庭には出ていい?」
「ううん、今日はなかにいて。明日からのことは考えるから」
そういうとカミーユは神殿に向かった。
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