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番外編 側近のひとり

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家に戻ると粗末な馬車が止まっていた。こんな馬車が玄関まえに止まっているとは?と思いながら玄関を入ると執事が待っていた。

「ご当主様が執務室で待っておいです。そのままどうぞ」と言うとコートも荷物も受け取らずにさっさと行ってしまった。

ランダを養女にする話しだろうが、急ぎなのは、他に取られるからかなと思って、自分でコートを脱ぐと腕にかかえて部屋に向かった。

見知らぬ男が父上と茶を飲んでいた。俺はそいつを無視して

「呼んでらっしゃると」と父上に話しかけた。

「あぁ呼んだ。お前はすぐにこの方とここを立つ」とだけ返って来た。

ここを立つ?

「立つとは?」と父上に言うと

「それだけでは理解できまい。わたしから説明しても?」と男は言ったが、それは質問ではなかった。男は父上の返事を待たずに

「お前は王子の側近としての仕事をやらなかった」そこで俺は反論しようとしたが、男の言葉が続いたので出来なかった。
「違うな、出来なかっただな!能力が足らずに。側近は王子を正しく導く事が仕事だ。今の王子は王太子へはなれない。多分、どこかの国へ婿に出される。子供は出来ないだろう」

「なんだと! 出鱈目を言うな!ランダはあの優しさで殿下を癒してらっしゃる」と言うと男は

「ほーー、癒して貰う必要がある程、執務をしていると言うのだな?」

「そうだとも、殿下は」とまで反論して、気がついた。だが怯んではならない

「確かに殿下はお忙しい。だから癒しが必要だ」と言うと男はふっと笑うと俺に一枚の紙を渡した。

「読め。内容はわかるな。最近、認められた政策だ。王子たちがまとめて、すぐに認められた。官僚が絶賛する程のものだ。ただし実行にあたって一つ問題が出てな。それをここで指摘しろとは言わない。内容を説明してみろ。もちろん見ながらで良いぞ」

俺はそれを読んだ。なにどういう事だ・・・・単語ひとつひとつの意味はわかる。だが、全体を把握できなかった。

「これは小麦の貯蔵にあたって倉庫の管理が難しいので努力しろと係を叱咤するように・・・」だめだ、考えがまとまらない。

「ほう、そう書いてあるのか・・・小麦の管理まではあっているがなぁ・・・換気のための窓をなぁ開けて」と言いながら男はだんだん俺に顔を近づけて来る。

「やめろ」と顔を殴ろうとすると、その手を掴まれたと思ったら、くるりと回って床に体を打ち付けていた。

「側近としても護衛としてもダメだな。うちで鍛え直す。いままでのように甘い扱いはせぬからな」そう言うと男は俺の胸ぐらを掴むと引き起こした。

「いくぞ」の声におもわず体が従ってしまい、俺は男の後ろをついて歩いた。

「それでは」と男は父上に声をかけた。俺も挨拶と思ったが

「必要ない」の声に振り向くことも出来なかった。

廊下に出たが誰もいなかった。男と二人で玄関を出て、あの粗末な馬車に乗った。馬車に木箱が乗っていた。

たったこれだけが、おれの荷物だ。だが、殿下がすぐに呼び戻してくれる。荷物は必要ない。

おれは、痛みを増してきた背中や顔の痛みに馬車のなかでうずくまった。

ふん、苦労はまだ始まってもいなかった。
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