一年で死ぬなら

朝山みどり

文字の大きさ
上 下
12 / 24

手続き完了

しおりを挟む
伯父の家を出ると待たせていた馬車に乗って、役所で手続きを終えた。

最初だからと細かい説明もちゃんと聞いたが、予想が当たった事に笑いがでた。


管理人の名前でちょくちょく引き出されていたが、今日の一番でそれが補填されていた。

これについて問いただす気はない。引き出された日と金額を確認するクレアを、係員がはらはら見ているのに気づいたが、安心させる為に笑いかけることはしなかった。

そして最後に今日の入金額を口に出して読み上げると、余分に入金された金額を引き出すよう頼んだ。

渡された封筒の中身をきちんと数えてから、バッグに入れると立ち上がった。

「今後もお任せ頂けるので?」と係員が言うのに

「えぇお願いするわ」とクレアは答えた。




クレアは洋品店に寄った。前にハンカチを買ってもらって以来、つきあいは続き最近では服を預かって刺繍をいれる仕事も引き受けている。

そしてクレアはここで普段着を作ってもらっている。

なんの飾りのないワンピースを作って貰いそれにレースや刺繍で変化をつけてクレア自身が着ているのだ。

今日は頼んでいたワンピースを引き取りに来たつもりだったが、この洋品店で働ける子を紹介して欲しいと頼まれた。

クレアのやっている事を参考に、既製品を売る時に少し、細くしたり丈を詰めたりするとそれ人気をなって、すぐに対応出来る縫い手が必要になったと言うのだ。

話を聞くとクレアの頭に、二つの顔が浮かんだ。話してみると言う事で洋品店を出た。


お昼はエドワードと待ち合わせて一緒に取った。

エドワードは普通と違いすぎる結婚事情など忘れたように、甘く蕩ける態度でクレアに対する愛情を表現する。

今もクレアを見るなり飛んで来て手の甲にキスをしている。クレアもどうせ死ぬんだからとノリノリでにっこりと愛された妻の顔を見せている。

「今日はお昼に会えると思うと仕事が楽しかった。君と食べるお昼は夢を食べるようだろうね」

「あなたの詩人ぶりも板についてきましたね」と揶揄う新妻に

「あなたと結婚できたわたしはずっと詩人ですよ。得られた幸運に戸惑う子羊です。美しい人」

と言いながら、牛のステーキにナイフを入れ

「この鶏肉はロースト具合がいいですね」とクレアが答えれば

「あなたは鶏肉すらも黄金に変える」と返した。

「まわりに聞こえてないですよね」とクレアが言うと

「大丈夫ですよ。美味しそうに食事してる仲良しに見えるだけです」

「確かにここ、美味しいですね。デザートはどんなでしょう」




期待通りのデザートを食べるクレアを見ながらエドワードは、この幸せがずっと続くならばなにもいらないと思い、いやいや先を考えるな今を大事にと、振り絞るように思った。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】それぞれの贖罪

夢見 歩
恋愛
タグにネタバレがありますが、 作品への先入観を無くすために あらすじは書きません。 頭を空っぽにしてから 読んで頂けると嬉しいです。

元王妃は時間をさかのぼったため、今度は愛してもらえる様に、(殿下は論外)頑張るらしい。

あはははは
恋愛
本日わたくし、ユリア アーベントロートは、処刑されるそうです。 願わくは、来世は愛されて生きてみたいですね。 王妃になるために生まれ、王妃になるための血を吐くような教育にも耐えた、ユリアの真意はなんであっただろう。 わあああぁ  人々の歓声が上がる。そして王は言った。 「皆の者、悪女 ユリア アーベントロートは、処刑された!」 誰も知らない。知っていても誰も理解しない。しようとしない。彼女、ユリアの最後の言葉を。 「わたくしはただ、愛されたかっただけなのです。愛されたいと、思うことは、罪なのですか?愛されているのを見て、うらやましいと思うことは、いけないのですか?」 彼女が求めていたのは、権力でも地位でもなかった。彼女が本当に欲しかったのは、愛だった。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

本編完結 彼を追うのをやめたら、何故か幸せです。

音爽(ネソウ)
恋愛
少女プリシラには大好きな人がいる、でも適当にあしらわれ相手にして貰えない。 幼過ぎた彼女は上位騎士を目指す彼に恋慕するが、彼は口もまともに利いてくれなかった。 やがて成長したプリシラは初恋と決別することにした。 すっかり諦めた彼女は見合いをすることに…… だが、美しい乙女になった彼女に魅入られた騎士クラレンスは今更に彼女に恋をした。 二人の心は交わることがあるのか。

【本編完結】記憶をなくしたあなたへ

ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。 私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。 あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。 私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。 もう一度信じることができるのか、愛せるのか。 2人の愛を紡いでいく。 本編は6話完結です。 それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...