一年で死ぬなら

朝山みどり

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リチャード伯父

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「結婚しよう」とエドワードはかすれた声で答えた。自分の声が遠くから聞こえた。

「ありがとう。他に条件がでるかも知れないから、来週また会いましょう。その時に手続きを。それではお暇します。お茶ご馳走様」

「送っていくよ」

「けっこうですわ」

「いや、婚約者を送りたいのは当然だ」



エドワードはクレアを送り届けるとお茶でもの誘いを断り帰って行った。

クレアは窓辺に座り夜の空気を吸い込んだ。

「ねぇクレア。エドワードさんには申し訳ないけど、お金ってお詫びに変わるわよね」

クレアの微笑みは変わらなかったが、ハーブの香りは良心の呵責を和らげてくれた。




しばらくぶりに戻って来たクレアは、反省のようすもなく通された客間に座っていた。

わざと長く待たせた、姪の元にリチャードとジェーンが行くと、ティーポットとクッキーの皿をそばにのんびり本を読んでいた。

「ご無沙汰です。伯父様、伯母様お元気ですか?皆様はお元気ですか?」

「本当にご無沙汰ね。ずいぶんと迷惑をかけたみたいね」

「迷惑?誰にですか?」

「ルビーが泣いていたわ。あなたが邪魔ばかりするって」

「わたくし、ずっと不在ですわ。ご存知ですよね。いないのにどうやって邪魔するの?」

「学校で仕事をすっぽかしたって。お茶会の準備も・・・・マチルダが言っていたわ」

「生徒会の仕事は生徒会がすればいいのでは?お茶会だっていつもわたくしは役立たずって。役立たずをあてにするって」

クレアの声にはありありと馬鹿にしている響きがあって、リチャードとジェーンを戸惑わせた。

「わたくしはそんなくだらない事を話にきたのではなく」

「くだらないですって」とジェーンが言うと

「伯母様、最後まで話させて下さい。前置きがあると伯母様がうるさいので」

そう言って二人をみるとひと呼吸置いて

「わたくし、結婚しました。報告だけはして置こうと思いまして。つきましてはわたくしの口座はわたくしが管理します。書類をいただけますか?長い事管理していただいてありがとうございます」

「なに!結婚だと!!クレア落ち着け。いいかよーく落ち着くんだぞ」

「伯父様、落ち着いていますわ」

「クレア。口座ってあなた・・・・待って頂戴、クレアちゃん。結婚なんて冗談よね。クレアちゃん。口座は待って」

「待ちません。すぐに戻りたいですし。今までも随分待たされました。すぐに書類を下さい。ないのであれば伯父様抜きで手続きをします。もう出来ますしね」

「待って、クレアちゃん。口座はね。ちょっとね・・・・」

「どういうことですか?」

「いや、わたしは知らんぞ・・・いや。そうだ待ってくれ。そうだ今日は泊まって・・・」

クレアが立ち上がるとリチャードは

「待てクレア、お祝いも言ってない。おめでとうクレア。随分急だが・・・おめでとう。今度の食事会に二人でおいで。それと明日、口座の手続きをしよう」


「ありがとうございます。伯父様。明日はもっと早く参りますわ」

「あぁ待ってる」

「それでは、伯母様も」



クレアが帰った後、ジェーンはクレアの口座から少しお金を借りたとほんの少しだけだと打ち明けた。








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