一年で死ぬなら

朝山みどり

文字の大きさ
上 下
4 / 24

出ていく

しおりを挟む
クレアは部屋に戻るとノートに手紙を書き始めた。先ず、ルビーに生徒会の仕事を手伝えない事と今後レポートの作成や授業ノートを渡せない事、親戚の女子会の下準備ができないこと、刺繍のハンカチを今回は一枚も渡せない事、意地悪侍女から助けてもらった恩を全部返せない不義理も詫びておいた。

お祖母様には単純にお別れとローズを助けたい事。担任には学院を退学する事と、挨拶をせずに出ていくことを詫びた。

ローズは街の外側に住んでいる。多分三時間も馬車に乗れば着くはず。たったそれだけの距離が遠かったのだ。

馬鹿馬鹿しい、大事なものをなくす前に余命一年になってよかった。クレアは心からそう思った。


外出許可をもらったクレアは小さなカバンを持って学院をでた。先ず、洋品店に入った。応対にでた店主にハンカチを見せて自分で刺繍した物だと話し、買取してもらいたいと頼んだ。

ハンカチを見た店主は刺繍の細かさを見てとり、全部買い取った。示された金額はクレアが思ったより高かった。

その上、また持ってきて欲しいと言われて、クレアは行先に明かりが灯ったような気がした。


馬車はとても乗り心地が悪かったけど、車輪の一回り毎にローズに近づいていると思うとクレアはそれもうれしかった。


馬車を降りたクレアはローズに聞いていた通りに歩いて行った。

埃っぽい、殺風景な道を歩くクレアはそこだけ花が咲いたようだった。

やがて一軒の家の前にたったクレアは、門をあけた。


庭は荒れていて、玄関に続く小道は草におおわれていたが、裾にまつわるハーブが思いがけず香しかった。

玄関のベルを鳴らしたが、返事がなかった。ふとみると窓が開いている。クレアは迷うことなく窓からなかにはいった。

入るとすぐが台所、ドアを開けると寝室でローズが横になっていた。


「盗るもんなんてないよ」

「ローズ、私よ。私の話しを聞いてよ。一緒に過ごしましょ。会いたかった」


「もう、プリングルがここに来てはいけないわ」

「プリングルなんて言われたくないわ」

「いいえ、あなたはプリングル。骨の髄までね」

「いやだー」

「でも会えてうれしいけど、ここに来るのはよくないわ」

「平気よ。お茶入れるわ」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

本編完結 彼を追うのをやめたら、何故か幸せです。

音爽(ネソウ)
恋愛
少女プリシラには大好きな人がいる、でも適当にあしらわれ相手にして貰えない。 幼過ぎた彼女は上位騎士を目指す彼に恋慕するが、彼は口もまともに利いてくれなかった。 やがて成長したプリシラは初恋と決別することにした。 すっかり諦めた彼女は見合いをすることに…… だが、美しい乙女になった彼女に魅入られた騎士クラレンスは今更に彼女に恋をした。 二人の心は交わることがあるのか。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完結保証】第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね

ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

処理中です...