一年で死ぬなら

朝山みどり

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好きにできるよね

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いつもの動機と頭痛が始まった。呼吸が苦しくなった。無理をしないという言葉が頭に浮かんだ。

ベッドに横たわると、寝たまま制服を脱いだ。だらしなく床に落とすとそのまま目を閉じた。


ふと、目が覚めると夜中だった。あれから夕食にも行かずに眠っていたんだと気づいた。

体調は回復していた。空腹を感じて驚いた。この何年かお腹がすくという感覚がなかったから・・・・

朝までもう一眠りできそうだった、床の制服を拾いハンガーにかけ、三つ編みをほどいてブラシをかけ寝巻きに着替えた。


それからベッドにはいると目をつぶった。


空腹で目が覚めた。急いでベッドから降りると身支度を整え、食堂に急いだ。いい匂いに幸せを感じた。

スープや卵料理もお盆にいれたクレアをみると食堂のブラウンさんが目を見張ったがなにも言わなかった。

普段のクレアは小さいパンと紅茶しか食べてなかったからだ。

みているとクレアはおいしそうにスープを飲み、幸せそうに卵を食べていた。なんとなくブラウンさんはほっとした。

だいたい、この年頃の女の子は食欲があって当たり前なのだ。


クレアは教室にはいると小さな声で挨拶をしてそっと席に着いた。クラスメートは驚いた。クレアは髪を背に流していたからだ。

見事な赤い髪で、だれもが二度見、三度見した。クレアは皆の視線に気づかず、考えに耽っているようだった。

クレアは考えていたのだ。

『後一年だったら、学院はもういらないのでは?勉強はもう最後まで自習しているし、好きな事をやるんだったらここは時間の無駄だわ。やめてローズに会いに行きたい。ローズ・・・元気だよね・・・おこづかいは少しはあるし、家から持ち出すのはよくないよね・・・・バザーに出そうと刺していたハンカチがかなりあるし・・・・材料費も全部私がだして私が刺繍したんだから、私の物だよね・・・・生徒会の仕事はもともと生徒役員の仕事だよね・・・・ふさわしい物がやればいいのよ・・・・後で悪口言われたって、死ぬんだから平気だわ。そうなると早いほうがいいわね」

ずっとこれからの生活をどうするかって計画をたてていたクレアは、死ぬって素敵だと考えていた。明日が楽しみなんて思ったことがなかったのだ。


放課後、クレアは学園内のカフェテリアに行ってみた。甘い物、間食はあの侍女からきびしく禁じられていたのだ。

晩餐会の時でさえ、クレアだけがデザートをもらえなかった。年下のいとこでさえ食べているのに・・・・・お茶も禁じられているので水を飲んで皆がデザートを楽しむのをみる。こともなかった。いつも下を向いていたから・・・・

侍女の満足そうな視線を感じながら・・・・



クレアはレモンパイにするか、バウンドにするか迷ったがレモンパイを選び、隅のテーブルに座った。

初めて食べる甘い物はおいしかった。今までの人生、損をしていたと思った。あの侍女め・・・・

食堂で放課後のおしゃべりをしていた令嬢たちは、有名なクレアの変わりようにヒソヒソするのだった。



クレアは有名だった。成績優秀で美人で生徒会の重鎮のルビーの従姉妹でありながら、さえないクレアだったから。

見事に正反対なのだ。成績は落第寸前、ルビーが自分の勉強時間を使ってカバーしてその程度。課題も手伝ってもらい締切寸前にやっと提出。慈善活動のバザーへの出品も一度もやったことなし。ルビーが自分の分をクレアの物だとわけてくれてなんとかしのぐ。

派手な赤い髪なのに陰気。なのに今はつややかな髪をなびかせ堂々としている。

クレアが遠くを見つめ微笑んだ。声にならないざわめきが部屋に満ちた。





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