一年で死ぬなら

いつもの晩餐会

クレアは馬車のなかで息を詰めていた。油断するとため息がでてしまうから、お祖母様も意地悪侍女もクレアを見張っているのだ。
小言を言う機会を決して逃さないようにしているのだ。だから二人共異様に耳がいい。子供の頃自室で流行の歌を小声で歌ったのを朝食の席で注意されたほどだ。

だから息を詰めてため息がでないようにしていた。

永遠に続く苦痛な時間にも終わりが来る。馬車は伯父様の家についた。苦痛な時間第二章だ。



「クレア、学院の成績は相変わらず悪いそうですね」とリズ伯母様が話しかけた。

「お母様、このような席でそれは良くないわ。ごめんなさい、クレア。つい言ってしまったの。せっかく私が勉強を教えたのにあなたの成績が悪かったって」

従姉妹のルビーが詫びてきた。口調はしおらしいが自分の成績の良さを鼻にかけているのは丸分かりだった。

無理もないと親族一同は思った。ルビーは確かに少しばかりうぬぼれ屋だが、あの美しさと賢さを持っていたら少しばかりうぬぼれても仕方ないと親族は認めている。

明日はプリングル一族が年に一度集まる重要な日だ。一族は大勢いる。その血が流れているものはすべて一族に勘定される。流れていなくとも一族になりたがる者もいる。

そして今日は一族の主だった者が食卓を囲んでいる。


長男のリチャード・プリングル。妻のジェーン、その長男と次男、長女

長女のリズ・テイラード。その夫のヘンリー、長女のルビー、長男

次男のブライアン・プリングル。妻のマチルダ、長女、長男、次女

次女のナタリー・ホワイトは故人でその一人娘がクレア。ナタリーはクレアを産むときに亡くなり、お祖母様に引き取られた。

お祖母様の侍女のエマが四人を育てた。エマは一族の遠縁でもあり育ての親だ。

その他に目立った功績をあげた者が加わっている。初めてみる顔もいるし、顔見知りなのに初めて一族とわかった者もいる。

プリングル一族は合理的で公平だ。実力があるものは大きい顔ができる。

そのため、なにをやってもさえないクレアはこういう場では道化扱いされてしまう。

「ルビー、あと半年で卒業だがどうするつもりなんだ？」とリチャードが話しかけた。

「留学させようかと」とリズが答えた。

「まだ、学びたいとか言って」

「どこの学校なんだ？」と次男のブライアンが聞くと

「どこか、一箇所には決めずに見聞を広めるためにいろいろなところへ」とルビーが答えた。

『そうでしょうよ、あなたの実力なら』とクレアは思った。

「うちも家を継ぐ前に外国で修行させたいと思っている。息子はそれでいいが、娘はなぁ。相手が待ってくれない」

「そうですわ、やはり娘は箱入りのまま嫁がせたいと思っておりますの。それが幸せですわ」と長男妻のジェーンがリズを見ながらそう言った。

「普通のお嬢さんはそう言った平凡な結婚がいいでしょうね。広い知識がなくとも子は育ちますからね。平凡が一番ですよ」

リズがにこやかにそう言った。

ジェーンはむっとしたが、攻撃先を変更した。

「クレアは卒業したらどうするの？」

「え？はい、私は・・・」

「ジェーン伯母さま、クレアは卒業するのが大切です。その後なんて考えられませんわ。ね、クレア」

とルビーが半分笑いながら代わりに答えた。

「マチルダ叔母さま、今度、一族の女子会をしたいと思ってますの、招待状を出しますね」

「ルビー、いいわね。クレア、ちゃんとお手伝いするのよ」とマチルダはクレアを睨んだ。