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第二章 奪ってやる

07 生贄・・・その名も・・・

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カイルに誘われて、久しぶりで庭でくつろぐミリアムは、いつしかうとうとしていた。

人の気配で意識が戻ると

「おばさん、寝ちゃってるの?いい身分ね」とケティの声がした。

「ミリアム、お客さんだよ」と言うカイルの声に目を開けた。


「お邪魔してます。さん」

「よくいらっしゃいました」と答えると

「ミリアム、すまないけどお茶の用意をお願いできますか?ケティに庭を見せたいので」

「すごーーい」と言いながらケティがカイルの腕にじぶんの腕を絡ませた。

「わかったわ」とミリアムは家に戻った。

お湯の準備をすると自室へ行き、小瓶を持って台所に急いだ。

お茶のポットとカップをお盆に乗せると庭に戻った。

わざとらしいケティの声が聞こえた。

「もう、カイルひどいわーー」


ミリアムの中のなにかが切れた。ミリアムは小瓶を開けると中身をカップに入れた。


「早くお茶が冷めるわ」

「はーーい」と二人が戻って来た。

ミリアムはお茶を飲み、小さなビスケットを口にした。

ケティもビスケットをバリバリ食べながらお茶を飲んだ。

「冷めてる方がすぐ飲めていいね」と全部飲み干した。すぐにカイルがお代わりを注いだ。

それを半分ほど飲んだケティが、急に

「お腹が痛い・・・苦しい」と口を押さえて言い出した。

ガチャっとミリアムがカップを置いた。

「医者に連れて行く」とカイルはケティを横抱きにすると自動車へ急いだ。

「苦しーー」と言いながらケティはカイルの首にしがみ付いていた。

それを見送るミリアムの顔は真っ青だった。



何度か深呼吸して落ち着いたミリアムはお茶を注いで一気に飲んだ。

「しっかりしなさいミリアム。証拠を消す。出来るよね」ミリアムは自分を励ますのだった。

手の震えがおさまるまで待ってから、ポットとカップをお盆に乗せるとしっかりした足取りで家にはいった。

カップを念入りに何度も洗い、ポットも洗った。小瓶も何度もすすいだ。

それから薬の棚から頭痛薬を一本持ってくると、蓋を開け中身を半分毒薬がはいっていた小瓶に移した。

それぞれに水を足すと棚にしまった。

さっそく一本飲みたいが、カイルに飲むところを見せたほうがいい。いまは我慢・・・・・

ミリアムは寝室に行くと横になった。カイルの首に巻き付いた白い腕の映像はミリアムを眠らせなかった。



自動車が門をでるとケティが笑った。

「あの、おばさん腹痛ぐらいで真っ青になるなんてどんだけ甘えてんのよ」

「繊細な人だから」

「ほんとにお嬢さんっていうのは」

「あそこまでショックを受けるとは」とカイルが言うと顔を顰めた。それから後ろの座席に置いてあるワインを指差して、

「くすねたんだ。飲みかけだけど上等だ。お嬢様のお口に合いますよ」と笑った。

「いいね、気が利くね。あたしの口も固くなるよ。うちの父ちゃんは車の整備はきちんとする人なんだ。タイヤが吹っ飛ぶなんてまずないね。誰かがやったんだ」

「よっぽど、あの女恨まれていたのかな?」とカイルが答えると

「あたしが夜中に誰かがタイヤの所にいたと、証言したらどうなると思う?」

「どうにもならない。多分相手は大物」

「そうかな、あの繊細な人がどうなると思う?」

カイルは黙って前方を見つめた。

「あの人を部屋に閉じ込めたらあんたとあたしで、あの家好きにできるんじゃ?」

自動車を路肩に止めると

「いいね、思ったより悪くていい女だ」

「あんたもね」

「近くまで送ったら一度帰るわ。様子を確認しとくわ」

「それがいいかも、今晩待ってるから」

「あぁ眠らせてから行くよ」

二人はそれぞれの思いを胸に黙った。

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