14 / 17
第14話 チャラチャラした男
しおりを挟む
ミツジことミツジロウはカモを探している。最近、江戸を騒がす盗賊が、カモを賭場で見つけているとうわさが立って取締が強化されてやりにくかったが、そっち方面の疑いが晴れて最近はカモが増えて来た。お頭が言った通り博打はなくならない。次の仕事を最後にするとお頭が言っている以上半端なカモはいらない。
ミツジは軽口で相手を笑わせながら付け入るスキを探す。
最初は簡単だった。飲み屋で同郷だと言って飲ませて酔わせて、酔ったふりをすれば気のいいやつが連れて帰ってくれた。それが思ったより大店だった。翌朝お礼を言って店をでたがしばらくしてもう一度泊まり、仲間を引き入れた。
浅生屋のときはあの手代が賭場に来たのだ。聞くと家を継いだ兄が博打に手を出して妹を売ると聞いて救うために仲間から金を借りてやって来たとか。
「いい仲間だな」と話しかけたら浅生屋の手代だとわかった。
一度おけらになった男にミツジは金を貸した。
「俺は妹を助けられなかった。兄貴は助けてやってくれ」と言って。
手代は見事に勝ったが、勝ちすぎて渡すお金が足りなかった。
「兄貴、残りは俺が届ける。すぐにこれを届けて家族を安心させてやってくれ」とミツジは手代を帰した。
それからミツジは巾着に入れた金を手代に届けた。
博打の金を届けたミツジを手代と、手代から話を聞いた仲間は信用した。
そしてあの日、追われていると言った傷だらけのミツジを、手代は部屋に匿ってくれた。その夜ミツジは盗賊仲間を引き込んだ。
『しかし、カモがいねぇなぁ』と歩いていると綺麗な娘としゃきっとした年増と小僧さんが連れ立って歩いている。
ミツジはうっかり見惚れてしまい
「おっとすまねぇ」とぶつかった相手に謝った。
「おう、綺麗な姉ちゃんがいたんじゃ仕方ないな」と相手は笑った。
「すまねぇ」と手で拝んであたりを見ながら歩いた。
この先は小間物屋の大店「美也子屋」がある。手代とぶつかってみるかなと裏に回ると女中がひとり出て来た。裏の小さな神社に入ると社殿の階段に座って泣いていた。
「おや、嬢ちゃん邪魔したかい」と物音を聞いて顔をあげた女中に話しかけた。思った通り女は泣いていたようだ。
「ほお嬢ちゃんは泣いても美人だ。得だね」とミツジは言うと
「折角、美人を見つけたんだ。名乗っておこう。俺はミツジロウってんだ。ミツジと呼んでくれ。いいね、これも神社のご利益かね。拝んでおくか」とミツジは柏手を打つと
「神様ありがとうございます。ご利益があると言いふらします」と大声で言った。
おもわずシズはふっと笑った。
「笑うともっと美人だね」と言ったあとで芝居気たっぷりに
「しまった。美人を慰める役得をみすみす逃した。娘さんもう一回泣いて」と言った。
シズはたまらず吹き出した。
「よかった、ほんとに笑ってくれた。おっと時間だ。これでも忙しいのよ。またね。美人の嬢ちゃん」と言うとミツジはさっさと歩き去った。
ミツジが歩み去る後ろ姿を別の娘が見送っていた。半泣きで飛び出したシズを慰めようと追ってきたキヨだ。キヨはミツジのことを見知っていた。軽そうな見た目ながら正義感が強いのを知っている。
どこかの小僧さんがなんくせをつけられているのを助けたところを見たことがあるのだ。泣いていた小僧さんを優しく慰めていた。その人がシズを慰めて美人さんと言っていたのだ。キヨはシズが羨ましくて少し妬けた。
通りにでたミツジは『おや』と思った。
先ほどの小僧が歩いていたのだ。なにやら大事に捧げ持っている。なんだろうと思ったが、横目で見ながらすれ違った。
カモが見つかるまで、さっきの娘と遊んでみるかとミツジはもう一度偶然会うにはどうしたらいいかと考えた。
ミツジは軽口で相手を笑わせながら付け入るスキを探す。
最初は簡単だった。飲み屋で同郷だと言って飲ませて酔わせて、酔ったふりをすれば気のいいやつが連れて帰ってくれた。それが思ったより大店だった。翌朝お礼を言って店をでたがしばらくしてもう一度泊まり、仲間を引き入れた。
浅生屋のときはあの手代が賭場に来たのだ。聞くと家を継いだ兄が博打に手を出して妹を売ると聞いて救うために仲間から金を借りてやって来たとか。
「いい仲間だな」と話しかけたら浅生屋の手代だとわかった。
一度おけらになった男にミツジは金を貸した。
「俺は妹を助けられなかった。兄貴は助けてやってくれ」と言って。
手代は見事に勝ったが、勝ちすぎて渡すお金が足りなかった。
「兄貴、残りは俺が届ける。すぐにこれを届けて家族を安心させてやってくれ」とミツジは手代を帰した。
それからミツジは巾着に入れた金を手代に届けた。
博打の金を届けたミツジを手代と、手代から話を聞いた仲間は信用した。
そしてあの日、追われていると言った傷だらけのミツジを、手代は部屋に匿ってくれた。その夜ミツジは盗賊仲間を引き込んだ。
『しかし、カモがいねぇなぁ』と歩いていると綺麗な娘としゃきっとした年増と小僧さんが連れ立って歩いている。
ミツジはうっかり見惚れてしまい
「おっとすまねぇ」とぶつかった相手に謝った。
「おう、綺麗な姉ちゃんがいたんじゃ仕方ないな」と相手は笑った。
「すまねぇ」と手で拝んであたりを見ながら歩いた。
この先は小間物屋の大店「美也子屋」がある。手代とぶつかってみるかなと裏に回ると女中がひとり出て来た。裏の小さな神社に入ると社殿の階段に座って泣いていた。
「おや、嬢ちゃん邪魔したかい」と物音を聞いて顔をあげた女中に話しかけた。思った通り女は泣いていたようだ。
「ほお嬢ちゃんは泣いても美人だ。得だね」とミツジは言うと
「折角、美人を見つけたんだ。名乗っておこう。俺はミツジロウってんだ。ミツジと呼んでくれ。いいね、これも神社のご利益かね。拝んでおくか」とミツジは柏手を打つと
「神様ありがとうございます。ご利益があると言いふらします」と大声で言った。
おもわずシズはふっと笑った。
「笑うともっと美人だね」と言ったあとで芝居気たっぷりに
「しまった。美人を慰める役得をみすみす逃した。娘さんもう一回泣いて」と言った。
シズはたまらず吹き出した。
「よかった、ほんとに笑ってくれた。おっと時間だ。これでも忙しいのよ。またね。美人の嬢ちゃん」と言うとミツジはさっさと歩き去った。
ミツジが歩み去る後ろ姿を別の娘が見送っていた。半泣きで飛び出したシズを慰めようと追ってきたキヨだ。キヨはミツジのことを見知っていた。軽そうな見た目ながら正義感が強いのを知っている。
どこかの小僧さんがなんくせをつけられているのを助けたところを見たことがあるのだ。泣いていた小僧さんを優しく慰めていた。その人がシズを慰めて美人さんと言っていたのだ。キヨはシズが羨ましくて少し妬けた。
通りにでたミツジは『おや』と思った。
先ほどの小僧が歩いていたのだ。なにやら大事に捧げ持っている。なんだろうと思ったが、横目で見ながらすれ違った。
カモが見つかるまで、さっきの娘と遊んでみるかとミツジはもう一度偶然会うにはどうしたらいいかと考えた。
9
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

金蝶の武者
ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。
関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。
小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。
御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。
「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」
春虎は嘆いた。
金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──
空蝉
横山美香
歴史・時代
薩摩藩島津家の分家の娘として生まれながら、将軍家御台所となった天璋院篤姫。孝明天皇の妹という高貴な生まれから、第十四代将軍・徳川家定の妻となった和宮親子内親王。
二人の女性と二組の夫婦の恋と人生の物語です。

本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
拾われ子だって、姫なのです!
田古みゆう
歴史・時代
南蛮人、南蛮人って。わたくしはれっきとした倭人よ!
お江戸の町で与力をしている井上正道と、部下の高山小十郎は、二人の赤子をそれぞれ引き取り、千代と太郎と名付け育てることに。
月日は流れ、二人の赤子はすくすくと成長した。見目麗しい姿と珍しい青眼を持つため、周囲からは奇異の眼で見られる。こそこそと噂をされるたび、千代は自分は一体何者なのだろうかと、自身の出自について悩んでいた。唯一同じ青眼を持つ太郎と悩みを分かち合おうにも、何かを知っていそうな太郎はあまり多くを語らない。それがまた千代を悶々とさせていた。
そんな千代を周囲の者は遠巻きに見ながらも、その麗しさに心奪われる者は多く、やがて年頃の千代にも縁談話が持ち上がる。
しかし、当の千代はそんなことには興味がなく。寄ってくる男を、口八丁手八丁で退けてばかり。
果たして勝気な姫様の心を射止める者が、このお江戸にいるのかっ!?
痛快求婚譚、これよりはじまりはじまり〜♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる