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第4話 坊ちゃんとの交流
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翌日、父は匂い袋と薬草を持って出かけた。
千夏は去年着ていた袖も丈も短くなった着物をさらに裾短かに着付けて、草むしりをした。すると突然
「千夏殿、おはようございます」と声をかけられた。生垣の向こうに順三郎が立っていた。
「おはようございます」と千夏も挨拶を返したが、小さくて短い上に、色もあせている着物を着ていることが恥ずかしくて、顔が熱くなった。
順三郎はにこにこと
「千夏殿。草むしりとは、感心ですね。うちの庭はもうただの草原なので、むしる気にもなりません。お父上はもうお出かけですか?」とのんびりと話して来る。
「はい、もう出かけました」
「それは熱心な生徒さんですね。わたしなぞ・・・とうてい無理ですね」と優しく笑いかけて来る。そこに
「坊ちゃん?どちらですか?早く支度を」と六三が呼びに来た。
「あっ千夏様おはようございます。早くから・・・お疲れ様です。さっこちらへ」と後半は順三郎に声をかけて六三は急いで歩いて行った。
表六玉とか六三とか、碌でもない?いや、あるんだ、六が・・・千夏は自分の思いつきがおかしくて少し笑った。
トセが声をかけて来るまで、千夏は薬草の手入れにせいを出した。
午後、千夏が去年着ていた単衣を全部、洗い張りして縫い直そうかと取り出して見ていると、
「お嬢さん、それは全部処分していいですよ。もうお母様のを着ていいですし、お嬢さんも年頃。いつも小奇麗にしていましょう。そういうのは贅沢といいませんよ。旦那様ともお話しましたし」とトセは言うと着物をさっさと畳んで風呂敷で包んだ。
「お祖父様がお嬢さんのお婿さんを一生懸命探していますよ。気のいい三男坊あたりがいいですよね。窮屈なのはいやですよ」とトセが言うのを
「なによ、トセが嫁ぐみたいに」と笑うと
「お嬢さんなにを言ってるんですか?ついていくわたしとしては重大ですよ」とトセが真剣に言った。
「え?なに?トセ。ついてくるって?」
「え?お嬢さん。わたしは・・・いらないのですか?」
「トセはお嫁に行かないの?」と千夏が言うと
「行きませんよ。年増に貰い手はありません」
「トセは大丈夫」と千夏が言うと
「いやですよ。お嬢さん。わたしはずっとお嬢さんのそばにおります」とトセが言うと
「嬉しいけど・・・トセ。わたしもお嫁に行くのはちょっと・・・」
「なに言ってるんですか?お嬢さん。それは気になる殿方にまだ巡り合ってないからですよ」
「でも好きな人に嫁げる人はあまり・・・」
「お嬢さんが嫁ぎたいと言えば、お祖父様が全力で後押しをしますし、旦那様もこっそり手をうちますよ。安心して下さい」と真面目な顔で言った。この言い方だと嫁入りと言うのがはなにやら物騒な出来事のように聞こえる。トセはさらりとそういうと続いて
「そこでですね、お嬢さんは着飾ってすごして下さい。これはって言うお方に会ったときに色あせた着物だといやでございましょう」とトセに言われると千夏もそうだなぁと思った。そして先ほどの姿を順三郎が忘れてくれるといいなと思った。
「そこでね、お嬢さん。辛気臭い薬草園の手入ればかりじゃなく、おしゃれして町を歩きましょう。着物も何枚かあつらえましょう」とトセが言った。
「明日、二人で買い物に行きましょう」
「えーーと旦那様は明日、法事の手配のお手伝いですね・・・あぁおれはお寺の住職さんが交代したところですよ」とトセが言うのを聞いて
「え?お手伝いって住職さんのお手伝い?」と千夏がちょっと呆れて言うと
「そうなんですよ」とトセも少し笑って答えたが
「お父様にそんなことが出来るとは・・・」と千夏の戸惑いは続いたが
「出来るんでしょうね。指南が」とトセも自分に言い聞かせるように答えた。
「奥様はシゲ子さんが付き添ってお出かけでしょうから・・・シゲ子さんには一応言っておきましょうかね」とトセは話は決まったと席を立った。
夕方、いい匂いが染み付いた旦那様にトセはすぐに風呂をすすめた。
「お父様、お仕事が忙しいですね。お坊様のお手伝いだなんてなんだか、恐れおおいような、おかしいような」と言うと
「そうだな、明日は線香臭くなりそうだ・・・あっ千夏、また一句を少し考えておいておくれ・・・四・五人かな?入門するみたいだから・・・なんか俳句の先生になれそうな気がして来たよ。
『星流れ 夜を桜が 染め上げる』って素人ぽくていいだろう。桜は終わるが素人が一句ってときは桜だよ」
「盛りだくさんですね」と千夏が答えると
「勉強してきましたって、感じがでてるだろ」と父が言うのを
「確かに、口調としては『星流る』の方が好みですけど・・・入門者ですね」と千夏が受けた。
「もっと季節が行くと『星流る 夜が桜を 舞散らせ』とかどうですか?」とトセが言うと
「朧月 桜ひとひら 夜を行く」「我が吾子が 見上げる小枝 そこに一輪」あぁ字余り過ぎどうにかしたい」と千夏はぶつぶつとつぶやき
「『我が吾子が 見上げるそこに ただ一輪』これも・・・『我が吾子が 見上げるそこに ただ桜』これだと平凡・・・」と相変わらずぶつぶつ言う千夏に
「素人の作品だから・・・でも二人ともありがとだ。明日に備えてもう寝る」
「「おやすみなさいませ」」と二人は声を揃えて挨拶をした。
「『我が吾子が 見上げる一輪 そこに春』何故?吾子が出るの?」と布団の中でも一句ひねっていた千夏は思ったが、すぐに押し寄せた眠りに飲まれてしまった。
その夜、隣家を伺う気配を感じたが、目標は隣家。気にせずまた目を閉じた。
千夏は去年着ていた袖も丈も短くなった着物をさらに裾短かに着付けて、草むしりをした。すると突然
「千夏殿、おはようございます」と声をかけられた。生垣の向こうに順三郎が立っていた。
「おはようございます」と千夏も挨拶を返したが、小さくて短い上に、色もあせている着物を着ていることが恥ずかしくて、顔が熱くなった。
順三郎はにこにこと
「千夏殿。草むしりとは、感心ですね。うちの庭はもうただの草原なので、むしる気にもなりません。お父上はもうお出かけですか?」とのんびりと話して来る。
「はい、もう出かけました」
「それは熱心な生徒さんですね。わたしなぞ・・・とうてい無理ですね」と優しく笑いかけて来る。そこに
「坊ちゃん?どちらですか?早く支度を」と六三が呼びに来た。
「あっ千夏様おはようございます。早くから・・・お疲れ様です。さっこちらへ」と後半は順三郎に声をかけて六三は急いで歩いて行った。
表六玉とか六三とか、碌でもない?いや、あるんだ、六が・・・千夏は自分の思いつきがおかしくて少し笑った。
トセが声をかけて来るまで、千夏は薬草の手入れにせいを出した。
午後、千夏が去年着ていた単衣を全部、洗い張りして縫い直そうかと取り出して見ていると、
「お嬢さん、それは全部処分していいですよ。もうお母様のを着ていいですし、お嬢さんも年頃。いつも小奇麗にしていましょう。そういうのは贅沢といいませんよ。旦那様ともお話しましたし」とトセは言うと着物をさっさと畳んで風呂敷で包んだ。
「お祖父様がお嬢さんのお婿さんを一生懸命探していますよ。気のいい三男坊あたりがいいですよね。窮屈なのはいやですよ」とトセが言うのを
「なによ、トセが嫁ぐみたいに」と笑うと
「お嬢さんなにを言ってるんですか?ついていくわたしとしては重大ですよ」とトセが真剣に言った。
「え?なに?トセ。ついてくるって?」
「え?お嬢さん。わたしは・・・いらないのですか?」
「トセはお嫁に行かないの?」と千夏が言うと
「行きませんよ。年増に貰い手はありません」
「トセは大丈夫」と千夏が言うと
「いやですよ。お嬢さん。わたしはずっとお嬢さんのそばにおります」とトセが言うと
「嬉しいけど・・・トセ。わたしもお嫁に行くのはちょっと・・・」
「なに言ってるんですか?お嬢さん。それは気になる殿方にまだ巡り合ってないからですよ」
「でも好きな人に嫁げる人はあまり・・・」
「お嬢さんが嫁ぎたいと言えば、お祖父様が全力で後押しをしますし、旦那様もこっそり手をうちますよ。安心して下さい」と真面目な顔で言った。この言い方だと嫁入りと言うのがはなにやら物騒な出来事のように聞こえる。トセはさらりとそういうと続いて
「そこでですね、お嬢さんは着飾ってすごして下さい。これはって言うお方に会ったときに色あせた着物だといやでございましょう」とトセに言われると千夏もそうだなぁと思った。そして先ほどの姿を順三郎が忘れてくれるといいなと思った。
「そこでね、お嬢さん。辛気臭い薬草園の手入ればかりじゃなく、おしゃれして町を歩きましょう。着物も何枚かあつらえましょう」とトセが言った。
「明日、二人で買い物に行きましょう」
「えーーと旦那様は明日、法事の手配のお手伝いですね・・・あぁおれはお寺の住職さんが交代したところですよ」とトセが言うのを聞いて
「え?お手伝いって住職さんのお手伝い?」と千夏がちょっと呆れて言うと
「そうなんですよ」とトセも少し笑って答えたが
「お父様にそんなことが出来るとは・・・」と千夏の戸惑いは続いたが
「出来るんでしょうね。指南が」とトセも自分に言い聞かせるように答えた。
「奥様はシゲ子さんが付き添ってお出かけでしょうから・・・シゲ子さんには一応言っておきましょうかね」とトセは話は決まったと席を立った。
夕方、いい匂いが染み付いた旦那様にトセはすぐに風呂をすすめた。
「お父様、お仕事が忙しいですね。お坊様のお手伝いだなんてなんだか、恐れおおいような、おかしいような」と言うと
「そうだな、明日は線香臭くなりそうだ・・・あっ千夏、また一句を少し考えておいておくれ・・・四・五人かな?入門するみたいだから・・・なんか俳句の先生になれそうな気がして来たよ。
『星流れ 夜を桜が 染め上げる』って素人ぽくていいだろう。桜は終わるが素人が一句ってときは桜だよ」
「盛りだくさんですね」と千夏が答えると
「勉強してきましたって、感じがでてるだろ」と父が言うのを
「確かに、口調としては『星流る』の方が好みですけど・・・入門者ですね」と千夏が受けた。
「もっと季節が行くと『星流る 夜が桜を 舞散らせ』とかどうですか?」とトセが言うと
「朧月 桜ひとひら 夜を行く」「我が吾子が 見上げる小枝 そこに一輪」あぁ字余り過ぎどうにかしたい」と千夏はぶつぶつとつぶやき
「『我が吾子が 見上げるそこに ただ一輪』これも・・・『我が吾子が 見上げるそこに ただ桜』これだと平凡・・・」と相変わらずぶつぶつ言う千夏に
「素人の作品だから・・・でも二人ともありがとだ。明日に備えてもう寝る」
「「おやすみなさいませ」」と二人は声を揃えて挨拶をした。
「『我が吾子が 見上げる一輪 そこに春』何故?吾子が出るの?」と布団の中でも一句ひねっていた千夏は思ったが、すぐに押し寄せた眠りに飲まれてしまった。
その夜、隣家を伺う気配を感じたが、目標は隣家。気にせずまた目を閉じた。
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