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第3話 幼馴染のキヨちゃん
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千夏が薬草の手入れをしていると、なにやらお隣りの話し声が聞こえて来た。
ちょっと迷ったが、その場で耳をすました。
「こんなに草ぼうぼうで」
「秋になったら枯れるではないか?」
「そういうわけには第一、お隣りに迷惑をかけます」
「そうかぁ」
「そうです。本宅にちょっとお願いしましょう」
「それは、決まりが悪い。六三がなんとかしろ」
「無理ですよ。家の掃除もありますからね。だいたいどうしてこうなったんですか?」
「・・・・」
「ほんとに、わたしは貧乏くじですよ」
「悪い」
「悪いと思うなら」このあたりで家に入ったのか声が聞こえなくなった。
千夏は隣りから見えないとわかっていても、なんとなく頭を下げて、小さくなって家に入った。
自分の部屋に戻ると衣桁にかけてある着物を見た。お母様の若い頃の着物だ。ちょっと丈が短いが、腰紐を低いところで結べば問題ない。明日千夏はこれを着て、幼馴染のキヨちゃんと遊びに行く。と言うのもキヨちゃんは小間物の大店へ行儀見習いに行くのが決まったのだ。そうすると今までのように自由に会えなくなる。寂しいがキヨちゃんの門出だ。お祝いに千夏は自分で刺繍をした半衿を用意した。
これを渡して、キヨちゃんが働く小間物屋を見に行くつもりだ。
キヨちゃんのうちは小さな小間物屋で、千夏は遊びに行ってそこのお店を見るのが好きだった。
子供のころお父様とお母様はそんな千夏を見ていたのか
「千夏の好きなものを買おう」小間物屋に一緒に行ったことがある。
千夏はそこで簪を選んだ。キヨちゃんのお母さんの意見を参考にして一本選んだ。
簪の珊瑚は真っ赤ではなく桃色で、その色合いが少女の千夏によく似合った。
その簪を差してお気に入りの着物と帯を身につけた千夏はキヨと二人で、町へ繰り出した。まずお店の見学だ。見学と言っても遠くからそっと見るだけだが・・・
「ほら、あの店」とキヨちゃんが指さした店は、広い間口だった。着飾った女たちが、おともの小間使いや中間を連れてどんどん中に入って行く。
「はぁすごいね。あそこに入る着物や簪がいるね」と千夏が言うと
「そうだよね。だけど千夏ちゃんはあそこで買い物してる人に引けを取らないよ。その着物を着てると天女様みたいに見える。それ、すごくいい着物だよね。ねぇ千夏ちゃん。行儀見習いって言ってもね、殆ど下働きなんよ。だけどいい物をみると目が出来るって母さんが、伝手を頼ってくれたんだ。」とキヨが寂しげにでも誇らしげに言った。
キヨは思っていた。
『もう、千夏ちゃんとわたしは身分が違う。気がついたの。その簪も千夏ちゃんにはもう合わない。千夏ちゃんはもっと豪華なものを買えるし似合うよ。お店に入ったら番頭さんが飛んで行って精一杯相手をすると思うよ。千夏ちゃん仲良くしてくれてありがとう』
千夏は花のように笑って
「そう?ふふありがとう。いつか入って見たいな。だけどキヨちゃんはお客さんと上手に話ができるから、案外お店で重宝がられるかも」と言った。
キヨはちょっと恥ずかしそうに
「うん、そうなるといいなって、思ってる」と答えた。すると
「うん、そうなると思ってる」と千夏も答えた。
二人はそこから引き返し、いつも飲んでる甘酒の店に入った。
「美味しい。甘酒はここが一番ね」とキヨが言うと千夏は
「そう思う。キヨちゃんここが近いお店で良かったね」と冗談めかして言うと
「そうね」とキヨも笑って答えた。
家に戻ると珍しく父が、家にいて出迎えてくれた。ちょっと寂しかった千夏は父の顔を見ると少し元気になった。
「今日は早く終わったからな」と父は言いながら千夏の着物を見て
「千代の着物を着られるようになったんだな」と言った。
「お似合いになりますね。でも今の流行りもあっていいのではありませんか?」とお茶を入れていたトセが言った。
「そうだな、トセ頼む」と父は言うと饅頭を二つに割って口に入れた。
ちょっと迷ったが、その場で耳をすました。
「こんなに草ぼうぼうで」
「秋になったら枯れるではないか?」
「そういうわけには第一、お隣りに迷惑をかけます」
「そうかぁ」
「そうです。本宅にちょっとお願いしましょう」
「それは、決まりが悪い。六三がなんとかしろ」
「無理ですよ。家の掃除もありますからね。だいたいどうしてこうなったんですか?」
「・・・・」
「ほんとに、わたしは貧乏くじですよ」
「悪い」
「悪いと思うなら」このあたりで家に入ったのか声が聞こえなくなった。
千夏は隣りから見えないとわかっていても、なんとなく頭を下げて、小さくなって家に入った。
自分の部屋に戻ると衣桁にかけてある着物を見た。お母様の若い頃の着物だ。ちょっと丈が短いが、腰紐を低いところで結べば問題ない。明日千夏はこれを着て、幼馴染のキヨちゃんと遊びに行く。と言うのもキヨちゃんは小間物の大店へ行儀見習いに行くのが決まったのだ。そうすると今までのように自由に会えなくなる。寂しいがキヨちゃんの門出だ。お祝いに千夏は自分で刺繍をした半衿を用意した。
これを渡して、キヨちゃんが働く小間物屋を見に行くつもりだ。
キヨちゃんのうちは小さな小間物屋で、千夏は遊びに行ってそこのお店を見るのが好きだった。
子供のころお父様とお母様はそんな千夏を見ていたのか
「千夏の好きなものを買おう」小間物屋に一緒に行ったことがある。
千夏はそこで簪を選んだ。キヨちゃんのお母さんの意見を参考にして一本選んだ。
簪の珊瑚は真っ赤ではなく桃色で、その色合いが少女の千夏によく似合った。
その簪を差してお気に入りの着物と帯を身につけた千夏はキヨと二人で、町へ繰り出した。まずお店の見学だ。見学と言っても遠くからそっと見るだけだが・・・
「ほら、あの店」とキヨちゃんが指さした店は、広い間口だった。着飾った女たちが、おともの小間使いや中間を連れてどんどん中に入って行く。
「はぁすごいね。あそこに入る着物や簪がいるね」と千夏が言うと
「そうだよね。だけど千夏ちゃんはあそこで買い物してる人に引けを取らないよ。その着物を着てると天女様みたいに見える。それ、すごくいい着物だよね。ねぇ千夏ちゃん。行儀見習いって言ってもね、殆ど下働きなんよ。だけどいい物をみると目が出来るって母さんが、伝手を頼ってくれたんだ。」とキヨが寂しげにでも誇らしげに言った。
キヨは思っていた。
『もう、千夏ちゃんとわたしは身分が違う。気がついたの。その簪も千夏ちゃんにはもう合わない。千夏ちゃんはもっと豪華なものを買えるし似合うよ。お店に入ったら番頭さんが飛んで行って精一杯相手をすると思うよ。千夏ちゃん仲良くしてくれてありがとう』
千夏は花のように笑って
「そう?ふふありがとう。いつか入って見たいな。だけどキヨちゃんはお客さんと上手に話ができるから、案外お店で重宝がられるかも」と言った。
キヨはちょっと恥ずかしそうに
「うん、そうなるといいなって、思ってる」と答えた。すると
「うん、そうなると思ってる」と千夏も答えた。
二人はそこから引き返し、いつも飲んでる甘酒の店に入った。
「美味しい。甘酒はここが一番ね」とキヨが言うと千夏は
「そう思う。キヨちゃんここが近いお店で良かったね」と冗談めかして言うと
「そうね」とキヨも笑って答えた。
家に戻ると珍しく父が、家にいて出迎えてくれた。ちょっと寂しかった千夏は父の顔を見ると少し元気になった。
「今日は早く終わったからな」と父は言いながら千夏の着物を見て
「千代の着物を着られるようになったんだな」と言った。
「お似合いになりますね。でも今の流行りもあっていいのではありませんか?」とお茶を入れていたトセが言った。
「そうだな、トセ頼む」と父は言うと饅頭を二つに割って口に入れた。
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