お江戸を指南所

朝山みどり

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第2話 お隣りさん

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千夏が、草むしりをしていると、頭の上で人の声がした。
「おはようございます。いや、こんにちは?はじめまして!隣りに越して来た者です。そこは畑ですか?」
千夏は立ち上がるとお隣りさんに近づき
「はい、薬草畑です」と答えてはっと気がついて
「はじめまして」と頭を下げた。
「薬草ですか!」返して、気がついたように
「それではそちら様はお医者様ですか?」と聞いた。
「いいえ、これは薬ではなく・・・うーーんと匂い袋の中身です」
「匂い袋ですか?」といろいろ腑に落ちない風で返事が返ってくる。そう説明できない。だから得体の知れないとお祖父様に言われてしまうのだ。
「こんな所で挨拶もなんですが」とお隣りさんが改まったところへ
「坊ちゃん!坊ちゃんどこですか?さぼってますね」と声がした。あちゃって顔になったお隣りさんのところへ男がやって来た。

二人の様子をみてとった男はついっと近寄って来ると
「わたくしどもは、お隣に越して参りました。主は霧山順三郎。わたくしは六三ろくぞうと申します」
「はい・・・わたしは千夏と申します」と千夏が頭を下げると
「はい、あらためて挨拶にあがります」と六三も答えた。
「千夏殿、お隣りとして今後共よろしくお願いいたします」と順三郎は丁寧に言うと六三にうながされて去って行った。



お父様は、今日はお供を連れて帰って来た。
なにやら、いい鯛が手に入ったと言うことで刺身の乗った皿を持ったお供だ。
男は玄関口にそれを置くと茶の誘いを断り帰ろうとしたので、あり合わせの饅頭を持たせて帰した。これはトセが近所のお菓子屋で買って来たものだ。トセはこの饅頭が好きでよく買ってくる。確かに美味しいと千夏も思う。

その日は皆で、鯛の刺身をたくさん食べた。なんでも今日、囲碁を教えに行った家に行儀見習いに入った娘さんの実家が網元だとかで、たくさん魚を届けに来たということだとか。なんとなく千夏はお隣りとお近づきになったことをいいそびれてしまった。

千夏はあら炊きがおいしくてごはんのおかわりをした。おなかが一杯で眠くなったが、日記には隣りの坊ちゃんとお話が出来たこと。六が増えたこととやっぱり鯛は美味しいと書いた。網元はいいなぁと思っていると眠っていた。


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