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カーメル商会

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翌朝、寮の前でバージルが待っていた。

「おはよう。フレデリック」

「おはよう、毎度あり」

「フレデリック、あの付与だけど、うちと専属契約してもらいたい」

「専属ですか」

「あぁ手数料ははずむ」

「助かります。お金がないんで」

「午後うちから人が来るから会ってもらえるか?」

「いいですよ」


授業が終わると待ちかねていたバージルによって、食堂の個室へ案内された。

そこにはバージルの父君のカーメル侯爵とその関係者がいた。

「初めまして、フレデリックです」

貴族の挨拶としては不完全だが、俺は平民だ。フレデリックは伯爵家で貴族としての教育は一切受けていないのだ。だからこの対応が正しい。前世があるだろって?前世では挨拶される側だ。

「ブルークリフの余り物と聞いているが、その態度はなんだ」と赤毛を刈り込んだ男が言った。

バージルが口を開きかけたので、俺は急いで言った。

「契約の話しと聞いたのだが、お作法の時間なのか。受ける気はない。バージル連絡ミスを避難する気はない。ないが今日は商売をしなかった分、実入りが減った。気をつけて欲しい」

とドアに向かうと

「フレデリック、すまん。待ってくれ。スカール。控えてくれ」とバージルが俺を引き止めた。

「ブルークリフ殿、失礼した。契約相手に無礼をするとは当方の不手際だ。すぐに契約の話をして良いか?」

俺はスカールとバージル、カーメル侯爵を見回して

「お願いします」と椅子に座った。

すぐにカーメル侯爵が口を開いた。

「バージルから連絡が来て、すぐに服を回収して調べた。我が家の付与魔術士が驚いていた。この夏が終わるまで続きそうだと言っているが・・・・・」

「期間に関しては今の時点で証明することはできませんね。自信はありますが・・・・看板にはこの学期が終わるまでと書きましたが、いちゃもんが面倒だったので夏が終わるまでにしました。えっと俺のうわさはご存知だと・・・・」

「あぁ不可解なうわさだ。魔力なしとは・・・・」

「看板のこともこの付与も魔力なしにできることではない」

「伯爵家の基準では俺は『魔力なし』です。そして先日、勘当、廃嫡の手続きが終わったと連絡が来ました」

「・・・・勘当・・・・・」と侯爵が呟いた。

「契約ということですが、条件とか金額を」

「あぁこれを」とバージルが差し出した書類を受け取り、隅まで読んだ。面倒だ・・・前世ではラムがすべてやってくれていたから・・・・・こんなことをやってくれていたのか・・・・

なるほど、上着ではなく肌着にかけるのか・・・・・一着に冷感と浄化をかけて、銀貨十枚。俺は一枚でいいが十枚か・・・それを千着

付与の効力は夏の休暇が終わるまで。洗濯しても効力は持続とはっきりと記載するように言った。

俺が自分で販売するのはなし・・・・ふむふむ・・・・追加の場合は話し合いで・・・・

特例として俺は気が向いた時に誰かの上着、または肌着に付与をするのは自由。手数料をもらうのも自由と入れた。

それとなにより大切な事。俺の事は秘密だ。これは誓約書をここにいる者全員に書いて貰い、商会とも誓約書を交わした。

金貨百枚か・・・・・先方の効力が休暇中に切れたら、半額を返還というのは断った。自信があるし、面倒ないちゃもんをつけられても面倒だから・・・駄目なら食堂まえの商売を続ければいいし・・・

俺としては契約はしてもしなくても変わりがない。金を全然もってないけど、そんなにたくさんもいらない。必要分があればそれでいいのだ。


それと肌への影響については一切関係ないというのも入れてもらう。ちょっと気になることがあるんだよね。だから事前にいれてもらった。


「今晩、検討して明日でもいいよ。もう帰るね」と俺は焼き菓子を食べながらお茶のおかわりを自分で注いで飲み干すと立ち上がった。

「いえ・・・すぐに・・・」ということで俺は腰を下ろした。


さて、前金で金貨五十枚もらい、明日ここで付与をすると決めた。

顧客サービスとして、ここにいる全員の服に浄化を希望者には冷感をかけた。

迷っていた者も、結局希望したので、冷感も全員にかけた。冷感がいやなら着替えればいいんだしね・・・・

侯爵の商会はいくらで売り出す、つもりなのだろうか?




当面の金の問題が片付いた俺は心も足取りも軽く寮に戻ろうとしたが、へんなやつらに取り囲まれてしまった。

「お前、『魔力なし』の『余り物』の分際で、でかい顔して歩き回るな」

「お前が外にいるのでエドワードは怖がっているんだ」

「お兄様・・・・」

お兄様と言われて心当たりがなくて一人、一人の顔を見て行った。くそ・・・全員俺より背が高いから見上げることになる。地味に首が疲れるぜ・・・・

すると驚いたことにエドワードがいた。こいつに「お兄様」と呼ばれるとは・・・・こいつどうかしたんだろうか?


「エドワード、俺のことをお兄様とか呼ぶとはどうしたんだ。調子悪いのか?頭か?伯爵家にいた頃は『魔力なし』とか『余り物』と呼んでいただろそれに俺が勘当された事は知ってるだろ。もともと血は半分しか繋がっていない。お前の母親は俺の母親が生きているうちにお前の父親と乳繰り合ってお前を生んだだろ」

「貴様、ふざけるな」と赤毛が言うので、

「真面目です」と礼儀正しく答えた。

「お前、エドワードにいやがらせをしているそうだな」

「伝聞だけを元に意見を言うのは悪手ですよ」

と茶色の髪の男に教えてあげた。

「いい加減にしろ」

「もちろん、ほどよい加減です」と顎をつきだして答えた。

「しかし、エドワード、お前以外と背が高いんだな。俺は普段はいつくばって草むしりだの床磨きだのやっていたから、お前の靴の先しか見なかったから知らなかったぞ。俺なんか、ろくに飯食わせて貰わなかったから成長してないぜ。学院は食堂があるからいいけどな」

「うそをつくな」と赤毛が言うので

「うそとはどの部分を指してますか?」

「全部だ」

「え??エドワードは俺より背が高いですよ。これをうそと判断されるのは・・・・・やばい頭では??」

「エドワードから全部聞いているぞ」

「妄想を伝聞して真実と思ってるんですね・・・・伝聞妄想・・・・・なんということだ」

「お前・・・・」

「もう、いいですか?妄想を語る仲間たちに加わる気はありません」

そういうと全員の靴のなかを濡らし、スボンに重力増加の付与をかけて、その場を離れた。



翌日、バージルと一緒に昨日の部屋にいくと肌着が用意してあった。

重ねたままで、付与を順番にかけて行く、枚数は数えなかった。侯爵を信用しているのではなく、面倒だから。


さっさと仕事を終わらせ、残金をうけとると侯爵が改まってこう切り出した。

「枚数を増やしたいが、いかがだろう。昨日付与してもらったのが、快適で・・・・これは大売れ間違いない」

「これだけあってもですか?」

「間違いない。追加分は手数料を引き上げるということで・・・・千枚頼みたい。手数料は倍で」

俺はびっくりした。倍とは。大したことじゃないけど、くれるものは貰おう。

「わかった。引き受けるがこれでおしまいだ」

「助かる。契約書は用意してある」

ということで枚数だけ変わった契約書を慎重に見て、サインをした。

肌着の追加分が三百枚運ばれたので、付与を済ませる。残りの準備に二・三日かかると言うのでそれはかまわないと答えた。

それから、お礼に服を仕立てたいと提案されたが、お古をたくさんもらっているので断った。







バージルと自分の才能のおかげでお金の心配はなくなった。休暇前の試験はわざと綴りを間違えて答えたら、中程の順位だった。

目立たない、いい位置を確保できている。そして俺は最終の授業が終わると隣国行きの馬車に乗り込んだ。







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