湖の町。そこにある学校

朝山みどり

文字の大きさ
上 下
7 / 25

07 本物の映画スター

しおりを挟む
都会の子をみた興奮が冷めて、日常に戻った。いつもの人が見学に来ている。普段通りの一日が半分過ぎた頃。

「素晴らしいわ。うわさを聞いたから見に来たの」と声がした。ちょうど音楽が止んだ時のせいか、声質のせいかさほどの大声じゃないのに全員がその声を聞いた。

小奇麗なおばさんが立っていた。

見学していたおばさんたちが、口を押さえて「えーーーー!! うそーー!!」「うそーーー!!」「あーー」とか騒いでいるし、エリカ先生も両の拳を口に当てていた。

わたしたちは、おたがいに顔を見合わせて「なに?」と小声で話した。

「コジカ・マドカ・・・マドカさんですか?もしかして」とそばに行ったエリカ先生が話しかけた。

「ええ、そうです。よかった覚えてる人がいて」とにこやかにその人は答えた。

そのとき、これがオーラなんだ。と思った。その人は特別な人だった。

その人がわたしたちを指導してくれた。お姉さまに教わっている場面なので、テンポも早くステップも複雑だけど、わたしたちはこなしていた。エリカ先生の振り付けがちょっと物足りないから回転数を上げようなんて話している所だったのに、そのコジカは

「そこ速すぎるわ。この位の速さがいいわ。ステップも踏みすぎじゃない?」とか言って、ふったぬるい踊りに変えていった。

エリカ先生はなんと言うか、魅せられたように

「そうですね」としか言わなかった。見学の人たちも何度もうなづいていた。

終わりの時間になると、見学の人たちがコジカを取り囲み、なんか昔の映画の名前を出しては感動したとか最高の映画と言っている。

話が途切れた所で

「わたしも皆様を見て感動しました。こんなに暖かく迎えてくれて、ありがとう。そして素晴らしい指導者と素晴らしい若さあふれる若者。お手伝いさせて下さい。明日も参ります。いえいえありがとう。船がありますから」

と家に泊まるように進められて断り、素晴らしい歯をみせて笑って言った。


若さあふれる若者のわたしたちは、あまり嬉しくなく練習を終えた。

家に帰って鏡のまであの笑い方をやってみたが、出来なかった。多分映画スターは歯が多いのだろう。あんなに歯を強調できなかった。


翌日、コジカはもう学校にいた。見学者がすごく増えて、いつもよりおしゃれしているのがわかった。

いっそこの人のソロで稼げば?ってちょっとだけ思ってしまって、密かに落ち込んだ。


「指導できて光栄ですわ」彼女はお礼を言われる度にこのセリフを言う。

今日は、おばあちゃんのパートをやってるけど、コジカ曰く最初から手直しとか・・・

サチヨと彼女が並んで踊っているんだけど、サチヨのほうがかっこいい。おばあちゃんの時代だから今よりゆっくりと動くんだけど、それで余計にコジカがのそのそして見える。

そのあと、全員で練習したけどいつもほど楽しくなかった。

「やっぱり指導に来てよかったわ」とコジカが言った。歯が目立っていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

処理中です...