52 / 68
第51話 お祭り
しおりを挟む
公爵たちは、なくなった道具をどうするか話し合ったが、決着はつかなかった。
ハトン家は四家で等分にわけて負担しようと提案したが、他の三家は自家に責任はないと主張した。責任のない自家が負担する必要はないとこれは金額の問題ではないのだ。矜持の問題だと言うのだ。
ハトン家は矜持ではない、忠誠の問題だと三家を説得しようとしたが、出来なかった。マイルスは父の公爵に対しても言ってないが、忠誠を見せる場面だと言いたかったが生き残るのはどこかと考えて沈黙を守ったのだ。
結局、特務部が道具を調達した。
お祭りの炊き出しはハトン家が、新品の道具を使って肉と魚を焼く
魚は海の一族が提供してくれることになっている。
ダイナ公爵家はハトン家の手伝い。裏方に徹するように指示された。
スペーダ公爵家はお菓子を出すことになった。
クラーブ公爵家は飲み物と決まった。
当日まで、ハトン家は王宮の調理人に頭を下げて汁物の作り方と道具を使って肉を焼く方法を教わった。一度は自家の庭で肉を焼いて練習した。
その際、特務部に味見をして下さいと依頼をした。そしてマイルスは三公爵家にも、使いかってを学ぶ為に手伝いに来ないかと誘いをかけたのだが、どこも来なかった。
特務部で話を聞いてアレクはアリス デイビス、バート、ヘドラーにラズベリーとライラまで
「視察に行こう」と誘った。
道具を見たアリスは、台の脚のつけねが丈夫になっているのに、気がついた。
角が潰されて丸くなっている。洗いやすいだろうなと思った。
あの鍛冶屋さん、工夫してくれたんだ。とアリスはあのおじさんに感謝した。
「わたくし、スープを作るの得意なんですよ」と言うアリスの言葉は
「それは素晴らしいですね。わたしも練習したんですよ」とマイルスから返されて終わりになった。
「アリス、まかせて待っていよう」と言うアレクはレモンの香りのグラスを渡した。
「わたくし、上手なのに」と言うアリスの声はアレクにしか聞こえなかった。
スープもお肉も美味しかった。
「炊き出しですから、おなかが膨れるのも大事ですので小麦の団子を入れてます」とマイルスが言うのを聞いて
「なるほど、そうだね。貴族だと気づかないかな」とアレクは考えながら答え
「貴族は気づかない所だ。マイルス殿はよく気づかれた」とデイビスも言った。
一同はたくさん食べて、片付ける所まで視察した。
さて、お祭りの当日。アレクの手配したクレールスター皇国からの騎士団が、民が危なくないように、守り並ばせた。
民は順番を守って団子入りのスープを飲み、おなかを満足させた。続いて肉と魚を受け取り、見慣れぬ魚をこわごわ口にして美味しさに驚いた。
皇国からの騎士団。スター騎士団の声がお祭り会場に聞こえる
「たくさん、ありますからゆっくり並んでいいですよ」
「並んでいる間にもっとおなかがすいたらたくさんお代わりできますよ」
この後に笑い声が聞こえる。
「騎士様はどこの制服かい?あまり見ないが」
「クレールスター皇国です。マダム」
「やだね、マダムなんて、ただのおばさんだよ」
更に笑い声が弾けた。
長く伸びた列と食べる人々を観察していたアリスは
「ピクニックで経験したつもりでしたが、たくさん人が集まっても危なくない方法なんて、考えもしませんでした。スター騎士団がいないと最悪、暴動になっていたかも知れませんね。平常な今でも・・・危険ですのに・・・これが災害時なら」とアレクに小声で話しかけた。
「そうだね、アリス。スター騎士団は思ったより優秀だ。これが終わったら、この国の騎士団を指導させよう」と答えた。
言葉の最後の部分で二人はお互いをじっと見た。
「それがいいですね。訓練された騎士団は人々を守れます」とアリスは答えた。
お祭りの終わる時間になった。最後に並んだ人たちはスープのお代わりをして、にこにこと帰って行った。
ハトン家のマイルスは、最後まで売り場に残っていた。椅子に座っていたけれど・・・
ダイナ公爵家は、一応当主とギルバードと何人かが顔を出したが、しっかりと裏方に徹していた。
そして他の公爵家の当主と同じくそうそうに帰って行った。マイルスは自分もそうしたかったが、アレクの『これからの長い付き合い』という言葉と時折感じる視線に、ここにいるほうが良いと思って頑張った。
終わって片付けを目にしながら放心していると
「見てるだけの感想ですが、お皿を洗うのが大変だったのではありませんか?」
「うん?」
「お手伝いもせずに見てるだけでしたが」
「は?誰? アリス様?」
「アリス様!」とマイルスは我に返って言ったが、思いがけず大声になってしまい、どぎまぎした。
「お邪魔して・・・その・・・食器洗いが大変そうだなと」
マイルスが助けを求めて後ろの侍従を見ると彼はしっかりとうなずいた。
「はい、力不足で器が間に合わなくて、待って貰ったりしましたから」と言うと
「そうなんですね。本当にお疲れさまです」とアリスが優しい声で言った。
そこにアレクもやって来ると
「ご苦労だったな。後日慰労会を兼ねた報告会を開くから、その問題を出してくれ。検討しよう。もちろん他にもあればそれも報告を」とアレクが言っていると騎士団が飲み物の大きな入れ物とコップを持ってすっと寄って来た。
「これを飲んでもう少し頑張って欲しい」と言うと二人は去って行った。
「みなさん、どうぞ、遠慮なくたくさん飲んで下さい。片付けも手伝わせて下さい」
騎士団はそう言いながら飲み物を配り、テーブルや椅子を運び始めた。
スター騎士団の助けで予定より早く片付けが終わったマイルスは、馬車に揺られながら、器の問題をどう解決すればいいかと考えた。
翌日、驚いたことにスター騎士団がやって来て、道具の洗浄と点検を手伝ってくれた。
騎士団は作業しながら、家の者と雑談をして、合間にお祭りでのことを聞き出していた。
マイルスの思っている騎士団は、ずらっと並んで威圧する存在だったが、このスター騎士団は穏やかな雰囲気をまとっているが、重いものを軽々と運んでいる。
足運びも無駄がない。我が公爵家の護衛は太刀打ちできないとわかる。
そう言えば、あのアレク様も・・・マイルスはこの国の行方を思った。
特務部・・・スター騎士団。騎士団は一日で民の心を奪った。
これから、どうすればいいのか? どうすればこの国・・・いや遅い。どうすれば家門を守れるだろうか?
マイルスは自分に言った。考えろ。考えろ・・・
ハトン家は四家で等分にわけて負担しようと提案したが、他の三家は自家に責任はないと主張した。責任のない自家が負担する必要はないとこれは金額の問題ではないのだ。矜持の問題だと言うのだ。
ハトン家は矜持ではない、忠誠の問題だと三家を説得しようとしたが、出来なかった。マイルスは父の公爵に対しても言ってないが、忠誠を見せる場面だと言いたかったが生き残るのはどこかと考えて沈黙を守ったのだ。
結局、特務部が道具を調達した。
お祭りの炊き出しはハトン家が、新品の道具を使って肉と魚を焼く
魚は海の一族が提供してくれることになっている。
ダイナ公爵家はハトン家の手伝い。裏方に徹するように指示された。
スペーダ公爵家はお菓子を出すことになった。
クラーブ公爵家は飲み物と決まった。
当日まで、ハトン家は王宮の調理人に頭を下げて汁物の作り方と道具を使って肉を焼く方法を教わった。一度は自家の庭で肉を焼いて練習した。
その際、特務部に味見をして下さいと依頼をした。そしてマイルスは三公爵家にも、使いかってを学ぶ為に手伝いに来ないかと誘いをかけたのだが、どこも来なかった。
特務部で話を聞いてアレクはアリス デイビス、バート、ヘドラーにラズベリーとライラまで
「視察に行こう」と誘った。
道具を見たアリスは、台の脚のつけねが丈夫になっているのに、気がついた。
角が潰されて丸くなっている。洗いやすいだろうなと思った。
あの鍛冶屋さん、工夫してくれたんだ。とアリスはあのおじさんに感謝した。
「わたくし、スープを作るの得意なんですよ」と言うアリスの言葉は
「それは素晴らしいですね。わたしも練習したんですよ」とマイルスから返されて終わりになった。
「アリス、まかせて待っていよう」と言うアレクはレモンの香りのグラスを渡した。
「わたくし、上手なのに」と言うアリスの声はアレクにしか聞こえなかった。
スープもお肉も美味しかった。
「炊き出しですから、おなかが膨れるのも大事ですので小麦の団子を入れてます」とマイルスが言うのを聞いて
「なるほど、そうだね。貴族だと気づかないかな」とアレクは考えながら答え
「貴族は気づかない所だ。マイルス殿はよく気づかれた」とデイビスも言った。
一同はたくさん食べて、片付ける所まで視察した。
さて、お祭りの当日。アレクの手配したクレールスター皇国からの騎士団が、民が危なくないように、守り並ばせた。
民は順番を守って団子入りのスープを飲み、おなかを満足させた。続いて肉と魚を受け取り、見慣れぬ魚をこわごわ口にして美味しさに驚いた。
皇国からの騎士団。スター騎士団の声がお祭り会場に聞こえる
「たくさん、ありますからゆっくり並んでいいですよ」
「並んでいる間にもっとおなかがすいたらたくさんお代わりできますよ」
この後に笑い声が聞こえる。
「騎士様はどこの制服かい?あまり見ないが」
「クレールスター皇国です。マダム」
「やだね、マダムなんて、ただのおばさんだよ」
更に笑い声が弾けた。
長く伸びた列と食べる人々を観察していたアリスは
「ピクニックで経験したつもりでしたが、たくさん人が集まっても危なくない方法なんて、考えもしませんでした。スター騎士団がいないと最悪、暴動になっていたかも知れませんね。平常な今でも・・・危険ですのに・・・これが災害時なら」とアレクに小声で話しかけた。
「そうだね、アリス。スター騎士団は思ったより優秀だ。これが終わったら、この国の騎士団を指導させよう」と答えた。
言葉の最後の部分で二人はお互いをじっと見た。
「それがいいですね。訓練された騎士団は人々を守れます」とアリスは答えた。
お祭りの終わる時間になった。最後に並んだ人たちはスープのお代わりをして、にこにこと帰って行った。
ハトン家のマイルスは、最後まで売り場に残っていた。椅子に座っていたけれど・・・
ダイナ公爵家は、一応当主とギルバードと何人かが顔を出したが、しっかりと裏方に徹していた。
そして他の公爵家の当主と同じくそうそうに帰って行った。マイルスは自分もそうしたかったが、アレクの『これからの長い付き合い』という言葉と時折感じる視線に、ここにいるほうが良いと思って頑張った。
終わって片付けを目にしながら放心していると
「見てるだけの感想ですが、お皿を洗うのが大変だったのではありませんか?」
「うん?」
「お手伝いもせずに見てるだけでしたが」
「は?誰? アリス様?」
「アリス様!」とマイルスは我に返って言ったが、思いがけず大声になってしまい、どぎまぎした。
「お邪魔して・・・その・・・食器洗いが大変そうだなと」
マイルスが助けを求めて後ろの侍従を見ると彼はしっかりとうなずいた。
「はい、力不足で器が間に合わなくて、待って貰ったりしましたから」と言うと
「そうなんですね。本当にお疲れさまです」とアリスが優しい声で言った。
そこにアレクもやって来ると
「ご苦労だったな。後日慰労会を兼ねた報告会を開くから、その問題を出してくれ。検討しよう。もちろん他にもあればそれも報告を」とアレクが言っていると騎士団が飲み物の大きな入れ物とコップを持ってすっと寄って来た。
「これを飲んでもう少し頑張って欲しい」と言うと二人は去って行った。
「みなさん、どうぞ、遠慮なくたくさん飲んで下さい。片付けも手伝わせて下さい」
騎士団はそう言いながら飲み物を配り、テーブルや椅子を運び始めた。
スター騎士団の助けで予定より早く片付けが終わったマイルスは、馬車に揺られながら、器の問題をどう解決すればいいかと考えた。
翌日、驚いたことにスター騎士団がやって来て、道具の洗浄と点検を手伝ってくれた。
騎士団は作業しながら、家の者と雑談をして、合間にお祭りでのことを聞き出していた。
マイルスの思っている騎士団は、ずらっと並んで威圧する存在だったが、このスター騎士団は穏やかな雰囲気をまとっているが、重いものを軽々と運んでいる。
足運びも無駄がない。我が公爵家の護衛は太刀打ちできないとわかる。
そう言えば、あのアレク様も・・・マイルスはこの国の行方を思った。
特務部・・・スター騎士団。騎士団は一日で民の心を奪った。
これから、どうすればいいのか? どうすればこの国・・・いや遅い。どうすれば家門を守れるだろうか?
マイルスは自分に言った。考えろ。考えろ・・・
1,997
お気に入りに追加
4,954
あなたにおすすめの小説
言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。
紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。
学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ?
婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。
邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。
新しい婚約者は私にとって理想の相手。
私の邪魔をしないという点が素晴らしい。
でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。
都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。
◆本編 5話
◆番外編 2話
番外編1話はちょっと暗めのお話です。
入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。
もったいないのでこちらも投稿してしまいます。
また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
王命なんて・・・・くそくらえですわ
朝山みどり
恋愛
ティーナは王宮薬師の下っ端だ。地下にある自室でポーションを作っている。自分ではそれなりの腕だと思っているが、助手もつけてもらえず一人で働いていた。
そんなティーナが王命で公爵と結婚することになった。驚くティーナに王太子は公爵がひとめぼれからだと言った。
ティーナだって女の子。その言葉が嬉しいし、婚姻届にサインするとき会った公爵はとても素敵だった。
だが、それからすぐに公爵は仕事だとかで一度も会いに来ない。
そのうえ、ティーナの給料の大半が公爵家に渡される事になった。ティーナにはいるのは端数の部分だ。
お貴族様っていうのはほんとに民から金とるしか考えてないねとティーナは諦めて休みの日も働いて食いつないだ。
だが、ある日ティーナがプッツンとなる出来事が起きた。
働いたって取り上げられるなら、働くもんかと仕事をやめて国一番の歓楽街のある町に向かう事にした。
「わたしは都会が似合う女だからね」
やがて愛しいティーナに会えると戻ってきたジルフォードは愕然とする。
そしてすぐに追いかけたいけどそれも出来ずに・・・・
勝手に召喚して勝手に期待して勝手に捨てたじゃないの。勝手に出て行くわ!
朝山みどり
恋愛
大富豪に生まれたマリカは愛情以外すべて持っていた。そして愛していた結婚相手に裏切られ復讐を始めるが、聖女として召喚された。
怯え警戒していた彼女の心を国王が解きほぐす。共に戦場へ向かうが王宮に反乱が起きたと国王は城に戻る。
マリカはこの機会に敵国の王と面会し、相手の負けで戦争を終わらせる確約を得る。
だが、その功績は王と貴族に奪われる。それどころか、マリカは役立たずと言われるようになる。王はマリカを庇うが貴族の力は強い。やがて王の心は別の女性に移る・・・
入学初日の婚約破棄! ~画策してたより早く破棄できたのであの人と甘い学園生活送ります~
紗綺
恋愛
入学式の前に校内を散策していたら不貞行為を目撃した。
性に奔放というか性欲旺盛で色々な店に出入りしていたのは知っていましたが、学園内でそのような行為に及ぶなんて――。
すばらしいです、婚約は破棄ということでよろしいですね?
婚約破棄を画策してはいましたが、こんなに早く済むなんて嬉しいです。
待っていてくれたあの人と学園生活楽しみます!
◆婚約破棄編 5話
◆学園生活編 16話
◆番外編 6話
完結しました!
見てくださった皆様本当にありがとうございます!
王妃はわたくしですよ
朝山みどり
恋愛
王太子のやらかしで、正妃を人質に出すことになった。正妃に選ばれたジュディは、迎えの馬車に乗って王城に行き、書類にサインした。それが結婚。
隣国からの迎えの馬車に乗って隣国に向かった。迎えに来た宰相は、ジュディに言った。
「王妃殿下、力をつけて仕返ししたらどうですか?我が帝国は寛大ですから機会をたくさんあげますよ」
『わたしを退屈から救ってくれ!楽しませてくれ』宰相の思惑通りに、ジュディは力をつけて行った。
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる