上 下
43 / 68

第43話 メアリーの試練

しおりを挟む
「殿下、殿下・・・起きて下さい」と体を揺さぶられてメアリーは目が覚めた。
こんな乱暴な目にあったことがない。

「殿下。殿下! あっ メアリー様。メアリー様」とライラに揺さぶられてはっきり目が覚めた。
「あっメアリー様、起きて下さい。寝坊です。すぐに服を着ます」とライラは言うと

メアリーの寝巻きを脱がせて、頭から服を被せた。

手早くボタンを留めると、髪にざっとブラシをかけ、三つ編みを二本編んで頭に巻きつけた。
手抜きもいいとこだが、メアリーは怒鳴りつける暇がなかった。

「浴室で顔を洗ったら行きますよ」と浴室のドアを開けられたからだ。

顔はベッド・・・浴室で洗うって・・・あれ・・・とメアリーは思ったが

「急いで下さい。先に行ってます」とライラに畳み掛けられてメアリーは浴室に入った。

メアリーが通路に出るとライラの姿は遠くになっていた。

「待ちなさい・・・ライラ」とメアリーは言ったがライラは止まらなかった。

メアリーはライラを追って急いだ。

食堂についたときメアリーは息が切れて汗をかいていた。

部屋に入ったときはお給仕はすんでいたが、汗びっしょりのメアリーをパールが見とがめて

「出て行きなさい」と言った。

「え?」とメアリーが言うとパールはメアリーの腕をとらえ外に連れ出した。

「遅刻するなんて、お側に仕えるつもりがあるの?それに汗臭い!このまま掃除の手伝いにはいって貰います。それとちいおじ様たち悲しんでますよ。無視されたって」と言うと腕を持ったまま

廊下の外れで掃除をしていた集団のところへ連れて行って

「教えてあげて、面倒をかけて悪いけど・・・」と言うなり去って行った。


「アッシュ様のお側に仕える準備でここにいる女ってあなたよね。わたしはルーシー。取り敢えず今日は一緒にいましょう。ゆっくり教えられないから、この雑巾を持って近くにいたらいいわ。へたになにかやろうとしないでね」
とメアリーに雑巾を手渡した。

「あっ名前は?」
「メアリー」
「メアリーね。みんなメアリーよ。一人にしないようにしてあげて」


メアリーはルーシーのそばを雑巾を持ってうろうろした。

そうしているうちにお昼になった。控え室に行くとスープの鍋とお肉を焼いたものとパンが置いてあった。

「メアリーのお肉はないわね。急に配属されたから、スープとパンだけよ」とルーシーが言った。

「なんですって・・・ほんとに信じられない」とメアリーは言ったが

「全然働いてないのよ。当たり前でしょ。だいたいアッシュ様のお側に仕えたいってねぇ。図々しいのよ。その程度で」とルーシーが言うと周りが笑った。

「なんですって・・・」と言うとメアリーは雑巾を投げ捨てた。

去って行くメアリーの後ろ姿を見て彼女たちはお互いに目配せし合って、笑いあった。

メアリーは部屋に戻ったが、ベッドは、朝、起きた時のまま。洗面所のドアも開いたままで、メアリーがびしょ濡れにした床はまだ濡れていた。

「なんてこと・・・侍女はなにやってるの!」とメアリーは、腹正しさに枕を壁に投げ付けながら言った。

それから、いらいらと部屋を歩き回り、勢いよくベッドに寝転がった。

「もう、宝石なんていらない。買えばいいのよ」「ちゃんと理解わかるように説明しないから・・・騙された」「そうだ。正式な国賓として扱って貰えば」とかブツブツ言っているうちに空腹を思いだした。

朝、食べてないしお昼も粗末だった。と思うと立ち上がり部屋を出ると歩き出した。

「おや、メアリー様。一人でどうなさったのですか?」と前からニールがやって来た。
「おなかがすいたから、食事の用意をさせようと思ってライラを見なかった?」

「ライラさんでしたら、侍女の皆さんとお茶してましたよ」

「なんですって・・・わたしをほったらかして・・・しつけ直さなきゃ」とメアリーが歩き出すと素早く前に回り込んで

「いや、まずい。それはやめたほうがいい。部屋で待っていて下さい。なにかお持ちします」と言うとニールはメアリーが部屋に戻るように促した。

「・・・そう、頼んだわ」とメアリーは部屋に向かった。

ニールはメアリーの後ろ姿を見ながら

「はて、さて? どうしてここに来ようと思ったんだろ? あの手紙は彼女の作じゃないだろうが・・・あんな嘘まで書いてっていうか、親もあの手紙がやばいってわからなかったのか?ちゃんと説明してるみたいだし。ライラさんは、ここのことを理解していたしね。あの娘がアホってことか?アホなら国外に出さないよなぁ・・・船を早めるように連絡入れたが・・・穏便に帰って欲しい。面倒はいやだ。身ひとつになる前に船が来てくれるといいけど」と呟いていたが

「おっと、食い物。食い物。腹が減るとライラさんに当たるだろうからね」と厨房に向かった。


いつのまにかメアリーは午前中だけ、雑巾を持ってうろうろするだけの存在になった。時々ライラが部屋の掃除とベッドのシーツを取り替えてくれたが、メアリーはいつも不満でたまにライラをぶった。


ある日、メアリーが部屋に戻ると、おば様たちが部屋にいた。

「なにを!」と大声を出したメアリーを平然と見て

「わたしたちの物を取りに来たんだよ。いつまでたっても持って来ないから取りに来てあげたんだよ」

「ここにあるのはわたしの物です。どろ」と言いかけると

「黙んなさい。なにを言おうとした?」

「ひぇ」とメアリーは後ずさりした。


しばらくすると

「これくらいかね」
「こんなもんだね」
「期待はずれだね」
「虫けらに 手間暇かける 遊んでる」
「ひどいね。遊んでるとか、せめて、めんどくさ これくらいにしておいて」
「もしかして 才能とやら ひけらかす」
そこでおば様たちは、ふぉっふぉっふぉおおと笑うと出て行った。

なんてこと、なんてこととメアリーは、散らばった荷物を見た。ドレスが乱雑にたたまれ、装身具が散らばり、ドレスのリボンがちぎれて床に落ちていた。

無理だ。無理だ。船を出させるとドアを開けると、ニールがこちらへ歩いて来ている。

「おなかが空きましたか?」とのんびりと言うのを睨みつけて

「帰る。船を呼んで。それから王族が話をすると国王へ伝えて。正式に国の代表として話したいと」

「それはやめたほうがいいですよ。判断できないでしょ。後で怒られますよ」

「怒られるってなに?子供じゃないから」

「やめたほうがいいですよ。命取られるわけじゃない。今のままで船を待つのが一番です」

「いいえ。王族として王女として話しています」とメアリーが思わず地団駄踏むと

「いや、そんなんじゃ無理よ。やめて・・・食べる物持ってくるし、ライラさん呼んできます」

とニールは走って行った。
しおりを挟む
感想 283

あなたにおすすめの小説

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。

紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。 学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ? 婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。 邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。 新しい婚約者は私にとって理想の相手。 私の邪魔をしないという点が素晴らしい。 でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。 都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。 ◆本編 5話  ◆番外編 2話  番外編1話はちょっと暗めのお話です。 入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。 もったいないのでこちらも投稿してしまいます。 また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

王妃はわたくしですよ

朝山みどり
恋愛
王太子のやらかしで、正妃を人質に出すことになった。正妃に選ばれたジュディは、迎えの馬車に乗って王城に行き、書類にサインした。それが結婚。 隣国からの迎えの馬車に乗って隣国に向かった。迎えに来た宰相は、ジュディに言った。 「王妃殿下、力をつけて仕返ししたらどうですか?我が帝国は寛大ですから機会をたくさんあげますよ」 『わたしを退屈から救ってくれ!楽しませてくれ』宰相の思惑通りに、ジュディは力をつけて行った。

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

朝山みどり
恋愛
執務室で凍え死んだわたしは、婚約解消された日に戻っていた。 悔しく惨めな記憶・・・二度目は利用されない。

【完結】さよならのかわりに

たろ
恋愛
大好きな婚約者に最後のプレゼントを用意した。それは婚約解消すること。 だからわたしは悪女になります。 彼を自由にさせてあげたかった。 彼には愛する人と幸せになって欲しかった。 わたくしのことなど忘れて欲しかった。 だってわたくしはもうすぐ死ぬのだから。 さよならのかわりに……

婚約者が義妹を優先するので私も義兄を優先した結果

京佳
恋愛
私の婚約者は私よりも可愛い義妹を大事にする。いつも約束はドタキャンされパーティーのエスコートも義妹を優先する。私はブチ切れお前がその気ならコッチにも考えがある!と義兄にベッタリする事にした。「ずっとお前を愛してた!」義兄は大喜びして私を溺愛し始める。そして私は夜会で婚約者に婚約破棄を告げられたのだけど何故か彼の義妹が顔真っ赤にして怒り出す。 ちんちくりん婚約者&義妹。美形長身モデル体型の義兄。ざまぁ。溺愛ハピエン。ゆるゆる設定。

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・・

側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。

gacchi
恋愛
十歳の時にお見合いで婚約することになった侯爵家のディアナとエラルド。一人娘のディアナのところにエラルドが婿入りする予定となっていたが、エラルドは領主になるための勉強は嫌だと逃げ出してしまった。仕方なく、ディアナが女侯爵となることに。五年後、学園で久しぶりに再会したエラルドは、幼馴染の令嬢三人を連れていた。あまりの距離の近さに友人らしい付き合い方をお願いするが、一向に直す気配はない。卒業する学年になって、いい加減にしてほしいと注意したディアナに、エラルドは令嬢三人を連れて婿入りする気だと言った。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

処理中です...