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第32話 公爵一家

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「一体、いつまで待たせるんだ」とスペーダ公爵が言うと

「会う時間の約束はしていませんよ」と嫡男のロバートが言った。彼はそう言うと立ち上がり、ぐいんと体を伸ばした。それから

「カーラと話したい。そうアリス様が言ってますよ。カーラと話したいと」

「もう、婚約者じゃない。様はいらない」とロバートが話終わるまえに公爵が言うと

「確かに婚約者じゃなくなっているが、皇弟が保護している。侯爵家の息女として扱えば痛い目に会う」とロバートは公爵を見下ろして言った。そしてカーラの方を向いて

「正直に話すのだよ」と言った。

「いや、だめだ。カーラ。我が儘を言った。反省していると言うのだ」と公爵は言った。

「そうよ。カーラ。自分が悪いと言えばいいの。謝ればいいのよ。押し付けてごめんなさいって謝るのよ」と公爵夫人も声を荒げる。

「やめて下さい。カーラに責任を押し付けるのはやめて下さい。アリス様は知りたいだけです。責任とか罰とか考えていません。ですから、正直に話すのです」とロバートが公爵夫妻に言うと公爵夫人が

「わかったわ。カーラ、正直に話すのよ。余計なことは言わないように気をつけて」とカーラに言うとすぐに

「それにしても、なによ。この扱い。公爵が来てるのよ。お昼過ぎたのにお茶しか出て来ない。馬鹿にしてるわ」





アレクとデイビスが部屋に入ると、なかで待っていた者が一斉に目を向けた。

敵意があった。今後の政治とかは関係なく空腹のためであろう。あの時間から今まで、お茶は二度ほど提供させたが、食事は出していない。まぁ正確な時間を約束したわけでもない。勝手な時間に来たのだから・・・こちらは忙しいなか時間を見つけてやって来たのだ。

「おや、皆さんこの時間までお揃いですね。カーラさんが大事なのですね。カーラさんの願いで当番を放棄したんでしたね」とアレクに言われてカーラが

「いえ、その・・・確かに」と訴えようとしたが

「カーラ、お控えなさい。恥の上塗りは、おやめなさい」と公爵夫人が言った。

「アリスが来るまでカーラさんのお相手をしようと思ってここに来たのですが、皆さんが揃って待っていたとは思いませんでした。アリスはカーラさんとだけ話したいと言いましたのでね」とデイビスが言うと

「未熟な二人で話すと正しく伝わらないと思いまして」と公爵が言うと夫人もうなずいた。

「アリスは未熟ではありませんが・・・まぁいいでしょう」とアレクは肩をすくめると改めて

「教えていただきたいのだが、四公爵でピクニックの当番を回り持ちでやっていると言うことだが、どんな仕事なのだ?」と言った。

「簡単なことです。なにか汁物を作ります」と公爵が答えた。

「汁物とはスープのことでいいのか?」

「はい、そうなりますが、汁物と言う呼び方が正しいです。まぁスープです」と公爵が答えた。

「作れるのか?」とアレクが公爵を見て聞くと

「いえ、使用人にさせます。準備が役目です。材料を揃えて調理器具。鍋とか、持ち運べる竈とか用意して運びます。肉を焼いたりもしますので、そちらの準備も。民を励ますのが目的ですので、公爵の身分の者が現地に行くと民が喜ぶ。励みになる。それが目的ですし、効果もあると思います。民にとっては一生に一度の誉ですね。そして終わると故障などを点検して片付けます」と公爵が答えると

「簡単です。使用人に指示するだけです。だからアリス、いえ・・・アリス様がちゃっちゃとやればすみました。それなのに嵐が来るから」と夫人が言うと、公爵がうなずいて

「アリス、様が、避難指示を出したってことですが、指示がなくても逃げてますよ。余計なことでした」と勢いづいて言った。

「そうか。当事者の話は大事だな。それはそうと片付けは終わったのか?」とアレクが言うと

「そんなのは備品係の仕事でございましょう。あちらは新入りで要領が悪いから・・・叱りつけましたから、もう終わっているでしょう」と夫人が答えた。

「きちんと確認しろ」とアレクが言った。



そこに

「アリス様です」の声とともにドアが開いてアリスが入って来た。

「あら、お揃いですの?」のアリスの声に公爵夫人はむっとしたようだが

黙って頭を下げた。他の家族もそれに倣った。

「遅くなりました。途中で邪魔が入りまして」と言うとカーラのそばに行って

「すぐにお話したいわ。二人きりで」と言った。

すると

「別室を用意した」とアレクが答え、すぐに護衛が近づき

「こちらへ」と歩き出した。アリスとカーラが後に続いた。


「あっ、それは」と公爵夫人が追いかけようとした所を

「皆さまは、もうしばらくここでお待ち下さい。お話が終わるとカーラ様をお連れします」とデイビスが止めた。

「それじゃ、ごゆっくり、お茶が来ます」の言葉を最後に一家は部屋に取り残された。



「こちらでございます」と護衛が開けてくれたドアから、なかにはいるとラズベリーがお茶の用意をしていた。

向かいあって席につきラズベリーが壁際に下がると、カーラはカップを持ちお茶を飲もうとしたが、熱かったようでカップを置いた。その手でパウンドを取ると大きく切り分けて口に運んだ。

そんなに頬張ると喉にっとアリスが思った時、ラズベリーが

「どうぞ」と水を差し出した。カーラはそれを受け取り水を飲んだが、むせた。

ラズベリーがアリスの視線を遮るようにカーラの前横に立ってカーラの背中をさすってなにか声をかけた。漸く落ち着いたカーラは、恥ずかしそうにアリスのほうを見た。

「落ち着いたのですね。ラズベリーは頼りになるのよ」とアリスが言うとカーラは安心したようにアリスを見て

「わたくしと話したいというのは、当番のことですね」と言った。

「えぇ、王妃殿下はわたくしに当番をやりなさいっていう時にカーラ様が『出来そうにない』って言ってるからアリスがやりなさい。って言ったの。義母さんから大事にされてるカーラさんってどんな人かなって思って、話してみたいと思っただけ」とアリスが言うと

「義母はわたくしの名前を使っただけです。本当は自分がやりたくなかったのです。スープだけならなんとか出来るけど、当番はやはりなにかあると呼ばれて行きますし、帰りも最後にあそこを離れるみたいです。

わたくしもよく知りません。公爵家のお茶会で教えて貰いました。調理器具の準備と片付けはアリス様が留守番になった時に、アリス様に押し付けたと教えて貰いました。ほんとはいけないのですよね。

そうやって楽になっていたのに、今回アリス様が出席になって本来の仕事をやるようになって義母はなんとか楽しようと思ったみたいで、わたくしの名前を使って王妃殿下にお願いしました。

スープ作りは皆さんそれなりにやってらしたんですけどね。材料を混ぜるだけでしたが・・・アリス様! わたくしそれはやるつもりだったのですよ。だけど義母はそれをアリス様に・・・アリス様がやりたがったと皆に思わせるなんて、ひどいと思いました。
そしてわたくしのせいにするなんて、ひどいでしょ!」とカーラが言うのを聞いて

「本当ですね。ねぇカーラ様。わたくしの話を聞いていただけますか?」とアリスが言うとカーラは大きくうなずいて

「伺いますわ。お聞かせ下さいませ」と言った。

ラズベリーがすっと寄って来ると菓子の乗った皿を取り替え、二人のカップに茶を注いだ。
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