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第26話 駆けつけたのは?

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騎馬の一団は手前で馬を止めた。馬を降りた男が馬車に歩み寄って来た。
礼を取ると
「クレールスター皇国の皇弟殿下、アレク・クレール殿下でらっしゃいますか?」

「お父様」とアリスがつぶやいた。続いて男は

「わたくしはリーブル王国のウィリアム・メイナード侯爵と申します。連絡が入り、待っていられず参じました」と言ったがしばしの間の後

「アリス!そこにいるのか!無事なんだな!無事で良かった!アリス!顔を見せてくれ!アリス」と大声を出して扉を叩かんばかりになり、護衛二人に止められた。

なおも
「アリス!アリス」と大声の侯爵を慌てて馬を降りたリーブル王国の騎士が

「閣下、閣下しっかりなさって下さい」と抑えた。

アリスは王太子婚約者としてふさわしい表情を取ると
「父を納得させるには会うのが一番だと思います」と言った。

アリスが馬車から降りるとすぐに侯爵が
「アリス。無事なんだな。良かった」と言いながらうずくまった。

「はい、助けていただきました」とだけアリスは言った。


アレクは念の為に護衛をアリスのそばに配置していたが、侯爵はアリスに抱きついたりすることなく、ただただアリスを見つめるだけだった。

「アリス?アリス・・・お父様だ・・・アリス」と言う侯爵の声はアリスに聞こえている。

「はい、あなたはわたくしの父親です」とアリスははっきりと答えたが、侯爵がなにも言わないので心配になったらしく

「わたくしは、メイナード侯爵の娘でございます」と言い直した。アリスが真面目なのが可笑しくてアレクとデイビスが馬車のなかで笑った。

「アリス、心配していた。なんの連絡もなく・・・事故に合ったのではないかと、生きた心地がしなかった」と侯爵はまた最初に戻った。

「あいつ、アリスが抱きついてお父様とか言うのを期待してるのか?」言うとアレクは思い切り、いやな顔をした。

「帰らせる。縁切りに帰るってはっきり連絡を入れたのに、ここで書類に署名させるぞ」と毒づくと

デイビスが
「ここはこのままのほうがおもしろいですよ」と止めた。

「事故は大丈夫でした。びしょ濡れになっただけです。寒いのと空腹ですね」とアリスが答えると
「王太子の馬車に乗っていると思ったんだ」と侯爵が少し涙ぐんで言うと
「はい、普段から家族の交流がありませんので、そう言うものでしょうね」とアリスは淡々と答えた。

「交流っていつも王宮にいたから」
「はい、王宮にいました・・・あのお父様。使いを出してます。用件もご存知ですよね。それなら王宮でお話した方が、一度ですみます。ですのでお父様も王宮に向かわれて下さい。あのもしかして、お父様はわたくしがお父様を忘れたと思ってらっしゃいますか?そりゃ、お父様はわたくしを忘れましたが、わたくしは覚えております。それでは手続きの時に」とアリスは言い終わると、馬車に戻った。

騎馬の者たちが脇によけて、馬車は動き出した。

「アリス。アリス・・・そんな」と侯爵が呟いたが、誰にも聞こえなかった。

馬車に戻ったアリスをアレクとデイビスが

「大変だったな」と迎えて、ラズベリーは

「日のあたる所に帽子もショールもなしで」と言った。


「なんでしょうね。まさかわたくしが父親の顔を忘れたと思ったとかじゃないですよね。

自分が忘れたからってわたくしも忘れたって思ったんでしょうか? あんなに何度も名乗って。

見たらわかりますのに。大体わたくしの背が伸びてふっくらしたのに気がつかないのですよ。覚えてないのですよ」とアリスが少し怒って言うのが可笑しかった二人は

「ほら、父親は娘が可愛いから」と言った。

「確かにバーバラに甘かったですね」とアリスは答えたが、嫉妬も恨みもない単純な感想だった。


アレクとデイビスは少し苦笑いを浮かべたが、アレクはこう言った。
「その服の紺色はよく似合うな。外の光でレースの繊細さがよく分かった」と言った。

「新しく買っていただきましたが、これが一番好きです。着ていて安心できます。丈が伸ばせて良かったです」

と返事をしてラズベリーを見て笑った。

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