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第2話 ピクニックの当番

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今年も留守番だと思っていたアリスだが、今回は出席するように言われた。
「城の責任者はいらないのですか?」とアリスが言うと
「なにを偉そうに言っているの、ただの留守番じゃないの。たった馬車で三時間よ。早馬なら二時間、いえ急げば一時間で着くわ」とエドワードの姉のメアリーが言った。
「そうなのだ。アリス。たった一時間に責任者制度はいらないのではないかとなってな。それでアリスも出席させてやることになったのだ」と国王が言った。
『出席させてやるか・・・恩着せがましいこと』とアリスは思った。
「かしこまりました。侯爵家のものとして出席いたします」と返事をすると
「そうしてくれ。王妃から当日のことで話があるようだ」と国王が言うと王妃を残して国王、メアリー、エドワードが出て行った。

「アリス、当日なんだけど、スペーダ公爵の所のお嫁さんね。カーラって言うんだけど『どうも出来そうにないって言うの』だからあなたが、変わってあげて」
「王妃殿下。わたくしも経験がありません、それどころかずっと留守番でしたのでなにもわかりませんが」とアリスが答えると
「そんなことが許される立場だと思っているのですか?ちゃんとやりなさい。表向きは、あなたがやりたがったからだと言うのですよ。いい加減、甘えは返上なさい」と王妃は言うとさっさと出て行った。

それからアリスはため息をつきながら、実際の予定表を出すとこの二年、ずっと一緒にやって来ている文官のバートとヘドラーに相談した。

その日から、アリスは厨房にお邪魔して材料を切ること。炒めること。水を入れてかき混ぜてスープにすることを学んだ。

貴族が率先して調理するところを民に見せる必要があるのだ。だが、このスープはかたちばかり配られ、口にするものは余りいない。

他に美味しい物があるのに、こんな貧しいスープなど飲みたい者はいないのだ。



自分で作った?スープを三つ、盆に乗せてアリスは執務室に戻った。
「お疲れ様。いい匂いですね」とバートが言いヘドラーも微笑んだ。

「あぁピクニックなんて出たくないわ。せっかくゆっくり出来ると思ったのに、余分な仕事が増えてうんざりだわ」
「そうですね。でもどうしてアリス様にばかり・・・食事も取らせず・・・こき使って」とヘドラーが言うと
「今日はスープがあるわ」とアリスが笑い三人はヘドラーが家で作って来た簡単なサンドイッチを食べてスープを飲んだ。

「そろそろ、妹と王太子殿下が孤児院の慰問に行く頃ね。変な約束して来ないといいけど」とアリスが言うと二人は下を向いて苦笑いをした。
毎回変な約束で困るのは三人で、アリスは二人にとても申し訳なく思っている。だけど王太子殿下とアリスの妹のやることに二人はなにも言えない。その分アリスが怒っている。
バーバラはアリスのことを尊敬していて、忙しいアリスの手伝いをしたい。だから忙しいアリスが慰問で行く孤児院に先に行って問題点を見つけたいということで慰問に行っている。

王太子殿下は慣れないバーバラを助けたいということで必ずつきそう。自分の仕事を放り投げて・・・放り投げた仕事はアリスに回って来るのだが。
だから、二人は余分な仕事を作ってくれているのだ。アリスは何度も二人に注意しているが
「バーバラの優しい気持ちを理解してやって欲しい」とエドワードが言って
「かしこまりました」とアリスが答えバーバラの
「申し訳ありません。お姉様。わたくし困っている人を見捨てることができなったのです」の言葉で終わり、また同じことが起こるのだ。面倒だから、なにも言いたくないのだが、注意をした事実を残したいので毎月同じことを繰り返している。

時々アリスはなにもかも放り出してどこかに行きたくなる。

「まぁピクニックの日は二人ともお休みをとってね」とアリスが言ってすぐに
「その日だけじゃなく、二・三日取ればいいわ。当然の権利ですもの」
「それだとアリス様が・・・」とバートが言うと
「いいのよ。ピクニックに出席した人って疲れたからって休むんだから・・・わたくしも同じことをするわ」と答えたアリスの姿を二人はよく覚えている。後に二人はその時のアリスは未来を見通している人のようだったと証言している。

そしてピクニックの朝は、とてもいい天気だった。
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