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30 セントクレア侯爵夫人

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王妃の演劇熱は冷めないが、「あの有名」が脚本を書いてくれないので、小説のセリフの部分を演技を入れながら朗読するようになった。

フリージアはエリザベートの部屋つきになり、朗読の専門家に教えて貰い始めた。

もちろん、王妃の朗読会では相手役で、その他の役は、王妃の友人が交代で努めてなかなか楽しいものになっているとエリザベートは聞いた。



ある日、前侯爵夫人のキルメニィがロザモンドの所へ訪ねて来た。ドアを入るなり

「ロザモンド、聞いてあの女が無礼なのよ」

「お母様(愚かな小夜啼鳥は時間かまわず、泣き喚く)ですわね」とロザモンドが言うと

「なに?それはなんて言ってるの?」とキルメニィが言うと

「古代ギリー語ですわ。台本を送りましたでしょ?一度も練習に来ませんでしたね」

「そんなもの知らなくても困らないわ」とキルメニィが言うと

「困るのよ。あなたと違ってね」とロザモンドは冷たく言うと続けて

「お姉様みたいに勉強してたらわたしだってもっと・・・・でもあなたは、ずっと邪魔してた。家庭教師もすぐに首にして・・・・」

「それは、あなたが勉強を嫌がって・・・・」

「嫌がったのはお母様でしょ。もう帰って!下らないおしゃべりにつきあう暇はないのよ。王太子妃は忙しいの」

それを聞いたガーベラは

「こちらへ」と言うとそっとキルメニィの腕をとって連れ出した。

「え?ロザモンド。どうしたの?母親を追い出すなんて」と言ったが、ガーベラは取り合わず、そのまま馬車乗り場まで送った。

「前侯爵夫人、いらっしゃるときは前もって連絡をお願いします」

「わたしは母親よ」

「もちろんでございますが、お母様がそのような態度では妃殿下があなどられます。お気をつけ下さい」

それから、後ろからおろおろして付いて来ていた、夫人の付き添いの侍女に

「今の注意聞こえていたでしょ。今の侯爵夫人はよくわきまえてらっしゃると方だけど、失礼にならない程度に報告させて貰うわ。侯爵夫人を咎めるものじゃないから、よろしく伝えてね」と言うと帰っていった。

侍女の忠誠はキルメニィからカザリンへ移った。



カザリンは子爵家の次女として生まれた。物心ついた時すでに、自分の容貌に劣等感を持っていた。

姉と妹が目立って美しかったのだ。姉も妹も早くから上位貴族と婚約して、家に婚約者が迎えに来るのを見て、贈り物を貰うのを羨ましく見ていた。婚約者は二人ともカザリンに親切でカザリンにも贈り物をくれたりしたが、いやしい事を言えば二人の物より数段落ちる品物だった。


そんなカザリンだったが、姉の婚約者の自宅のパーティに招待された時、ライリーと知り合った。

ライリーは侯爵家の遠縁の男爵家の三男で、城の文官として働いていて、贅沢をしなければ暮らしていける。上を見ればキリがないが・・・・・・自分に似合いの縁だと思いプロポーズにうなづいた。

カザリンは近くの商店で働き、若い二人はそれなりに楽しく暮らした。

そこに侯爵家を継がないかと、打診があった。信じられなかった。侯爵はライリーとカザリンの真面目な生活ぶりが気に入ったようだった。

カザリンは侯爵が求めるものをすぐに察して、その通りに振舞った。気立て良く、面倒見がよく、上位貴族としても

やっていけるよう努力する・・・・・カザリンは上位貴族としてやって行く気は充分ある。

姉と妹の位置に自分も上がる。

義母の面倒を見る気があるのを、しっかり示す為に積極的に義母に、教えを乞うた。そして違和感を持った。侯爵夫人は下位貴族としか付き合っていない。娘は二人共、王太子妃なのにどうして?


自分の姉と妹とは、積極的に交流した。

やがて、侯爵は家を出て行った。義母のお茶会は、社交界の下っ端が集まって下らないおしゃべりをしているだけだ。

カザリンは、義母のお茶会の開催を断った。これからは自分、カザリンがこの侯爵家の家格をあげるべく社交をやって行くとのだ。

すると義母はロザモンド妃殿下に、泣きついた。しかし妃殿下は義母をたしなめて、すぐに送り返してきた。

その後、ガーベラから丁寧な手紙が来たが、内容はキルメニィをのさばらせるなといったものだった。

カザリンは、ほんとよねと呟きならが手紙を処分した。


前侯爵夫人。キルメニィは、静かに暮らして下さいと屋敷で一番、居心地のいい部屋で、ロザモンドへの恨みの念を、ぶつぶつ呟いたり、エリザベートなら、助けてくれよね。そんな事を侍女を相手に話し続ける日を送るようになった。




一方エリザベートはカザリンを何度か王宮に招待した。エリザベートはなにも言わないが、カザリンとセントクレア侯爵家は、貴族の間で力を持ち始めた。




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