上 下
7 / 48

彼女の死後 2

しおりを挟む
一回目です


去った男を見送る部屋付きの侍従に、「朝、エリザベートはどうしておった?」とフレデリックは訪ねた。

「お元気でした」

「スピーチの原稿は誰に渡したのか?」

「・・・・・存じません。見ておりません」とその侍従は答えた。


「そうか」とフレデリックは呟き

「ロザモンドは部屋で泣いておるだろうから、そのまま部屋からだすな。それからスピーチの原稿を受け取った侍女を呼べ」






「侍女が参りました」の声に床のインクの染みを見ていたフレデリックが振りかえると、一人の女が平伏していた。

「お前が・・・・・・名はなんと言う?」

「ロザモン・トラウブルでございます」

「エリザベートは元気だったか?」

「・・・・はい」

「部屋は寒かったか?」

「はい・・・・」

「エリザベートは寒がっていなかったか?」

「・・・・存じません」

「下がってよい」



「そこにある書類はお前が受け取っているのか?それとも勝手に置いて行くのか?」と部屋付きの侍従にフレデリックがふいに問うた。

「は・はい・・・・色々です」

「色々か・・・・これはどうだ」と王太子の執務室にあるべき書類を取り上げて訪ねた。

「それは・・・・どうだったでしょうか・・・」

「自分の妃であるエリザベートにわたしが押し付けていた仕事だ。わたしのお飾りの妃に王太子であるわたしが押し付けていた」

次の書類を取ると侍従に

「これは?黙って置いて行ったのか?お前が受け取ったのか?」

「・・・・・・そ・そ・それは」

「こいつはここで働いている文官だな。お前の友人かな?」

「・・・・弟でございます」

「つまり、お前は主のエリザベートをわたしの妃であるエリザベートにお前の弟の仕事をさせていたんだな」

「お許し・・・お許し下さい・・・そんなつもりは・・・決して・・・」

「お前のつもりを詳しく教えてくれ。後でゆっくりとな・・・・こいつの一族をすべて捕えて、牢に入れろ」





「セントクレア侯爵夫人がお見えです」の声と共に夫人が入って来た。

「あの、あ!エリザベート」の声と共にエリザベートの遺体に夫人が取りすがった。

しばらくそれを眺めていたフレデリックが、

「泣いている所悪いが質問させてくれるか?」と話しかけた。

「え?で・で・殿下」慌てて礼を取ったのをじっと見て

「エリザベートは本当にきれいに礼をとっていたな」と言うと隅の椅子を示した。

「いきなりの質問で悪いが、何故、エリザベートに侍女をつけなかったのだ?」

「・・・・・つけておりました」

「いつも、馬車から降りるわたしを見ると奥に駆け込む女がいたが・・・・あれだったのだろうか?」

「エリザベートとゆっくり過ごす侯爵家のお茶会が好きであった。エリザベートは目で話せるなと思っていたが、ある日、ロザモンドが部屋にやって来た。エリザベートが注意したが、出て行かなかった。夫人の差金だな」

「い・いえ・・・」

「咎めているのではない。事実を指摘しただけだ。その次もやって来た。エリザベートは注意した。何度かそういう事が続きわたしとエリザベートの穏やかな時間がなくなった。ロザモンドはひっきりなしにわたしに話しかけ、エリザベートはわたしによそよそしくなった。そしてついに部屋に来なくなった。わたしはエリザベートを恨んだ。

わたしが嫌いだからロザモンドを呼んでいると思ってな・・・・まさか婚約者の入れ替えを狙っていたとはな・・・贈り物もロザモンドがいつも身につけているし、最後に贈ったドレスもロザモンドが着ていた」

「ちが・違います・・・」

「見事だ。いやわたしが間抜けだな・・・・・エリザベートはわたしを見なくなるし・・・夜会でもロザモンドを振り切れなかった・・・・」

「しばらく、王宮に滞在してくれ・・・・・あっ忘れる所であった。侍女の名を教えてくれ」

「・・・ケイトです」




しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?

日々埋没。
恋愛
 公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。    ※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。  またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

【本編完結】婚約を解消したいんじゃないの?!

as
恋愛
伯爵令嬢アーシアは公爵子息カルゼの婚約者。 しかし学園の食堂でカルゼが「アーシアのような性格悪い女とは結婚したくない。」と言っているのを聞き、その場に乗り込んで婚約を解消したつもりだったけどーーー

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

処理中です...