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03 二つの結婚式
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一回目です
それからまもなくエリザベートと王太子殿下の結婚式が行われた。結婚式の前の夜、侯爵夫人がエリザベートの部屋を訪ねた。
「王宮でもロザモンドを守ってあげてね。あなただけが頼りよ。お願いね。今までのように」そう言うとエリザベートを抱きしめた。
「約束してね。あなたも大事な娘。二人でがんばって」とお母様が切れ切れに紡ぐ言葉にわたくしの心は満たされた、大事なのはロザモンドわたくしを利用してるだけとわかっているのに・・・・・この腕を与えられてわたくしは喜んでいる。お母様がわたくしを認めてくれるなら、抱きしめてくれるなら。エリザベートはそう思った。
全員、王宮の礼拝堂に揃った。
衣装は準備していたものを着た。この衣装を見るたびに胸にこみ上げた思いは決して表に出してはいけないとエリザベートは自分を律した。
子供の頃の両親からのプレゼントの装身具は重厚な衣装に合わないが、この奇妙な結婚に相応しいとエリザベートと自嘲した。
父のセントクレア侯爵と目も合わせず、言葉も交わさず祭壇まで歩いた。
王太子の手は冷たく義務的に差し出された。
全員が早く終わらないかなと思っていた式だった。
式が終わると
「じゃあ、奥様。俺とロザモンドの式の準備頼むね」と新夫は背中を向けながら言った。一応礼儀として侯爵夫妻、国王夫妻、王太子とロザモンドを見送って、最後に礼拝堂をでた。
そしてエリザベートはドレスのまま、自分の部屋に戻った。
侍女のケイトが乱暴にドレスを脱がした。
夕食の席に王太子は来なかった。一人で食事を済ませ部屋に戻ると王太子の伝言が届いていた。
今晩は所用があると一言記されていた。
エリザベートはいままでしていたように、一人で湯浴みをしていつもの寝巻きを着てベッドに入った。
ロザモンドの王太子妃教育が始まったが、全然すすまなかった。当たり前だとエリザベートは思った。
王太子はロザモンドにかまうのに忙しく執務はすすまなかった。その分エリザベートが忙しくなったが、白い結婚どころか会うこともない彼女を城の使用人たちは軽んずるようになって来た。
執務に忙しく食事に行けない日が続くと、いつしかエリザベートの食事は用意されなくなった。執務が終わってから厨房をたずねて残り物を貰った。
着るものも侍女がいない為に自分で着られる服だけを着まわした。
書類を運んで来る者は多いが戻してくれる者はいない。エリザベートが自分で戻しに行く。一度その途中で王太子殿下に会った。
「おまえはあてつけでそんな格好をしてるのか。可愛げのない・・・・うんざりだ。せいぜい仕事をしてくれ」そう怒鳴りつけると返事をするひまもなく去って行った。
『うんざりなのは、わたくしだわ。だけどこれを終わらせないと城が回らない・・・・・』とエリザベートは足を速めた。
王太子がエリザベートを怒鳴りつけたことは、城中に広がり彼女を見るとどの使用人も、くすくす笑うのだった。
加えて結婚式の準備が大変だった。ロザモンドの要求は大きくまためまぐるしく変わり、手配はエリザベートに丸投げされた。
ロザモンドがやったのはドレスの仮縫いだけと言ってよかった。
それでもどうにか準備は整って素晴らしい結婚式が行われたが・・・・エリザベートは疲れ果て、結婚式もその後のパレードも欠席した。動けなかったのだ。
気がついたらすべて終わっていた。やっと目が覚めたエリザベートを王宮の者は嫉妬して、あてつけに欠席した冷たい姉だという非難した。
侯爵夫人はわざわざエリザベートの部屋を訪れ、なじり頬をぶって帰って行った。
エリザベートの服装や手入れしていない髪、肌を見てもなにも思わない、何も感づかない母親なんだと今更ながら気づいた。
反対に侯爵夫人の侍女はエリザベートの有様に驚いていた。だが同情的な目で見ただけだった。
この侍女は子供のエリザベートが一緒にお茶したい、散歩したいと母親にすがりつくのを引き剥がし部屋のなかに押し込む係だった。
子供の頃、エリザベートは庭でお母様と二人でお茶をするロザモンドが羨ましかった。ロザモンドは優秀だから勉強しないでいいのだと思っていた。
その考えが違っていると気づいたのは、王家のお茶会に二人で呼ばれた時だ。
まわりの令嬢はきちんと椅子に座っていたが、ロザモンドはいつのまにかいなくなっていた。そして、泥だらけの姿で庭師に連れられて戻って来た。
わたくしたちはすぐにお暇した。家に戻ってわたくしはすごく叱られた。頬を何度もぶたれた。
「妹に気を配れないなんて最低だと」
ロザモンドつきの侍女もいたし、侍女も気がつかないうちにいなくなったのにエリザベートの責任だと叱ったのだ。
ぶたれるエリザベートを見て、ロザモンドは
「お姉さまってほんとうにだめね」と言ったし侍女も
「ほんとうですね」と嘲笑った。
ロザモンドはロザモンドだから愛されるのだとその時、理解できた。
エリザベートはぶたれた頬を水で冷やすとスピーチの原稿を書き始めた。
式に参列した複数の王室を招いたお茶会なので、友好国の今後に期待する、もっと頻繁に行き来しましょう。という内容でまとめた。
ロザモンドに古代ギリー語の知識がないのはよく知っているので、社交の慣例を無視して普通の言葉だけで書いた。
せめて挨拶の言葉でも覚えて欲しかったが、侯爵夫人の怒りを買っただけだった。
普段だと届ける事を要求されるのだが、これはロザモンドの侍女が取りに来た。
この侍女は、はれた頬を見て、侮蔑の笑いを浮かべると帰って行った。
それからまもなくエリザベートと王太子殿下の結婚式が行われた。結婚式の前の夜、侯爵夫人がエリザベートの部屋を訪ねた。
「王宮でもロザモンドを守ってあげてね。あなただけが頼りよ。お願いね。今までのように」そう言うとエリザベートを抱きしめた。
「約束してね。あなたも大事な娘。二人でがんばって」とお母様が切れ切れに紡ぐ言葉にわたくしの心は満たされた、大事なのはロザモンドわたくしを利用してるだけとわかっているのに・・・・・この腕を与えられてわたくしは喜んでいる。お母様がわたくしを認めてくれるなら、抱きしめてくれるなら。エリザベートはそう思った。
全員、王宮の礼拝堂に揃った。
衣装は準備していたものを着た。この衣装を見るたびに胸にこみ上げた思いは決して表に出してはいけないとエリザベートは自分を律した。
子供の頃の両親からのプレゼントの装身具は重厚な衣装に合わないが、この奇妙な結婚に相応しいとエリザベートと自嘲した。
父のセントクレア侯爵と目も合わせず、言葉も交わさず祭壇まで歩いた。
王太子の手は冷たく義務的に差し出された。
全員が早く終わらないかなと思っていた式だった。
式が終わると
「じゃあ、奥様。俺とロザモンドの式の準備頼むね」と新夫は背中を向けながら言った。一応礼儀として侯爵夫妻、国王夫妻、王太子とロザモンドを見送って、最後に礼拝堂をでた。
そしてエリザベートはドレスのまま、自分の部屋に戻った。
侍女のケイトが乱暴にドレスを脱がした。
夕食の席に王太子は来なかった。一人で食事を済ませ部屋に戻ると王太子の伝言が届いていた。
今晩は所用があると一言記されていた。
エリザベートはいままでしていたように、一人で湯浴みをしていつもの寝巻きを着てベッドに入った。
ロザモンドの王太子妃教育が始まったが、全然すすまなかった。当たり前だとエリザベートは思った。
王太子はロザモンドにかまうのに忙しく執務はすすまなかった。その分エリザベートが忙しくなったが、白い結婚どころか会うこともない彼女を城の使用人たちは軽んずるようになって来た。
執務に忙しく食事に行けない日が続くと、いつしかエリザベートの食事は用意されなくなった。執務が終わってから厨房をたずねて残り物を貰った。
着るものも侍女がいない為に自分で着られる服だけを着まわした。
書類を運んで来る者は多いが戻してくれる者はいない。エリザベートが自分で戻しに行く。一度その途中で王太子殿下に会った。
「おまえはあてつけでそんな格好をしてるのか。可愛げのない・・・・うんざりだ。せいぜい仕事をしてくれ」そう怒鳴りつけると返事をするひまもなく去って行った。
『うんざりなのは、わたくしだわ。だけどこれを終わらせないと城が回らない・・・・・』とエリザベートは足を速めた。
王太子がエリザベートを怒鳴りつけたことは、城中に広がり彼女を見るとどの使用人も、くすくす笑うのだった。
加えて結婚式の準備が大変だった。ロザモンドの要求は大きくまためまぐるしく変わり、手配はエリザベートに丸投げされた。
ロザモンドがやったのはドレスの仮縫いだけと言ってよかった。
それでもどうにか準備は整って素晴らしい結婚式が行われたが・・・・エリザベートは疲れ果て、結婚式もその後のパレードも欠席した。動けなかったのだ。
気がついたらすべて終わっていた。やっと目が覚めたエリザベートを王宮の者は嫉妬して、あてつけに欠席した冷たい姉だという非難した。
侯爵夫人はわざわざエリザベートの部屋を訪れ、なじり頬をぶって帰って行った。
エリザベートの服装や手入れしていない髪、肌を見てもなにも思わない、何も感づかない母親なんだと今更ながら気づいた。
反対に侯爵夫人の侍女はエリザベートの有様に驚いていた。だが同情的な目で見ただけだった。
この侍女は子供のエリザベートが一緒にお茶したい、散歩したいと母親にすがりつくのを引き剥がし部屋のなかに押し込む係だった。
子供の頃、エリザベートは庭でお母様と二人でお茶をするロザモンドが羨ましかった。ロザモンドは優秀だから勉強しないでいいのだと思っていた。
その考えが違っていると気づいたのは、王家のお茶会に二人で呼ばれた時だ。
まわりの令嬢はきちんと椅子に座っていたが、ロザモンドはいつのまにかいなくなっていた。そして、泥だらけの姿で庭師に連れられて戻って来た。
わたくしたちはすぐにお暇した。家に戻ってわたくしはすごく叱られた。頬を何度もぶたれた。
「妹に気を配れないなんて最低だと」
ロザモンドつきの侍女もいたし、侍女も気がつかないうちにいなくなったのにエリザベートの責任だと叱ったのだ。
ぶたれるエリザベートを見て、ロザモンドは
「お姉さまってほんとうにだめね」と言ったし侍女も
「ほんとうですね」と嘲笑った。
ロザモンドはロザモンドだから愛されるのだとその時、理解できた。
エリザベートはぶたれた頬を水で冷やすとスピーチの原稿を書き始めた。
式に参列した複数の王室を招いたお茶会なので、友好国の今後に期待する、もっと頻繁に行き来しましょう。という内容でまとめた。
ロザモンドに古代ギリー語の知識がないのはよく知っているので、社交の慣例を無視して普通の言葉だけで書いた。
せめて挨拶の言葉でも覚えて欲しかったが、侯爵夫人の怒りを買っただけだった。
普段だと届ける事を要求されるのだが、これはロザモンドの侍女が取りに来た。
この侍女は、はれた頬を見て、侮蔑の笑いを浮かべると帰って行った。
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