王妃はわたくしですよ

朝山みどり

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17 従者の部屋で

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バージルは部屋の隅に座るとフードを取った。

テーブルに用意された酒と串焼きを取ると輪に加わった。

「随分じゃないか」と。バージルはこの待遇がいいのか悪いのかわからなかったので、どちらでも解釈できる言い方を選んだのだ。
「あぁ随分だ。さすがだな」と赤毛が答え

「確かに、酒も料理もさすがだ。その肉も行けるがこちらの煮込みも美味い」と茶色の髪の男が追加した。

「そうか、貰ってこよう」とバージルは言うと取りに行った。その肉を頬張ったまま

「美味い」と言った。

「今日の会場は半分無礼講だそうだ」と薄茶の男が言うと

「あのお嬢さんはお高いのにそうなのか?」と最初の赤毛が肉を食いちぎりながら言った。

「お?あんたもあれに?」と薄茶の男が言うと

「あぁ、馬車ですれ違うときにうちの主人にいちゃもんを」と赤毛が言った。

「それは気をつけたほうがいいな」とバージルが言うと

「気をつけようがないんだよ」と赤毛が言った。

まわりもこちらに注目して集まって来た。

「兄さんこれでも食って教えてくれ」と言いながらバージルはテーブルから串焼きと酒を持って来て赤毛の前に置いた。
「おぉ、気前のいい兄さんだ」とまわりの男も赤毛の男も笑ってバージルの背中を叩いた。

笑いが収まると赤毛は話し始めた。

「王都の道で俺たちはすれ違ったんだ。いや、すれ違おうとしたんだ。そしたら石が当たったと向こうの護衛が飛んできて抗議されたんだ。たしかに馬車が石を跳ねることはある。それが馬車に当たることもあるだろう。それのどこが問題なんだ?と思ったんだが、すぐに向こうの馬車から、あのお嬢様が出て来てなぁ」

「本人が出てきたのか?」とびっくりして質問が出ると

「そうなんだ。いきなり女が出て来てなぁ。侍女は止めてたようだが、本人が出て来た」と赤毛が口惜しそうに言うのを見て、男たちは顔を見合わせた。

「女がそれもお嬢さんが出て来たもんだから、俺の方も馬車から出て、あっちの女に馬車に戻るように言ったんだ。
一応こっちも侯爵様なんだよ」

「ここまで言ったんだ、名前だせよ」と誰かが言うと皆が声を揃えて

「言えよ。仲間だろ」とか言い出して

「ホワイト家だ」と答えた。

「優しいお人でな、女がじゃなく令嬢が外で話をするのは良くないから馬車に戻るように言ったんだ。するとあの女は『誤魔化すな』とか言い出してそうこうしてるうちに見物が増えるし、後ろに馬車も来るし。それでうちのご主人が後日詫びに行くと言ってことを治めたんだ」

「・・・・・」

しばし、無言のときが過ぎてバージルが

「いい主人に恵まれたな」と赤毛の肩を叩くとまわりも

「そうだな」「頑張ったんだな」と言い出して誰かが

「俺のおごりだ」とテーブルの酒を配り皆で乾杯した。

バージルは赤毛と話し込み、モルファイ家の馭者は茶色の制服に青い腕章をつけていると聞き出して仲間にも伝えた。



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