勝手に召喚して勝手に期待して勝手に捨てたじゃないの。勝手に出て行くわ!

朝山みどり

文字の大きさ
上 下
15 / 30

第15話 王妃として

しおりを挟む
そうやって、五日が過ぎた。所謂ハネムーンだ。世界がとても綺麗に見えた日々だった。
トニーが溜まっていた執務をこなすために忙しくなった。
わたしは執務を手伝うことを申し出たが、それは断られた。王妃としても仕事があるのでは?の質問ははぐらかされた。

そこで提案されたのは、孤児院の視察だった。なるほど、福祉ってこと?得意分野よ。要はお金を使えばいいのよ。

それで、直近五年の帳簿を持って来るように命じた。

「帳簿ですか?」と侍女のミントが言うのを

「そう、帳簿を借りて来て頂戴。予算がいくらか、それをどのように使っているか確認しないとね」と言うとなんだか頼りない歩き方で出て行った。

あの部屋の侍女長の話の通りなら、田舎出だけど侍女長のお仕込みを受けた子のはずだけど・・・この程度?

まもなく文官と一緒に侍女は戻って来た。

「帳簿だということですが、回覧は出来ません」と文官は言った。

「なぜですか?」

「その・・・規則です」と文官が目を泳がせながら言うのを見て、いじめてやるかと思い

「では、その規則を見せて」と言った。

黙ってうつむく文官がちょっとかわいそうになって

「いいわ。わたしが見に行く。案内して。先ず、規則の閲覧ね」と立ち上がると

「あの・・・王妃様・・・わたし嘘ついて・・・その帳簿は」と文官は必死に言い募った。まぁ言わされたんだろうから、ここは解放してやるか・・・

「わかりました。無理は言いません。孤児院に慰問にでも行きましょうかね」と言うと文官は目に見えて顔色が良くなって
「王妃殿下、それがいいと思います」と言った。侍女のミントに目配せすると
「お疲れ様、お送りします」と行ってドアを指した。

こういうところはよく仕込まれてるのよね。あの侍女長は嫌いだけど、いい腕よね。

侍女のラベンダーに孤児院の慰問に行くから手配するように言いつけた。ミントにはお菓子の用意をするように言いつけた。
「あの、聖女様・・・」
「ない?質問があるの」とマリカがミントを見た。
「いえ、その慰問に持って行くお菓子は、気持ちを込めてご自分で作られるのが良いかと」
「は?いやよ。面倒。そういうのをやらせる為に使用人がいるのでしょ。さっさと行きなさい」

そう言いながら、マリカは本を手にソファに座った。

本に目を落としながら、マリカは孤児院でどうやって過ごそうかと考えた。本を読んだりするのがいいのだろうが、マリカは子供が嫌いだった。言葉が通じないしすぐ泣くし、手がべたべたしてたり・・・
人形劇でも見せるか・・・あのクマの縫いぐるみが踊るあれを見せよう。

そこで縫いぐるみを用意しようと街へ買い物に行った。おおげさにならないように、わたしも護衛も町の金持ちのような格好で、途中からは馬車を降りて街をゆっくりと歩く。

「そうだ。これからはいつもお城でも町でもわたしのことはマリカと呼びなさい。他の呼び方では面倒なことになるから」と言うと、お互いに顔を見合わせていたが
「「はい。マリカ様」」と返事をした。

お目当ての店で縫いぐるみを買った。クマとウサギ。あとは犬とか羊もあったので全種類を購入した。
どの縫いぐるみも裸だったので、服を着せたいと思って、店主に相談したらすごく驚いて、わたしをまじまじと見た。
この世界では縫いぐるみに服を着せるのはタブーだったのか?と心配になったら、

「それを真似してもいいですか?」と手を握らんばかりに言われたので
「どうぞ。可愛くしてあげて」と営業スマイルを振りまいた。
「今日買い上げた物の服は急いで仕上げて欲しいの。デザインはまかせるわ。どれも同じサイズだから服の貸し借りもできるから、便利ね」と言うと
「あぁーーさようでございますね」とあちらも負けずに笑顔の大サービスで、
「明日の夕方にはお渡しできます」と請け合った。

縫いぐるみは今日持って帰り、服は後日、取りに来ると決めた。

その後ものんびりと街を歩いていると食料品店があった。
どんなのを売ってるのかと店に近づいたところで、女性が二人話しながら出て来た。
「高くて買えないね。小麦が入ってこないから・・・毎日の」と聞こえた。

そうだった。小麦の収穫・・・はもう終わった?とにかく畑の人手がなかったんだ。いや、戦争が終わったから、戻った?

調査しないと。

帰りの馬車では縫いぐるみが麦畑で働いていた・・・
しおりを挟む
★☆彡☆彡★☆彡☆彡★☆彡☆彡★☆彡☆彡★☆彡☆彡★☆彡☆彡★☆彡☆彡★


歴史・時代小説大賞に応募しています。読んでみて下さい


お江戸を指南所


【 みどりの短編集 】 今までの投稿をまとめます


感想 5

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...