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第9話 虫がいいけどね

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本当にリックは外で馬の番をして、わたしだけが中に入った。

血の匂いとうめき声だ。わたしは敵意と好奇心に満ちた視線のなかを歩いて、患者のそばを歩いた。見て回った。この部屋は比較的軽傷の患者のようだ。怪我は派手だが命に別状はない。
わたしは真ん中に立つと両手に力をためた。そのまま手を上に上げると部屋に振りまいた。


すると患者がびっくりした顔になり
「へ?」「あり?」「なんだ?」とか言いながら起き上がった。

それから慌てて包帯をとると自分の傷がないのに驚いている。
さすがはわたしだ。ふふん力を使うのはすごく気分がいい。

「信じて貰えました?」と男に言うと、はっとわたしを見て

「はい、失礼した。わたしはラルフ・シャトレニア。王太子だ」と名乗った。

「はい、聖女のマリカです。では他の患者も看ていいですか?王太子殿下」と言うと

「看てやってくれ、聖女様」

「はい、王太子殿下」

「こちらだ聖女様」


次の部屋は静かだった。死を待つ者がベッドにいた。何人かの患者はそばに友人らしい人がいて手を握ったり涙を拭ったりしている。わたしも涙が湧き上がってきた。涙ってこらえる方が大変なので、出たらそのままにしている。そのままで全員をみる。一刻を争うと言った者はいない。

「殿下、一刻を争う人はいませんか?別の部屋ですか?」と聞くと

「いるにはいるが・・・酷いありさまだ」とわたしの涙を見たせいかそう言った。

「大丈夫です。その為に来ました」と言うとうなずいた。


部屋に入るとすぐにわたしは一人のそばに行った。腕がない。どうにか血を止めたようだが流れすぎている。

わたしはポケットから指輪を出して左手の小指にはめた。点滴とか輸血をする力を指輪に込めてある。

そしてその患者の患部に触れると力を流し込んだ。血液と生理食塩水が彼のなかに入った。点滴よりも効き目が早いのよ。指輪を外すと次は痛みを止めた。

「これで命は助かります。水分と食事はお医者様が」と言うとそばに来た医者が目礼して来た。わたしもうなづいた。

次の患者も腕だった。多分足をなくしたものは早くに亡くなったのだろう。

ポケットから別の指輪を出すと左手の薬指にはめた。魔力を補給する指輪だ。自分の魔力を込めてある。ポーションより効く。

そうやって指輪を付け替えながらその部屋にいた者を治療した。

「ありがとう、助かった」と王太子が言った。後ろから別の男が声をかけてきた。

「ラルフ・・・王太子殿下。お茶の準備をしてあります。聖女様一休みして下さい」

「聖女様。どうぞ」と言うと王太子は手を差し出した。


王太子のエスコートで行った部屋は彼の私室のようだ。

テーブルに並べてあるのはパンとバター?を盛った皿だ。そうだよねお菓子をゆっくり食べる場所ではない。


「こんなところで失礼。部屋はここが一番ましで」と王太子が言うので

「大丈夫ですよ。時が時ですし」と言うとわたしはちょっと首をかしげて

「これから、お話することがここに来た目的です。もう遅い時間ですので、すっぱりと言います。この戦争負けて下さい。名目だけでいいです。そちらが負けて兵を引いて下さい。わたしは戦争を終わらせたいのです」

王太子はおもしろそうな顔だが、残りの二人は固まっている。

「確かにふざけた提案だな。それを飲めばなにをしてくれるか?」とラルフが言うので
「助けてあげます」と言った。後ろの二人の怒りが伝わって来る。

怒って当たり前よね。こんなふざけた提案。
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