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第7話 無力だった

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黙って馬を歩ませた。一歩王都を離れると長閑な田園風景が広がっていた。そろそろ収穫の季節だと思うが、畑で働いているのは女性と子供だった。

何故かしらとトニーに聞いたが首をかしげていた。

その夜泊まった領主の館で、馬の世話をしていたら、本当は他の馬の世話もお手伝いしようと思ったのに遠慮されたので自分の馬だけ洗ってブラシをかけていたら、飼い葉を運んできた女性がひそひそ話していたのが聞こえた。

「聖女様と王様が行くんだとか」
「これでうちの人帰ってくるかな?」
「どうなるのか・・・もう三年も帰って来ない」
「実家も麦の収穫が出来なくて・・・もともと植え付けもろくに出来なかったけど。人手がないから仕方ないけど」

話は続いていたが、わたしはその場を離れた。そうか男は戦争に行ってるんだ・・・貴族だけじゃなく農民も戦争に行ってるんだ。

そうだよね。早く終わらせなくては。待っていてね。わたしは二人に向かってそっと言った。

それから前線に着いた。ここではずっと野営だ。兵士と話をした。話をしながら疲労回復をかけていく。聞くと大きな戦闘はないが、毎日攻めて来て適当な所で戻って行くというのをずっと繰り返しているとか。

西部戦線異状なし・・・そうだね、爆弾も飛行機もない戦争はあの世界か。あれってニュータイプ? 死んじゃうけど・・・そうだ。若者の夢と希望が・・・


この場所はもともと敵の領土で、攻め入って確保したこの地を守っている限り勝利だと思って命をかけているそうだ。バカバカしい・・・

なんとかあちらと話をしたいが、護衛の目があるので出歩けない。それで今、隠蔽魔法を練習している。ほんとに試験の一夜漬けを通り越して、早朝レンチン漬けだ。

だけど、ここはうるさい目がないので、トニーとゆっくり話が出来る。
散歩しながら二人で話をする。戦争に勝利する為に敵の大将と話をしようと言うわたしをトニーは、それは危険だと言って反対する。

二つの陣の真ん中ではと提案しても、矢を射られればおしまいだと言うのだ。わたしが守ると言っても聞かない。詰んでいる。どうすればいいのだ。

そんなある日、アイボーナ侯爵が軍を率いてやって来た。軍と言っても私兵だそうだが、装備のきちんとして強そうな軍だ。

「陛下、明日総攻撃を致しましょう。このアイボーナが敵を打ち払いますよ」と言うと豪快に笑った。

打ち払うなら早くしてくれたら良かったのに・・・そしたらわたしはこんな所でこんなにしてないわよ・・・

アイボーナ侯爵の指揮の元、翌日総攻撃をかけた。わたしも激を飛ばした。終わらせる為に死ぬかも知れないところへ送り出した。

「祖国の為になすべきことを!」むなしい言葉だ。

勝利の知らせが届いた。祝宴の準備をして待った。

夕方、傷ついた男たちが戻って来た。

動ける男たちは、車座になってどうやって敵に槍を刺したか、敵を切った時はと話をしていた。酒が減っていくに連れて話が大きくなって行った。

わたしは途中から宴を抜けると負傷者のところへ行った。公表されているわたしの能力は切り傷かすり傷程度を治すことだ。

わたしは包帯の下の傷をこっそり治してまわった。

骨折や重症の患者は痛みだけを取った。『ごめんなさい。ごめんなさい』と謝りながら。

アイボーナ侯爵が我が物顔で陣を歩き回っている所へもう一人貴族がやって来た。リシッド伯爵だ。彼も私兵を連れてきており、侯爵と話し合って一緒に攻撃を仕掛けた。
今回の戦闘は思ったほどの勝利はなかったようで、宴の時もリシッド伯爵は少し沈んでいた。
わたしは怪我人の世話をする為に今回は宴に出なかった。

今回は双方にかなりの被害が出ているせいか、その後は小競り合いもなく穏やかに過ごしていたが、王都から急ぎの使いがやって来た。なんでも国王の座を狙う者が出たと言うのだ。

トニーはすぐに帰ることになり、アイボーナ侯爵もリシッド伯爵も一緒に帰ると言うのだ。
ここは聖女も誘う所だよねと思ったが

「マリカ、君をひとりここに残して行くのは身を切られるように辛いが君の聖女の仕事を邪魔する気はない。元気で」と言い終わる前に

「陛下。出立のご命令を」と言うアイボーナ侯爵の大声に邪魔された。

わたしは去って行く馬の後ろ姿と土煙をぽかんと見送った。
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