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05 ドキドキした

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屋敷に着くと使用人が揃ってわたしたちを出迎えたが、わたしに向ける目線は冷たかった。誰かが呟いたケルって・・・

多分ベッケル王国を馬鹿にして言う言葉なんだろう、ケル。

「こちらがわたしの妻のノエルだ。ロドニー」とアンジェラさんが言うとそのロドニーが前に出てきた。

「ノエル、ロドニーがあなたの侍従だ」

「ロドニー、ノエルを部屋に案内してくれ。すぐに食事を運んで」と言うと去って行こうとしたが
「そうだ。ノエルの荷物がないから、着替えなどの用意を」と言うと執事と一緒に去って行った。

そこでわたしはロドニーと一緒に部屋に行った。

「アンジェラ様と同じ部屋です。汚さないで下さい。すぐに食事は運びます。念のために言いますが、アンジェラ様はあなたを抱いたりしませんよ」

「はい」とだけ答えた。念を押されなくてもわかっています。


すぐにノックの音がして、食事の乗ったワゴンを押したロドニーと侍女長?と侍女が二人入って来た。

「後はやります」と侍女長?が言うとロドニーは出て行った。

「どうぞ召し上がれ」と言われてわたしは食事を始めた。

美味しい。

「少し、痩せすぎですね。肌も荒れています。髪も荒れています。すぐに手入れを始めます。わたしは侍女長のポプリです。よろしく。ノエル様」

「よろしくポプリさん」

「ポプリと」

「はい。ポプリ」

食べ終わると、三人はいきなりわたしの服のボタンに手をかけた。

「ヘっ」と息を飲んで、抵抗したが

「おまかせ下さい」と叱られた。

それからは、恥ずかしいやら、痛いやら、気持ちいいやら・・・

気づいたら、お肌も髪もすべすべでなにやら、分量の少ない服を着せられていた。

「よろしいですか? 今日がどんな日かおわかりですね。アンジェラ様をお待ちになって下さい」

そう言うと、ポプリたちは部屋を出て行った。

勘弁して欲しい。今、着てる服って・・・こんな物欲しげな服を着て待ってるなんて・・・アンジェラさんにも迷惑だよね。

それにこれって抱かれる側だよね・・・わたし、女を抱きたいけど・・・


「ノエル。ノエル」と声をかけられて目が覚めた。

しまった。寝てしまっていた。

「あっ眠ってしまって」
「いいよ、ずっと馬車に乗ってついた途端に結婚式だ。疲れてあたりまえだ。休んで貰えば良かったのに、すまない」
「いえ」と答えたがアンジェラさんの様子が変だ。この格好が不愉快なのだろう。

顔を背けている。なにか羽織るもの・・・と思っていたら、アンジェラさんが自分のガウンを脱いで着せてくれた。

なんてこと・・・・・・アンジェラさんの裸の上半身・・・顔に血がのぼるのがわかった。男の裸なんて見慣れている。

自分を見てるし・・・なのにドキドキしてる。

あまり見ないようにしよう。

「ノエル。君を抱いたりしない」

「そうでしょう」と同意した。

「そうでしょう?」とアンジェラさんが繰り返した。

「えっだって・・・わたしは男ですし・・・初対面ですし。男の尻なんていじりたくないかと・・・」どぎまぎして余計なことを言ってしまった。

「あっあぁ・・・あぁそうだね」とアンジェラさんが呆れている。

「はい。わかります」と意味もなく言ってしまった。

「わかるか・・・そうだね」とアンジェラさんが気を使ってくれた。

「悪かった。もう休んでくれ。おれは自室のベッドに行くからゆっくりしてくれ」

アンジェラさんはそう言いながら、わたしに着せたガウンを脱がせるとわたしを横抱きにしてベッドに寝かせた。

それから優しく毛布をかけた。

彼は「おやすみ」と言うと出ていったが、わたしはアンジェラさんの思いがけない行動に目が冴えてしまい眠れなくなった。

だって、わたしを抱き上げた腕がたくましくて、いやじゃなくて・・・そのまえにガウンの石鹸と彼の匂いが心地よくて、彼にガウンを脱がせられるとドキドキして・・・なんだこの気持ち・・・

わたしはベッドのなかであっち向いたりこっち向いたりして、なかなか寝付けなかった。そして夢を見た。

アンジェラさんがそばに来てわたしの頬を大事にさわる夢。

夢だから動けなかったけど、彼の首に手をまわして、ぐっとひきつけて、そしてキスをしたかった。
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