神子の余分

朝山みどり

文字の大きさ
上 下
12 / 32

11 脱出

しおりを挟む
三人が休みの日まで、オオヤナギは部屋に隠れていた。

門をでる方法は考えに考えた。単純に三人で出て、二人で戻るのは、面倒になりそうだった。


三人に見せかけた四人が出て、三人が戻る。これしかないが、どうやって?


三人は仕事の合間に門の出入りを観察した。そして方法を一つ見つけた。



三人から借りた服を着て、オオヤナギはビルとケントと三人で歩いた。普段通り喋った。

借りた服とペギーからのマントの代金は餞別だと受け取ってもらえなかった。

ジョンは三人から少し遅れて、歩いた。



門に向かって歩く者にさりげなく近づき、ひと塊になる。ビルが外出許可証を出そうとして戸惑った。後ろの列から「なんだ」とか「速くしろ」とか聞こえる。さっとオオヤナギとケントが外に出た。

あわてた門番に止められて、ケントが戻り

「すみません、うっかり」と謝ると

「二人出ただろ。もう一人は?」

「ここです」と合流したジョンが手をあげる。

「俺たちいつも三人です」とビルが三人分の許可証を出した。

門番の頭にはいろんな疑問が湧いたが、

「いつまで待たせるんだ」「まだか」の声にそれも消えた。


三人は門を出て、ゆっくりと歩いた。なんの騒ぎも起きていない。

オオヤナギは無事に、姿を消したようだった。




三人は広場で肉を食べながら、黙ってお互いを見た。いろいろな思いがあったがうまく表現できない。

わかっているのは、オオヤナギはとてつもないやつで、三人は多分、とてつもないことに一役買ったと言う事だ。



その頃、オオヤナギは西に向かう馬車に揺られていた。この馬車の護衛として冒険者パーティが乗っていた。

四人組の冒険者で腰に武器。それとは別に大きな盾を持った男、弓を持った男、大剣を背負った男、杖を持った女だった。

「ねぇあなた、冒険者」と女がオオヤナギに話しかけて来た。

「うん、登録だけね」とオオヤナギが答えると

「あたしは、イジュ、回復とか支援をやってるの。あなたの名前は」

「僕はルーク・・・取り柄は・・・ない」

「そうなんだ。あたしが回復できるから安心よ」とイジュがにこりと笑った。

「イジュの悪いくせが出たな、いい男を見るとすぐに」と盾も背負った男が話に加わった。

「おれはサミーだ」ついで

「弓を持っているのが、デイビー。大剣がクロスだ」

「よろしく、ルーク」「よろしくな」と二人も話に加わった。

オオヤナギはルークという名前で冒険者登録をしていた。

初めて他人からルークと呼びかけられた。

『今日からほんとの異世界ライフだ』とルークは椅子の上で座り直しながら思った。


四人は王都を拠点に活動をしているが、この馬車の終点にあるダンジョンで一稼ぎしようと思っていたら、ちょうど護衛の依頼があったそうだ。交通費は節約できるし、依頼料は貰えるし・・・確かにいい事だ。


「今晩、泊まる町はどんな所かな?」

「うん、近くに寂れた鉱山があって、そこからでるクズ宝石を使った装身具を扱う店が多い。意外に人気があるから王都からも仕入れに来てるね」

「ふーーん、装身具は関係ないね」とルークが言うと

「確かに」とサミーが答えた。


そこに馭者の声がした。

「右から来る」

護衛四人は立ち上がった。それから窓に板をはめて行く。

それから、外に出ると中からかんぬきを止めるよう言うと、馬車の扉を閉めた。




しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...