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46 ハリソン殿下の結婚

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ハリソン殿下の結婚が、この代官屋敷で話題になったのは、王都より遥かに遅れていた。

「なんで?ハリソンが結婚するの?相手は魔法士? リリーのはずない。あいつは考えなしだから」とアナベルは自分の部屋で呟いていた。

「間違っている。わたしが行って正してあげなくては。ハリソンが可哀想」

そう言うとアナベルは屋敷を抜け出した。昨夜から降り続いている雨が上がったが、アナベルは気がつかなかった。

この地のものはアナベルを知っている。そして関わっては行けないことも知っている。

だから、アナベルがどこに行くのか誰も見なかった。

アナベルは歩いて行く。

「ハリソン。待ってて」「大丈夫だから、わたしが行くから」そんなつぶやきが聞こえるが誰も心に止めなかった。

いつしかアナベルは、道を外れても歩いていた。足に草が絡まるがアナベルは気にせずに歩く。

不意に明るい日が照ってきた。

アナベルも空を見上げた。虹が見えた。

虹。

『リリーが見せたやつだ。あの日から虹が嫌いだ』とアナベルは空を見ながら歩いた。

・・・と足の下がなかった。

アナベルは崖を滑り落ちた。張り出した枝が顔に当たった。

『これに捕まればいいのね』とアナベルは思った。

『これくらい、なんともないわ』と思ったときは河に落ちていた。

『冷たい』アナベルの最後の意識だった。

代官のミシガンは、娘を懸命に探した。子供の頃、逃げた小鳥を逃がした時を思い出していた。

あの時も探した。毎日探した。

そして誰かに言われたのだ。

「逃げた小鳥は見つからないよ。無理だ」

世界が黒くなった。こんなに探してもだめなの?

本当だった。こんなに探しても娘は見つからない。

ミシガンは首を振って小鳥のことを忘れようとした。


「捜索はこれで終わりだ。ご苦労だった。酒の用意がある。屋敷に来てくれ」

歓声を上げる捜索隊に見送られてミシガンは屋敷に戻った。


パーシーとカイルは、パレードを見に行くつもりだ。

宰相補佐がそっとパーシーに言ったのだ。

「パーシー。見物席を確保してある。割りといい席だ。役得と言うやつだ。弟と二人で見物したらいい」

パーシーは素直に

「ありがとう。見に行きます。カイルも喜びます」と軽く頭を下げた。

パレードに出るのは騎士団と侍女たちだ。魔法士団は準備はするが、出場はしない。

今、魔法士団は花を吹き出す魔道具と、温めると宙に浮く魔道具を作っている。この宙に浮く魔道具はリリーとコリンが大騒ぎして作り上げたものだ。

騎士団は騎馬行進の練習をしている。ジョンは仲良しの馬と並んで馬車を引く練習をしている。

終わってから、洗って貰いながら

「おや、ジョンさん。ここが凝ってますか? まぁまぁ脚も疲れてますね。道が凸凹してましたね」

と話しかけられ、タオルで拭いて貰いながら、凝っている所を丁寧に拭いて貰ったジョンはご機嫌でりんごを食べた。

サリーもりんごを食べながら、キュッキュッと拭いて貰ってご機嫌だった。


そして一番ご機嫌なのは、もちろんハリソン殿下だ。

衣装を着て馬車に試乗した時、にこにこ顔で得意げな表情でずっと隣りのリリーを見ていた。

これには、リリーも苦笑いを浮かべて

「ハリソン、喜んでくれるのは嬉しいけどハリソンは反対を見て手を振るのでしょう?」と言って、ハリソンの頬に人差し指を当てて、顔の向きを変えた。

「本番でもリリーがそうやってくれると、ちゃんと出来るよ。まかせて」と胸を叩いた。





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