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42 それから

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前伯爵と夫人、アナベルの三人が代官屋敷に残った。アナベルは毎日、不満を両親にぶつけていた。

「『みんながわたしと結婚したがる。ロバート様だけでなく王族だってわたしを結婚したがる』っていつも、いつも言っていたでしょ。そんなに言っていたのにどうしてこうなったの?お父様がしっかりしてないからでしょ」

とアナベルに言われて伯爵は、苛立った。

確かに自分は体が弱くて小さいアナベルを精一杯守って来た。いつも笑っていられるように心を尽くした。

アナベルは可愛かった。こんなに不満ばっかり言う。荒んだ表情の娘じゃなかった。

こんな風に育つなんてほんとに残念だ。

そう言えば、あの小鳥だって元気になると逃げていった。手をつつかれて、血が出たんだった。

それに比べたら、リリーは王子が家に迎えに来たり、宰相の息子や騎士団長の息子がそばにいたがる。そんな娘に育った。

自分は期待する余り、きつい態度も取ったが、リリーはそれをバネにして大きく伸びた。

それで伯爵はこう言った。

「なにを言ってるんだ。おまえが好き勝手なことばかりやったせいだろう。カイルが王都に行く時だって快く送り出していれば、今頃あちらに呼ばれていたのに、あの子のトランクを捨てたじゃないか」

「だって、自分だけ王都に行くなんて生意気だからよ」と答えるアナベルの顔は醜く歪んでいた。

「兄様だってカイルじゃなく、わたしを王都に呼べば良かったのよ。わたしがそばにいたら兄様は伯爵を手放すはめにならなかったのに、ちゃんとしてないから。情けないことになったのよ。子爵なんて」

「アナベル。お前の助けってなんだ?カイルはここにいる時、代官の息子としてなにができるかを自分で考えて精一杯のことをしていた。教会で字を教えるなんて自分で考えて始めたんだぞ。それをお前は自分が行けば励みになるとか言って・・・結局かき回しただけじゃないか」

父の容赦ない言葉にアナベルは足を踏み鳴らして、抗議をした。

代官屋敷では、時折そんな光景が見られた。

いつも、アナベルを庇ってくれた母は、カイルが王都に行った後、外出が増えた。そのことを巡って父と口論が増えた。

そしてある日、不自然に膨らんだバッグを持って出かけて帰って来なかった。

アナベルは母が自分を見捨てて逃げてから、ますます荒れるようになった。



カイルが学院を卒業した時、パーシーとカイルが連れ立って様子を見に来たことがあるが、父親にこう言われて帰って行った。

「無理だ。会わずに帰るほうがいい。こちらのことは忘れたほうがいい」

他になにか言いたそうだったが、父はこれだけを言った。

パーシーとカイルは顔を見合わせると、そのまま馬車に乗って去って行った。





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