そんなことしといて

朝山みどり

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01 嘘つきで魔力なしのアルバート

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子供は八歳を過ぎたら魔力鑑定を受ける。都市部では教会に鑑定用の道具があるので、随時鑑定して貰うし、地方は道具を持った係員が回って来たときに鑑定して貰う。

アルバート・メイプルとエドワード・メイプルも八歳になり教会に行って鑑定を受けた。

結果、アルバートは魔力がなく、エドワードは普通より多めの魔力を持っていることがわかった。

鑑定係りはちょっと気になった。子供に魔力がなかった時、大抵の親は子供を慰める。

だのに、父親のメイプル侯爵はあやうくアルバートを殴る所だったし、母親は冷たい目で見るだけだった。

あの子も気の毒にと、鑑定係りは思った。


もともと両親はアルバートに冷たかったが、この日からアルバートは家族からも使用人からもつまはじきにされるようになった。

アルバートは両親が好きだった。それで振り向いて貰えるように、剣も学問もかんばった。だが、二人の目がアルバートに向く事はなかった。

親が大事にしない子供を使用人は大事にしない。侍女も侍従もアルバートの世話をしなくなった。

食卓でもアルバートに配膳されるのは、質の悪い物が多かった。彼らはアルバートの食事を自分たちで食べて、アルバートには残り物や傷んだ物をまわしていた。

両親はうすうす気づいていたが、使用人を注意する事はなかった。

ただ、誰かが助けてくれていた、夜寝る前にアルバートの部屋の扉がノックされ、開けると食事の乗ったお盆が置いてあった。

その誰かのおかげでアルバートは飢え死には免れた。

家庭教師はエドワードだけを教えるので、アルバートは家の図書室の本を読んで自分で勉強した。

疑問に思うことはたくさんあるが、誰にも質問できなかった。

十二歳になったら学院に入学する。そうしたら質問できると楽しみにしていて、質問事項を書き留めたノートは三冊目になっていた。


「おーーいアル」とエドがアルを呼んだ。

「僕が呼んだらすぐ来いよ。おまえは僕の下僕としての価値しかないんだからな」とエドがアルを蹴っ飛ばしてそう言った。

「剣のけいこをつけてやるから、つきあえよ」と模擬剣を渡すと一方的に、打ち込んだ。

アルが反撃すると侍従のケントも、模擬剣を持って加勢して、二人でアルを打ちすえた。

メイプル夫人はその様子に気がついたがなにも言わずに見ていた。アルが痛みをこらえてうずくまっていると

「母上」とエドは夫人に向かって手を振り、夫人も小さく手を振った。

動けなかったアルが這うようにして部屋に戻ると今日はテーブルに食事のお盆が乗せてあり、傷のポーションが添えてあった。

ポーションを飲むと骨折していた指も手首も治り顔の腫れた感じがなくなった。

冷めた食事を食べると、すぐにベッドに突っ伏した。


目が覚めたのは普段より遅かった。朝、起きた時体の調子を確認する習慣がついたのはいつごろからだったろう。

痛いところやアザの有無を確認していると、おへその下あたりに、本で読んだ魔力があるような気がするようになったのだ。

それはお昼を過ぎた頃、消えてなくなるのだが、目覚めた時には確かにあるのだ。

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