KPOPアイドルは執念深い

のす

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第1章

ヨントンは練習大事

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アルバイトはIliosのために…






大学の授業以外は朝から晩まで働いてお金を貯めた。
いつかのヨントンのために。









そして時は満ちた。









“当選のお知らせ”




「っしゃ~!!!!!!!!!」

「うわっなんだよ急に」

「あ、いや、なんも…」



友達との帰り道、俺は携帯の画面に表示された文字に思わず声を上げた。
心の中では絶叫だ。

慌てて誤魔化したけど、抑えられていなかったらしく、



「陸。何ニヤついてんだ?気持ち悪いぞ」

「べ、別に?」



そりゃあニヤつくだろう。
念願のヨントンに当選したんだからな!!
あの世界的トップアイドルIliosのキムイジュンが俺のために20秒も時間をくれるんだぞ!だめだ。俺死ぬかも…。


このために総額20万近くつぎ込んできた。家に届いたCDの山は、家族にバレないようにベッドの下に隠した。
里花にはバレてたけど…


友達と別れた後も心臓のバクバクが止まらなくて、俺このまま死んじゃうのかなってくらいに楽しみだった。




今なら空も飛べそうだよイジュン。




ルンルン気分で早速里花に報告すると、妹の反応は俺とは全く違っていた。



「お兄ちゃんヨントン舐めてるでしょ!そんなんじゃイジュンと何も話せないまま20秒終わっちゃうよ!!」


妹は言った。
今は何を話すか決めていても、いざ推しを前にすると何も言葉が出てこなくなるし、余り時間ができたらもったいないと。

確かにそれは一理ある。
俺もイジュンを前にしたら頭が真っ白になりそうだ。



「お兄ちゃんどんな服着るの?髪型は?まさかいつも通りってわけじゃないよね?」



まるで自分がヨントンするくらいの勢いで話し出す妹に俺は押されるだけだった。
あれよあれよと新しい服を買わされ、軽くメイクも施され、髪も普段しない搔き上げヘアにセットされる。
さらに服には韓国語でリクと書かれた名札と手にはイジュンのスローガン。


固まったままでいると、里花は両手を腰に当て、俺の前で仁王立ちして言い放った。




「お兄ちゃん。ヨントンはね、どれだけ印象に残るかよ!」

「は、はぁ…」



もしかしたら俺は手を出してはいけないところに手を出してしまったのかもしれない。



「さぁ、練習だよ。時間測るから私がイジュンだと思ってやってみて。よーいスタート」

「えーっと…あの…イジュンさんの今1番行きたいところはなんですか?」

「はいダメ。」

「な、なんで!」

「あのねぇ20秒しかないんだよ?えーっととかあのとか余計な言葉に時間を使わない!それから、ちゃんと私の目を見て話すこと!ずっと下向いてちゃイジュンの顔見れないまま終わるよ?!もう一回!」

「イジュンさん、行きたいところはどこですか?」

「だめ!」

「里花の言う通りにしたのに、」

「イジュンは優しいからお兄ちゃんの名札を見てくれる。名前を呼んでくれるかもしれないから、すぐに質問するんじゃなくて、始まりは挨拶!イジュンも返してくれるからもっと会話を意識して!」



Iliosの事になると鬼に変身する妹の指導は夜遅くまで続き、毎日きっちり練習させられた。
その甲斐あって20秒をきっちり使い切れる余裕ができてきた。
この調子なら慌てずに話せるはず。


















表示される待ち人数の数が減るごとに俺の緊張も増していく。
今更ながら俺なんかがヨントンしていいのか?と言う疑問さえ浮かんできた。
イジュンだって男より綺麗で可愛い女性が来てくれた方が嬉しいのではないか…

容姿もバッチリに決めてイジュンのグッズを持って待つ自分をふと見ると、なぜかそんなことを考えて余計にぐるぐるしてしまう。




そして待ちに待った瞬間はやってきた。
さっと画面が切り替わると、そこには美しい顔が映されていた。



『コンニチハ~リクサン』

「か、かっこいい…っ」




しまった!と思った頃にはもう遅く、画面の中のイジュンは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに目を細めて柔らかく微笑んだ。



『アリガトゴジャイマス』



こ、こんなの練習と違う!
だって俺、あのイジュンと話してるんだぞ?!



「行きたいところはど、どどどこですか?」

『リクサンガイルトコロ』


死んだ。
そこからの記憶が一切ない。
うん全く。何一つ覚えてない。



画面にありがとうございましたの文字が映し出されたのに、俺はまだグッズを握りしめたまま動けなかった。

これが夢なのか現実なのか本当に分からない。
話したのか?俺。話したんだよな。



「お兄ちゃーん?」

「……俺、生きてる?」

「うん。めっちゃオタ活してるよ今」



呆れたように笑う里花の言葉にようやく自分を取り戻してきた。
あれからしばらく放心状態だったらしい。


あー。里花とイジュン結婚してくれないかなー。義理の兄弟になりたいマジで。
毎日家でイジュンの顔見れたらいつでも死ねるわ。


「心の声漏れてるよー」

「里花頼む!次の日本のイベントも一緒に行ってくれ!」


俺は人生で初めて妹に土下座した。





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