3 / 7
第1章
ヨントンは練習大事
しおりを挟むアルバイトはIliosのために…
大学の授業以外は朝から晩まで働いてお金を貯めた。
いつかのヨントンのために。
そして時は満ちた。
“当選のお知らせ”
「っしゃ~!!!!!!!!!」
「うわっなんだよ急に」
「あ、いや、なんも…」
友達との帰り道、俺は携帯の画面に表示された文字に思わず声を上げた。
心の中では絶叫だ。
慌てて誤魔化したけど、抑えられていなかったらしく、
「陸。何ニヤついてんだ?気持ち悪いぞ」
「べ、別に?」
そりゃあニヤつくだろう。
念願のヨントンに当選したんだからな!!
あの世界的トップアイドルIliosのキムイジュンが俺のために20秒も時間をくれるんだぞ!だめだ。俺死ぬかも…。
このために総額20万近くつぎ込んできた。家に届いたCDの山は、家族にバレないようにベッドの下に隠した。
里花にはバレてたけど…
友達と別れた後も心臓のバクバクが止まらなくて、俺このまま死んじゃうのかなってくらいに楽しみだった。
今なら空も飛べそうだよイジュン。
ルンルン気分で早速里花に報告すると、妹の反応は俺とは全く違っていた。
「お兄ちゃんヨントン舐めてるでしょ!そんなんじゃイジュンと何も話せないまま20秒終わっちゃうよ!!」
妹は言った。
今は何を話すか決めていても、いざ推しを前にすると何も言葉が出てこなくなるし、余り時間ができたらもったいないと。
確かにそれは一理ある。
俺もイジュンを前にしたら頭が真っ白になりそうだ。
「お兄ちゃんどんな服着るの?髪型は?まさかいつも通りってわけじゃないよね?」
まるで自分がヨントンするくらいの勢いで話し出す妹に俺は押されるだけだった。
あれよあれよと新しい服を買わされ、軽くメイクも施され、髪も普段しない搔き上げヘアにセットされる。
さらに服には韓国語でリクと書かれた名札と手にはイジュンのスローガン。
固まったままでいると、里花は両手を腰に当て、俺の前で仁王立ちして言い放った。
「お兄ちゃん。ヨントンはね、どれだけ印象に残るかよ!」
「は、はぁ…」
もしかしたら俺は手を出してはいけないところに手を出してしまったのかもしれない。
「さぁ、練習だよ。時間測るから私がイジュンだと思ってやってみて。よーいスタート」
「えーっと…あの…イジュンさんの今1番行きたいところはなんですか?」
「はいダメ。」
「な、なんで!」
「あのねぇ20秒しかないんだよ?えーっととかあのとか余計な言葉に時間を使わない!それから、ちゃんと私の目を見て話すこと!ずっと下向いてちゃイジュンの顔見れないまま終わるよ?!もう一回!」
「イジュンさん、行きたいところはどこですか?」
「だめ!」
「里花の言う通りにしたのに、」
「イジュンは優しいからお兄ちゃんの名札を見てくれる。名前を呼んでくれるかもしれないから、すぐに質問するんじゃなくて、始まりは挨拶!イジュンも返してくれるからもっと会話を意識して!」
Iliosの事になると鬼に変身する妹の指導は夜遅くまで続き、毎日きっちり練習させられた。
その甲斐あって20秒をきっちり使い切れる余裕ができてきた。
この調子なら慌てずに話せるはず。
表示される待ち人数の数が減るごとに俺の緊張も増していく。
今更ながら俺なんかがヨントンしていいのか?と言う疑問さえ浮かんできた。
イジュンだって男より綺麗で可愛い女性が来てくれた方が嬉しいのではないか…
容姿もバッチリに決めてイジュンのグッズを持って待つ自分をふと見ると、なぜかそんなことを考えて余計にぐるぐるしてしまう。
そして待ちに待った瞬間はやってきた。
さっと画面が切り替わると、そこには美しい顔が映されていた。
『コンニチハ~リクサン』
「か、かっこいい…っ」
しまった!と思った頃にはもう遅く、画面の中のイジュンは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに目を細めて柔らかく微笑んだ。
『アリガトゴジャイマス』
こ、こんなの練習と違う!
だって俺、あのイジュンと話してるんだぞ?!
「行きたいところはど、どどどこですか?」
『リクサンガイルトコロ』
死んだ。
そこからの記憶が一切ない。
うん全く。何一つ覚えてない。
画面にありがとうございましたの文字が映し出されたのに、俺はまだグッズを握りしめたまま動けなかった。
これが夢なのか現実なのか本当に分からない。
話したのか?俺。話したんだよな。
「お兄ちゃーん?」
「……俺、生きてる?」
「うん。めっちゃオタ活してるよ今」
呆れたように笑う里花の言葉にようやく自分を取り戻してきた。
あれからしばらく放心状態だったらしい。
あー。里花とイジュン結婚してくれないかなー。義理の兄弟になりたいマジで。
毎日家でイジュンの顔見れたらいつでも死ねるわ。
「心の声漏れてるよー」
「里花頼む!次の日本のイベントも一緒に行ってくれ!」
俺は人生で初めて妹に土下座した。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
トップアイドルのあいつと凡人の俺
にゃーつ
BL
アイドル
それは歌・ダンス・演技・お笑いなど幅広いジャンルで芸能活動を展開しファンを笑顔にする存在。
そんなアイドルにとって1番のタブー
それは恋愛スクープ
たった一つのスクープでアイドル人生を失ってしまうほどの効力がある。
今この国でアイドルといえば100人中100人がこう答えるだろう。
『soleil』
ソレイユ、それはフランス語で太陽を意味する言葉。その意味のように太陽のようにこの国を明るくするほどの影響力があり、テレビで見ない日はない。
メンバー5人それぞれが映画にドラマと引っ張りだこで毎年のツアー動員数も国内トップを誇る。
そんなメンバーの中でも頭いくつも抜けるほど人気なメンバーがいる。
工藤蒼(くどう そう)
アイドルでありながらアカデミー賞受賞歴もあり、年に何本ものドラマと映画出演を抱えアイドルとしてだけでなく芸能人としてトップといえるほどの人気を誇る男。
そんな彼には秘密があった。
なんと彼には付き合って約4年が経つ恋人、木村伊織(きむら いおり)がいた!!!
伊織はある事情から外に出ることができず蒼のマンションに引きこもってる引き篭もり!?!?
国内NO.1アイドル×引き篭もり男子
そんな2人の物語

楓の散る前に。
星未めう
BL
病弱な僕と働き者の弟。でも、血は繋がってない。
甘やかしたい、甘やかされてはいけない。
1人にしたくない、1人にならなくちゃいけない。
愛したい、愛されてはいけない。
はじめまして、星見めうと申します。普段は二次創作で活動しておりますが、このたび一次創作を始めるにあたってこちらのサイトを使用させていただくことになりました。話の中に体調不良表現が多く含まれます。嘔吐等も出てくると思うので苦手な方はプラウザバックよろしくお願いします。
ゆっくりゆるゆる更新になるかと思われます。ちょくちょくネタ等呟くかもしれないTwitterを貼っておきます。
星見めう https://twitter.com/hoshimimeu_00
普段は二次垢におりますのでもしご興味がありましたらその垢にリンクあります。
お気に入り、しおり、感想等ありがとうございます!ゆっくり更新ですが、これからもよろしくお願いします(*´˘`*)♡


アリスの苦難
浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ)
彼は生徒会の庶務だった。
突然壊れた日常。
全校生徒からの繰り返される”制裁”
それでも彼はその事実を受け入れた。
…自分は受けるべき人間だからと。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

BlueRose
雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会
しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。
その直紘には色々なウワサがあり…?
アンチ王道気味です。
加筆&修正しました。
話思いついたら追加します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる