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第1章
初めての現場
しおりを挟むあれからIliosの曲と共に受験を乗り切った俺は、大学生になった。
飲食店でのアルバイトを掛け持ちながらも、高校生の頃よりお金と時間に余裕ができた俺は、とうとうファンクラブに加入した。
「お兄ちゃーん。封筒届いてたけど…」
「…ありがとう」
「Ilios…?お兄ちゃんもしかしてファンクラブ入ったの?!LUNA?!」
妹の言葉に一瞬ドキッとした。
別に何も悪いことをしたわけではないのに、妹にエロ本が見つかったくらいの恥ずかしさで、陸は封筒を奪うように手に取った。
「そ、そうだけど//」
「えー!里花がIlios好きなの知ってたの?!ありがとう!」
どうやら妹は何かを勘違いしているようだった。
というか、里花もIliosが好きだったのかよ。初耳なんだけど!
まぁ勘違いしてくれた方が自分にとっては都合がいい。
「あ、ああ。ライブとかあるんだろ?」
陸はさも興味なさそうに話を振った。
すると妹はそうなのそうなのとテンション高く飛び跳ねる。
俺だってライブ行くために急いで金貯めてファンクラブ入ったんだからな!!
そう心の中で叫ぶが、表情は冷静を装い、ゴホンとわざとらしい咳払いをしてから妹に告げた。
「それならついて行ってやってもいいよ」
ふふ。我ながら賢い作戦だ。
男1人でIliosのライブに行くのは少々恥ずかしい。
だから、妹に連れられて仕方なくついてきました風を装っていけば、周りに白い目で見られることもないし、Iliosを生で見られるし一石二鳥だと考えたのだ。
「うーん。お兄ちゃん興味ないでしょ?友達誘ってみるよ!」
おーーーい待て待て待て!!
俺のファンクラブ!!
落ち着け。冷静に対処しろ。
妹がまさか俺を置いて友達を誘うなんてそんなこと誰が予測できた?
普段俺たちは特別仲がいいわけではないが悪くはないだろう。俺がついて行ってやると言ったら当然そうなると思ったのに?!?!
「い、いやでも一回はライブ行くのに興味あるんだよね。アイドルのお手並み拝見っていうか…」
「うーん…ちゃんと応援してくれなきゃダメだよ?Iliosに失礼なんだから」
ええ。もちろんですとも。
本当ならライブでペンライトぶん回すよ?!うちわだって作ってイジュンにファンサ貰いたいよ。そのために韓国語もこっそり勉強してるんだぞお兄ちゃんは!!
とは言えず…
「お、おう。わかってる」
こうして無事チケットが当選し、陸は初めて生のIliosと対面した。
会場の電気が一気に消え、その瞬間に輝き出す光の海。
そして真っ白な光に彼らのシルエットが浮かび上がると、会場は割れんばかりの歓声をあげた。
胸が締め付けられるような苦しい感覚。
人を見てこんなにも胸が熱くなったのは初めて…。
それからというもの、陸は周りのことなんて気にならないくらい夢中でペンライトを振っていた。
そして…彼が近づいてくる。
一歩一歩…
その時だけは時間がゆっくりになったみたいにスローになって、向こうを向いて手を振っていた彼がこちらを振り返った。
「イジュン!!!」
思わず叫んでいた。
陸たちがいたのはアリーナではなくスタンド。だから彼の耳までこの声が届くわけないと知りながら、それでも陸は必死だった。
彼はファン一人一人を見るようにじっくりと会場を見渡していく。
きっと彼の視界に俺も入れたはず。
彼が少しでも俺を見てくれたと思うだけで、陸の心はひどく満たされた。
「LUNAの皆さん。今日は来てくれてありがとうございました。LUNAサランへ~」
ニコッと笑ったイジュンは驚くほどカッコよかった。なんと言えばいいか…CG?いや、2次元?王子様?そんな言葉全てがイジュンのために作られたようだった。
元々グループでビジュアルも担当している彼がはにかむだけで、何人ものLUNAが撃ち抜かれるのは納得できるのだが、まさか男自分がここまでドキドキさせられるなんて…
生イジュン…恐るべし…
そんなこんなで陸の初ライブは幕を閉じた。
当然こんな様子だったので妹にファンだとバレるし、Iliosの魅力にさらにどっぷりハマることとなった陸は、その後もオタク街道まっしぐらで突き進むのだった。
次はファンなら誰もが一度は憧れる推しとのヨントン。
ライブの熱が冷めきらない陸は、早々にイジュンにありったけの金を積むと決めた。
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