母獣列島

櫃間 武士

文字の大きさ
上 下
12 / 42

組合長

しおりを挟む
〇公民館。
T[女岩島めいわじまコミュニティセンター」

〇同、霊安室。
 台の上にシーツをかけられ横たわる武藤雄太の遺体。
武藤「雄太ァ!雄太ァ!!」
 屈強な大男、雄太の父親、武藤昭一(53)が遺体にすがりつき号泣。
T「女岩島めいわじま漁協の組合長、武藤昭一」
 制服姿の駐在、三好良介(29)が背後から武藤に話しかける。
三好「組合長……。お悔やみ申し上げます」
 武藤、振り向くと三好の胸倉をつかむ。
武藤「あいつはどこや!?」
三好「あ、あいつと申しますと?」
武藤「村長の娘や!わしの大事な一人息子を殺した腐れアマを渡さんかい!わしがこの手でぶち殺したるわい!!」
三好「た、橘 美咲は保護されて、診療所で治療中であります」
武藤「保護やと!?美咲は雄太を殺した犯人やないんか!?」
三好「大変申し上げにくいのですが、橘 美咲はご子息に…そのう…強姦されそうになって、やむなく抵抗したと……」
武藤「強姦!?そんな筈あるかい!雄太はあの売女に騙されて付き合ってたんやで。それは島の者ならみんな知ってることやろ。なんで今さら強姦せなあかんのや!」
三好「橘 美咲が別れ話を切り出したら、ご子息がカーッとなって、いきなり暴力に訴えた。そう証言しとるそうです」
武藤「そんなアホな!!」
 三好を突き飛ばす武藤。
武藤「雄太は誰かにはめられたんや!許さんぞ!必ず犯人を捜して、雄太の仇を取ったるからな!!」

〇診療所。病室。
 ベッドに眠る病衣姿の美咲。
 白衣の杏奈とスーツ姿の女刑事、越智絵里香(26)が話している。
絵里香「県警から参りました越智です。よろしくお願いいたします」
杏奈「よかった!やはり女の刑事さんですのね」
絵里香「はい。やはり性的犯罪の被害者の事情聴取には女性でないと。それに私は強行犯係ですから、当然殺人事件などの捜査にも当たれます」
絵里香「(腫れあがった美咲の顔を見て)酷いですねぇ……」
杏奈「打撲、擦傷が全身に多数。鎖骨にはヒビまで入っています」
 絵里香に診断書を手渡す杏奈。
杏奈「今は薬で眠っていますが、さっきまでパニック状態でした」
絵里香「可愛そうに…」
杏奈「正当防衛は認められますよね」
絵里香「それは彼女から聞き取りをしてみないとわかりません。十八歳の少年を殺害したのですからねぇ。事件態様では過剰防衛とみなすべきケースもあります」
美咲「えっ!?話が違うわ!私、刑務所なんか行かへんよ!」
 いきなり、ガバッと起き上がる美咲。
絵里香「先生!?薬で眠っていたのではないのですか!?」
杏奈「………美咲のバカ!」
 手で目を覆う杏奈。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

処理中です...