REMAKE~わたしはマンガの神様~

櫃間 武士

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ブラック・ジャック その7

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「手塚先生!そろそろ『魔法使いサリー』の第一回目の放送が始まりますよ!先生、楽しみにしていたでしょ」

 返事も聞かずにナース姿の岡田悦子がいきなり部屋の中に入ってきた。

 岡田は雅人たちが来ていることを知らなかったようだ。

 二人の姿を見て岡田は慌てて踵を返して部屋を出て行こうとした。

「お客さんですか!し、失礼しました!」

「いいから岡田さん……こっちへ来てちょうだい」

「は、はい!」

 岡田はペコペコと頭を下げながら雅人たちの前を通ってベッドの傍らに来た。

「半蔵門病院で看護婦をしていた岡田悦子さん。今はわたしの看護をしながら、漫画のアシスタントもしてくれているの」

「よ、よろしくお願いします!」

 岡田は恐縮して頭を下げた。

「この二人は……わたしの親戚のエリザさんと旦那さんの雅人さん。新婚旅行の帰りにお見舞いに来てくれたの」

「やっぱりそうですか!そうだと思いました!先生とエリザさん、よく似てますもんね。お二人ともとってもお美しい!」

「なんや!ええ娘やないか」

 エリザはすぐに岡田を気に入ったようだ。

 治美は枕元に置いてあったコミックグラスの入ったメガネケースを岡田悦子に差し出した。

「何ですか、先生?」

「あなたにお願いしたいことがあるの。いいかしら?」

「はい、何でも言って下さい!」

「岡田さん。あなたにこのメガネを引き継いでもらいたいの」

 雅人とエリザは治美の言葉に愕然とした。

「は、治美!?何を言っているんだ!?」

「いいから……黙って見ていて下さい」

 岡田はメガネを手にして当惑していた。

「でも先生、わたし目はいいですよ。メガネなんて必要ありません」

「それは未来のメガネ、コミックグラスなの。これをあなたにあげるわ。わたしに代わって手塚治虫の漫画を描いてちょうだい」

「ああ、またいつも未来人のお話ですか。漫画のネタですね」

「コミックグラスを掛けてみて……」

「はい、はい…」

 岡田はコミックグラスを顔に掛けた。

「はい、掛けましたよ。何か重いですね。メガネってこんなに重い物なんですか?あれ、これ度が入っていませんよ。先生、伊達眼鏡だったのですか?」

 雅人はハラハラしながら治美に問いただした。

「いいのか、治美!?本当に彼女でいいのか!?」

「本当はお医者さんがよかったのだけどこの娘も医療従事者でしょ。この先その肩書があった方がいいわ。この娘は絵もうまいし、性格もいいし、体も丈夫だし……なにより手塚治虫の熱烈な大フアンなのよ」

「なんかわかりませんが、褒めていただいてありがとうございます」

「岡田さん。あなたに二代目手塚治虫になってほしいの!わたしの代わりに……手塚治虫先生の作品をこの世の発表していってほしいの」

「えっ!?先生、漫画家辞めちゃうんですか?どうしてですか!?」

「あなたも看護婦なら……わたしを見ていてわからないの?わたしはもう長くないわ」

「嘘!先生はただの胃潰瘍じゃないんですか!?そんなの嫌だ!嘘!嘘!嘘!」

 岡田はすっかり取り乱して治美にしがみついた。

「落ち着いて、岡田さん。あなた……やっぱり看護婦は辞めて漫画家になったほうがいいわよ」

 雅人が無理やり岡田を引き離すと、彼女はその場に崩れるように座り込んでしまった。
 
「治美。本当にこの娘でいいのかい?」

「まあ、一抹の不安は残るけど………。わたしが入院した病院にこの娘がいたのも運命だと思います」

 治美は少し苦しそうに肩で息をし始めた。

「もう既にコミックグラスは初期状態に戻しているわ。岡田さん、自分の名前を言ってごらんなさい」

 治美に促されて、岡田は訳のわからないまま自分の名前をつぶやいた。

「……岡田……悦子……?」

 と、岡田の目の前に突然「岡田悦子様。ライセンス認証が完了しました」の文字が浮かんだ。

「あわわっ……!!」

 次の瞬間、岡田の目の前の空間に奇妙な図形がズラーッと現れた。

「な、何です、これ!?」

「透過式メガネ型端末、『コミックグラス』!未来のウェアラブルPCよ。声紋と虹彩で本人認証したから、もう岡田さん以外の人は使えないわ」

「せ、先生、本当に未来から来た人だったのですね!?」

「のみ込みが早くって結構!これから『コミックグラス』の使い方を教えるわ。わたしの言う通りにして」

 岡田は治美に言われるがまま、空中を人差し指でかき回し、コミックグラスを操作した。

「本当だ!手塚先生の漫画が私の目の前に出てきました!」

「原稿用紙の上にその漫画が重なるようにしてなぞって描いてゆくのよ」

「それじゃあ今までの手塚治虫の漫画って、先生が考えたんじゃなくってこの漫画を真似して描いていただけなんですか!?」

「そうよ……。がっかりした……?」

「はっきり言ってショックです」

 治美はコクリとうなずくと辛そうな表情でゆっくりと目を閉じた。

「――――でも先生が描かなければ手塚作品は誰の目にも触れなかったのでしょ。先生が描いてくれたおかげで日本中の人達があんな素晴らしい漫画を読めたのです。私は先生のしたことは正しかったと思います!」

「――――ありがとう…………」
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