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ロック冒険記 その4

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 昭和30年2月4日、金曜日。

 治美と横山が道頓堀の喫茶アメリカンを訪れた翌朝、家財道具一式を風呂敷に包んで小森章子は北野町の治美のもとにやって来た。

 喫茶店のマスターにウェイトレスを近々辞めたいと伝えたら、いきなり従業員の寮を追い出されたそうだ。

「今日からうちは宿無しどす。よろしゅうおたの申します」

 エリザ邸の入り口に立つ章子が深々と頭を下げた。

「よろしゅうと言われてもねぇ…」

 治美は彼女の隣で仁王立ちするエリザの方をチラッと見た。

 エリザは鬼のような形相で治美をジロリと睨み付けた。

「治美!あんた、また勝手なことしたんやな!」

「違います!違います!アシスタントに採用はしましたが、通いだと思っていました!」

 治美は急いでその場から逃げ出した。

「お願いします!うちをここに置いておくれやす!漫画だけやありまへん!どんな下働きでも文句言わんとさせてもらいます!」

 章子はその場で土下座をしてエリザに懇願した。

 エリザは首をゆっくりと左右に振って溜息をついた。

「あんた、身寄りはないのか?」

「天涯孤独の身の上どす」

「『どす』ってあんた、京都の人間か?」

「いいえ。生まれは出雲どす」

「鳥取生まれなんかい!だったらなんでそんな変な京都弁使ってるんや?」

「変どすか?」

「関西人はなあ、大阪弁、京都弁、神戸弁、みんな違いがわかるんやで」

「昨日まで勤めてました喫茶店のご主人が『お前は雅な顔立ちしとるから京都言葉で接客せえ』って言うたさかいどす」

「商売上のエセ京都弁やないか!もう普通に喋ってええで!」

「そないなこと言われても、一生懸命練習してきたので、もうこの言葉が身に染みておりますどすえ!」

「あー!もうそんなこと、どうでもええわ!横山!横山はおらんのか?」

「はい!エリザお嬢様!」

 エリザが呼びつけると、たちまち横山が飛んできた。

「横山。この人の寝るところを用意したって」

「しかし、お嬢様。使用人の部屋は、既に僕と金子さんが使っています。彼女を僕たちと同じ部屋にするわけにいきません」

「しゃあないから治美と一緒に屋根裏部屋で寝てもらおか」

「ええっ!」

 部屋の片隅まで逃げていた治美が大声で叫んだ。

「エリザさんの両親の寝室があるじゃないですか!」

「アホか!パパとママの寝室を勝手に使ったのがバレたら家を追い出されるわ!それでのうても、庭に勝手にパラック小屋建ててどないしようか悩んどるのに」

「屋根裏部屋に二人も寝るのは狭いですよ!」

「どうせ治美は徹夜してほとんどベッドで寝てへんやろが!東京に行くまでの間や、ガマンしとき!」

「シクシクッ!高い下宿代取ってるくせに…」

 泣く泣く治美は自分のベッドを章子に明け渡した。

 そして治美は虫プロ内の床に敷いた布団で寝ることになった。
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