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第02章 イセカイ笑顔百景

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(おばあちゃんは入れ歯だから柔らかいハンバーグ弁当ね。私は何にしようかな…)

 私が弁当売り場の前で考えていると、隣に立った若いOLさんが「コホン!」と咳払いをしました。
 私は驚いて、後ろに下がりました。
 OLさんは私の方をチラッと一瞥すると、手を伸ばして焼肉弁当を取って行きました。
 私は恥ずかしくて顔を真っ赤にしてうつむきました。

(私が邪魔だったんだ。いつまでも弁当売り場の前に立っていたから…)

 羞恥心で私の胸のドキドキが止まらなくなりました。

(落ち着け、落ち着け!)

 再び私は心の中で「寿限無」を唱えたました。

(落ち着け、落ち着け。私もハンバーグ弁当でいいや)

 私は慌ててハンバーグ弁当を二つ掴むと、レジに持って行きました。

 レジの店員さんがハンバーグ弁当のバーコードを読み込ませながらぶっきらぼうに私に尋ねました。

「弁当、温めます?」

(そら、来た!)

 私は答えました。

「お、お願いします!」

 私は少し噛んでしまいました。
 そんな私を見て、店員さんが薄ら笑いを浮かべました。
 羞恥で私の顔はみるみる真っ赤になっていきました。

(落ち着け、落ち着け。寿限無寿限無…)

 店員さんが電子レンジに弁当を入れ、スイッチを入れるとブーンと音を立て始めました。

「袋、いります?」
「えっ!?は、はい!下さい」
「1003円いただきます」
「えっ!?千円でしょ?」
「 弁当用袋代3円いただきます」

 私は恐怖で目を見開きました。
 ドッと冷や汗が流れ出ました。

(おばあちゃん。千円じゃ足りないよ!)

 私は恐る恐る握りしめていた千円札をカウンターの上に差し出しました。

「お客さん。3円、足りませんよ」
「……」
「黙っていちゃわかりませんよ。お金、持ってないんですか?」
「……」

「チッ!」

 いつも間にか私の後ろに並んでいた男の人が舌打ちをしました。

「おい!早くしてくれよ!」

 男の人が叫ぶと、店内にいた人たちが一斉に私の方を振り返りました。
 大勢の好奇の視線が私に突き刺さります。

「お、お金、取ってきます!」
「えーっ!もう弁当、暖めてるのに!」

 レジの店員が店中に響く大声で文句を言いました。

「だったら、そのまま手で持って帰ります!」

 私は弁当を受け取ると、いたたまれなくなりコンビニから飛び出しました。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 私は小声でつぶやきながら走り出した。
 弁当はやけどしそうなぐらい熱く、落としそうになりましたが、恥ずかしいので平静を装って小走りで急いで歩いていました。

 コンビニの前の横断歩道を渡ろうとした時、私は熱さに我慢できなくて弁当を道に落としてしまいました。
 私は呆然と横断歩道の真ん中で立ちすくみました。

 その時です。
 信号が赤に変わって、私はトラックに跳ねられたのでした。
 即死でした。

「――で、私が生まれたってわけ!
 こうして私はこの異世界に転生したのでした。
 いやー、元の世界に比べたら、まったくこの異世界はいい世界ですねぇ!
 異世界だけに
 なんてね!」

 自分のダジャレに思わず私はプッと噴き出してしまった。

 と、耳元にイルマ様の不機嫌そうな声がした。

『意味がわからん!まったく面白くないぞ!』

 私の生命をかけた渾身の創作落語は全くウケなかったのだ。

「や、やだなあ!今のは『まくら』と言いまして演目を始める前の小噺ですよ。これから本編が始まるのですよ」
「おお!そうじゃったのか!それは悪かったのう。早く本編を始めておくれ」

(どうしよ!?どうしよ!?高座を作るのに夢中で、他の話なんか考えてないわ!)

 私は小さくつぶやいた。

(そうだわ!おばあちゃんから聞いたお噺をお思い出すのよ!
 忘れじの魔法リメンバーミー!)

 私は自分で自分に忘れじの魔法リメンバーミーをかけたのだった。
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