上 下
64 / 89
第2章「深淵/アビス」

60

しおりを挟む
「そうか!森 泰斗モリ タイト!あんたは転生する時に、チートが使えると選択をしなかったんだな!」

 俺は弓で森に狙いを付けたまま話しを続けた。

「フン!その通りだ。『チートは使いますか?』と尋ねられた時、私は状況がよく飲み込めずに返事をためらっていた。すると、自動的にチートは使わない設定にされてしまったのだ」

 森は苦々しげに、吐き捨てるように言った。

「そうか。時間切れになったら、強制的にどちらか選択するシステムだったのか」

「お前たちはあんな訳も分からない状況で、よくもチートを受け入れたな」

「俺たちはあんたみたいに深く物事を考えない単純バカばっかりなんでね」

「あら!カエル男君と一緒にしないでもらいたいわね!私はチートが使える方が有利だと瞬時に判断して、選択したのよ」

 香菜子が不満げに会話に割り込んできた。

「ちょっと、ちょっと!今、緊迫した場面なんだから邪魔するなよ!」

 森がクククッと面白そうに笑い声をあげた。

「君は一年生の西 香菜子だったな。なかなか聡明で度胸もあるし、面白い女だ。気に入ったぞ」

「それはどうも、ありがとう!」

 香菜子はけっして俺には見せたことのない朗らかな笑顔を浮かべ、森に対して軽く会釈をした。

「話を戻そうか。森 泰斗!あんたは自分ではいくらタブレットを集めても錬金術は使えないから、俺たち錬金術師を集めて召使にするつもりだな」

「そうとも!正確には召使じゃない。ただの奴隷だよ」

「誰があんたの奴隷になんかなるかよ!」

「ふふん?西 香菜子、君も同じ意見なのか?」

「わ、私は………」

 香菜子は俺と森の顔を交互に見比べた。

「おいおい!香菜子!何を考えているんだよ!ビシッと言ってやれよ!さあ!」

「ごめんなさい!」

 そう言って、香菜子は深々と頭を下げた。

 そして、俺の脇をすり抜け、森 泰斗の方へと歩いていった。

「えええっ!?香菜子!?裏切るのかよお!!」

「だって、森さんの方がイケメンだし、頼りになるし、生活安定しそうだし……」

 香菜子はうつむきながら、森の背後に隠れていった。

「賢明な判断だよ、西君」

 森は自信満々で居丈高な態度でフンと鼻を鳴らした。

「西君。君はタブレットを使って次々と新しい術式を覚え、私の王国建設のために働いてほしい」

「森君の王国を作る手助けをするわけね」

「君の働き次第で、私が王となった時に君を王妃として迎えてやってもいいぞ」

「まあ!素敵!お姫様は女の子なら誰でも憧れる夢だわ!」

「西君。私の邸宅に戻って、二人で祝杯をあげよう」

「はい!」

 森とか香菜子は仲睦まじい様子で並んで階段を登っていこうとした。

「待て!この子達を開放してやれよ!」

「うるさい小蠅だ!お前でも何かの役に立つかもしれん。メイド共、そいつを捕らえて牢屋に入れておけ!」

 森が命令すると、地下室を警護していたメイド達が剣を構えて、俺を取り囲んだ。

「よせ!本当に撃つぞ!」

「やれるものなら、やってみろ!」

 森は鎧を着ているから、どうせ当たっても致命傷にはならないだろう。

 俺は遂に魔法の矢を放った。

 AIMの術式で照準を定めていたため、矢は一直線に森の胸に向かって飛んで行った。

 矢が鎧の胸当てに刺さる。

 と、その直前に矢は鎧を包んでいた光の壁に弾き飛ばされ、そのまま矢を放った俺に向かって跳ね返って来た。

「ウッ!!」

 矢は俺の腹に深々と突き刺さり、爆発した。

 俺の腹部の肉が削がれて、臓物がはみ出した。

 血のしたたりは床に広がり、松明の灯りにキラキラと輝いている。

 俺は息も絶え絶えの瀕死状態で、ゼーゼーと喘いでいた。

「―――ちくしょう!どんな攻撃も……跳ね返すっては……本当だったな……」

 俺はかなりのダメージを、HPが既に半分になっていた。

 だが、今の俺は満腹状態だから時間さえかければ、どんな傷も癒え、体力は回復する筈だ。

「そうは……簡単には……休ませてくれないか……」

 俺を取り囲んでいたメイド達がじわじわと近寄って来た。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編10が完結しました!(2024.6.21)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

処理中です...