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第2章「深淵/アビス」
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あれから一週間が経った。
ロック リーフには熟した麦が香ばしい匂いを放っている。
一面の麦畑は、今が丁度刈り時である。
俺たち7名は交代で麦を刈り、主食となるパンを焼いていった。
そして、ある程度の量のパンを確保したら、次に麦の代わりに色んな野菜や果物の種を植えていった。
幸いこの穴底に来る前に、俺は可能な限り野菜や果物の種は集めておいた。
「もう、このまま地下で一生暮らしてゆけるわね」
出来たばかりのトマトをもぎながら、香菜子が冗談めかして言った。
「冗談じゃねぇよ!こんな穴倉の底、もううんざりだ!第一、アタシ、いつまでこんな格好でいないといけねぇんだよ!」
皮ジャンにスク水姿の真耶が俺の方を睨みつけた。
「あらあら!いくらカエル男クンでも材料がないことにどうしようもないでしょ」
石窯でパンを焼いている彩香先生が、俺をかばってくれた。
「真耶ねーちゃん、辛抱たらんな!ここに来てからまだ1週間やで」
「カエルにーちゃんも頑張ってくれてるんや。うちらも我慢せなあかんで」
船に乗ってのんびりと魚釣りをしている岩田 菜々、萌々の双子姉妹も、口をはさんできた。
「でも、ジュリアもソレイユが恋しいデス。明るい地上に早く帰りたいデス」
工作箱を使って、棒と石炭から松明を作っていたジュリアが、物憂げな表情で俺の方を見つめて訴えた。
「大丈夫!大丈夫!大船に乗ったつもりで、俺に任せてくれ!」
俺はドヤ顔で、得意げに鼻を膨らまして言った。
「ま、まあ、カエル男さんがそう言うなら……」
真耶は少し恥ずかし気に微笑んだ。
「わかりました!カエル男!ボン・クラージュ!」
ジュリアも俺の言葉に安心したのか、再び作業に専念しだした。
この1週間、俺は日替わりでみんなと同じ豆腐小屋の中で一夜を共にした。
もちろん彼女たちにたっぷりと食料を持たせ、小屋の内側には扉をたくさん設置し、俺に対する好感度がマックスになるように細工しておいた。
その夜、彼女たちは頭の上にピンクのハートマークを浮かべながら俺と一夜を過ごし、翌朝、みんなのステータスには「俺の嫁」が追加されていた。
俺はこう見えて、ヤル時はヤル男なのだ。
だが、さすがに連日連夜の重労働に、俺の体力も精力も底をついていたが。
俺は懸命に農作業に励む女性陣を横目で見ながら、行く手に広がる黒い湖を見渡し、足りない頭でせいぜい今後の計画を考えていた。
正直言って、この穴倉の底から全員を地上に戻すにはどうしたらよいのか、まだ解決策が思いつかなかった。
(俺ひとりならば、時間はかかるが土を積み上げるか、岩壁にしがみついて登っていける。だが、6人もの俺の嫁をどうやって地上に戻したものか………)
彼女たちを不安にさせないため、わざと自信ありげに装ってはいたが、俺は内心途方に暮れていたのだった。
「よし、決めた!」
俺はポンと手を打った。
みんな、一斉に俺に注目する。
「ちょいと遠征して、魔石を集めてくる!」
俺がそう宣言すると、みんな、待ってましたとばかりに手を上げた。
「私も行く!」
「うちも連れて行って!」
「保護者が同伴しないといけませんわ」
みんな俺にしがみついて、是が非でもついて行こうとしたが、そういうわけにもいかない。
「いや。俺は一人で遠征してくるから、みんなはこの拠点を守ってしっかりと留守番をしてくれ」
「え~~~~!なんで!?」
「アタシも絶対についていくぞ!」
みんなが口々に不平を漏らす中、俺はこっそりと香菜子にだけ念話を送った。
(香菜子。お前だけを連れてゆくぞ)
香菜子はみんなに気づかれないようにコクリと小さく頷いてから言った。
「単独行動は危険だわ!せめて一人だけでも同行しなさい」
俺はわざと困ったような顔で、考える振りをした。
「――仕方がない。だけど連れて行くのは一人だけだぞ!」
「誰を連れてゆくのよ?」
「公平にくじ引きにしよう」
俺は畑に落ちていた麦わらを6本拾って、1本だけ、先を結んでクジを作った。
(香菜子。俺から見て一番右端を引け!)
俺は香菜子に念話を送った。
「さあ、恨みっこなしだぞ!」
俺は麦わらのクジをみんなに差し出した。
全員がどっとクジに群がったが、うまく香菜子は一番右端のクジを掴んだ。
「せぇ~~~~の!」
みんなが一斉にクジを俺の拳から引き抜いた。
「私が当たりね」
香菜子は無表情で先に結び目の出来た麦わらを高く掲げて見せた。
ロック リーフには熟した麦が香ばしい匂いを放っている。
一面の麦畑は、今が丁度刈り時である。
俺たち7名は交代で麦を刈り、主食となるパンを焼いていった。
そして、ある程度の量のパンを確保したら、次に麦の代わりに色んな野菜や果物の種を植えていった。
幸いこの穴底に来る前に、俺は可能な限り野菜や果物の種は集めておいた。
「もう、このまま地下で一生暮らしてゆけるわね」
出来たばかりのトマトをもぎながら、香菜子が冗談めかして言った。
「冗談じゃねぇよ!こんな穴倉の底、もううんざりだ!第一、アタシ、いつまでこんな格好でいないといけねぇんだよ!」
皮ジャンにスク水姿の真耶が俺の方を睨みつけた。
「あらあら!いくらカエル男クンでも材料がないことにどうしようもないでしょ」
石窯でパンを焼いている彩香先生が、俺をかばってくれた。
「真耶ねーちゃん、辛抱たらんな!ここに来てからまだ1週間やで」
「カエルにーちゃんも頑張ってくれてるんや。うちらも我慢せなあかんで」
船に乗ってのんびりと魚釣りをしている岩田 菜々、萌々の双子姉妹も、口をはさんできた。
「でも、ジュリアもソレイユが恋しいデス。明るい地上に早く帰りたいデス」
工作箱を使って、棒と石炭から松明を作っていたジュリアが、物憂げな表情で俺の方を見つめて訴えた。
「大丈夫!大丈夫!大船に乗ったつもりで、俺に任せてくれ!」
俺はドヤ顔で、得意げに鼻を膨らまして言った。
「ま、まあ、カエル男さんがそう言うなら……」
真耶は少し恥ずかし気に微笑んだ。
「わかりました!カエル男!ボン・クラージュ!」
ジュリアも俺の言葉に安心したのか、再び作業に専念しだした。
この1週間、俺は日替わりでみんなと同じ豆腐小屋の中で一夜を共にした。
もちろん彼女たちにたっぷりと食料を持たせ、小屋の内側には扉をたくさん設置し、俺に対する好感度がマックスになるように細工しておいた。
その夜、彼女たちは頭の上にピンクのハートマークを浮かべながら俺と一夜を過ごし、翌朝、みんなのステータスには「俺の嫁」が追加されていた。
俺はこう見えて、ヤル時はヤル男なのだ。
だが、さすがに連日連夜の重労働に、俺の体力も精力も底をついていたが。
俺は懸命に農作業に励む女性陣を横目で見ながら、行く手に広がる黒い湖を見渡し、足りない頭でせいぜい今後の計画を考えていた。
正直言って、この穴倉の底から全員を地上に戻すにはどうしたらよいのか、まだ解決策が思いつかなかった。
(俺ひとりならば、時間はかかるが土を積み上げるか、岩壁にしがみついて登っていける。だが、6人もの俺の嫁をどうやって地上に戻したものか………)
彼女たちを不安にさせないため、わざと自信ありげに装ってはいたが、俺は内心途方に暮れていたのだった。
「よし、決めた!」
俺はポンと手を打った。
みんな、一斉に俺に注目する。
「ちょいと遠征して、魔石を集めてくる!」
俺がそう宣言すると、みんな、待ってましたとばかりに手を上げた。
「私も行く!」
「うちも連れて行って!」
「保護者が同伴しないといけませんわ」
みんな俺にしがみついて、是が非でもついて行こうとしたが、そういうわけにもいかない。
「いや。俺は一人で遠征してくるから、みんなはこの拠点を守ってしっかりと留守番をしてくれ」
「え~~~~!なんで!?」
「アタシも絶対についていくぞ!」
みんなが口々に不平を漏らす中、俺はこっそりと香菜子にだけ念話を送った。
(香菜子。お前だけを連れてゆくぞ)
香菜子はみんなに気づかれないようにコクリと小さく頷いてから言った。
「単独行動は危険だわ!せめて一人だけでも同行しなさい」
俺はわざと困ったような顔で、考える振りをした。
「――仕方がない。だけど連れて行くのは一人だけだぞ!」
「誰を連れてゆくのよ?」
「公平にくじ引きにしよう」
俺は畑に落ちていた麦わらを6本拾って、1本だけ、先を結んでクジを作った。
(香菜子。俺から見て一番右端を引け!)
俺は香菜子に念話を送った。
「さあ、恨みっこなしだぞ!」
俺は麦わらのクジをみんなに差し出した。
全員がどっとクジに群がったが、うまく香菜子は一番右端のクジを掴んだ。
「せぇ~~~~の!」
みんなが一斉にクジを俺の拳から引き抜いた。
「私が当たりね」
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