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第2章「深淵/アビス」

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「おっ!何かあるぞ!」

 俺は豆腐小屋を建てるのは中止して、発見した建造物に近づいて行った。
 それは屋根のついた小さな井戸であった。

「これは恐らく、異世界人が作ったオアシスなんだろうな」

 俺たちはさっそく冷たい井戸水をくみ上げて、頭からかぶってビショビショになった。
 最後には互いに水の掛け合いをして、キャッキャウフフといちゃつきだした。

 充分と休憩も取れので、俺は井戸の傍に穴を掘ると、水をくんで小さなプールを作った。

「なあに、これ?プールを作って本格的に遊ぶの?」

「違うよ。高い所から飛び降りるためのプールだ。ここに塔を作って、渓谷がどこまで続くのか高い所から見てみるよ」

 俺はプールの手前に土を置くと、例によって例のごとく、ポンポンポンと土を積み上げながら登って行った。

 50ブロックほど積み上げると、俺は渓谷の方を見た。

/(^o^)\ナンテコッタイ

 俺は頭を抱えた。

「これは渓谷じゃないぞ!巨大な穴だ!それも自然に出来た穴じゃない。錬金術で採掘した穴だ!!」

 俺が渓谷だと思っていた崖、は一辺が1000ブロック程の正方形をしていた。

 これは術式「 MINE ONマイン オン」を使って、錬金術師が岩盤を掘った跡に違いない。
 おそらく、穴の深さも1000ブロックはあるだろう。
 この岩盤地帯に1000×1000×1000の巨大な穴を開けた錬金術師がこの世に存在するのだ。

 俺の場合、一度に掘れる範囲はせいぜい50ブロックが限界だった。
 ざっと俺の8000倍の一括破壊能力を持つ錬金術師がこの大穴の底に潜んでいるのだろうか。
 俺はブルと身震いして背筋がゾクゾクしてきた。

「帰ろうかな………」

 俺はスマホを取り出すと、マヤに電話をした。

「もしもし。かくかくしかじかなんだけど……」

「別にいいじゃん。そんなヤツ、やっつけちゃいなよ!」

「さすがスクールカーストの頂点にいた方は言うことが違うね」

「それに敵とは限らないでしょ。そんな強力な錬金術師が味方になってくれたら、こんな心強いことはないわ。また一歩、私たちの世界征服の夢に近づけるわよ」

「世界征服だと!?そんなこと考えてたのか!?」

「どうせ元の世界に戻れないなら、それぐらいしたっていいじゃん!」

「いやあ、俺はのんびり楽しくスローライフを送りたいだけなんだけど」

「何言ってるのよ!しっかり稼いでくれないと困るわ!」

(う~~~ん。俺のイメージしていたハーレムと違ってきたぞ……)

「若いんだから冒険心を持たなくちゃね!どうせ殺されても、すぐに生き返ればいいじゃないの」

「へぇへぇ!わかりましたよ」

 せっかくだから、土の塔の上に目印の松明とアンテナを立てて、俺は飛び降りた。
 予定通りプールの水の中にうまく着水したのでまったくのノーダメージだった。


「そんじゃ、さっそく地底探検に出かけるか」

「といっても、どうやってこの穴を降りてゆくの?SNEAKで壁にしがみつきながら降りるの?」

「何処まで続くかわかんねぇぐらい深いからな。そんなチンタラやってられないな」


 俺はツルハシを出すと、プールから崖まで岩盤を掘って1本の水路を作った。

 プールの水は崖下に向かって勢いよく流れ落ちていった。

 この異世界では、水源を地上より高い場所に設置すると滝が形成され、どこまでも流れ落ちてゆくのだ。

 俺はマヤの後ろに立つと一本の縄を取り出した。

 そして、その縄を二人の腰にグルグルと巻き付けて、けっして離れ離れにならないようにしっかりと縛った。


「それじゃ、行くぞ!」

「うん!」

 俺たちは岩壁に沿ってまっすぐに地下に向かって流れ落ちてゆく水流の中に身を投じた。

 俺はマヤを背後から強く抱きしめ、水流からはみ出して落下しないように気を付けながら地底に向かって降りて行った。

「ウォータースライダーみたいで楽し~~い!」

「マヤ……」

「なあに?」

「君はどこに落ちたい……?」

「なによ、それ?」

「え、えーと……」

「カエル男さん!」

「は、はい!」

「今のもどうせ、アニメのセリフなんでしょ?」

「ギクッ!」

「アタシ言ったよね。アニメなんか見ていないから、キモオタのジョークは通じないって」

「これは『どこ落ち』と言って、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』における名シーンの一つをパロったもので………」

「特にこういう生きるか死ぬかのシリアスな場面で、冗談言われると興ざめするんですけど」

「―――ホント、すみませんでした。反省してます………」

「今後二度とパロディは禁止ね」

「ええっ!俺、パロディできなきゃ何もストーリ作れない………」

「禁止!!」

「―――はい………」

 地上から遠ざかるにつけ、どんどんと周囲は暗くなっていった。

 俺は大好きなパロディを禁止され、この先どうしたらいいのか途方に暮れていた。
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