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第1章「始まりの塔」

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 んで、俺はチャッチャと家づくりを始めた。

 まず『T』と言ってから、剣を振り、それから、おもむろに新しい術式を叫んだ。

RECORD STARTレコード スタート !」

 本当はいちいち術式を口に出さなくてもいいのだが、美衣奈が期待のまなざしで見つめているのでちょっとサービスしてやった。

DIG ONディッグ オン !」

 そう言ってから俺は畑の前の地面に手刀を突き刺した。
 一瞬で縦30ブロック、横40ブロック、深さ2ブロック、地面が掘り起こされた。

FILL INフィル イン!」

 俺は地面の窪みに基礎固めのために石を敷き詰め、その上に黒樫の材木ブロックを敷き詰めた。

「床はフローリングだ。本当は羊毛を敷きたいんだが、ない物はしょうがない」

 それから、床を囲むように高さ4ブロックの白樺の材木ブロックを積み、屋根は空が見られるように総ガラス張りにした。

 最後にすぐに逃げ込めるように四方の壁に扉を付け、モンスターを警戒するために窓も四方に取りつけた。

 小屋の中には当然、作業箱、石窯、大きい物入れの3点セットを設置した。
 

RECORD ENDレコード エンド !」

「始まりの家」はアッという間に完成した。
 白壁の直方体のその姿は、まるで豆腐のようだった。

 こんな豆腐小屋でも、洞窟よりはよっぽどマシなので美衣奈は気に入ったらしい。
「さすがカエル男さん!」を連呼し、俺の自尊心をくすぐった。
 何しろ作業箱ひとつで、見る見るうちに家を一軒建ててしまったのだから、そりゃあ驚くわな。


NAMEネーム !豆腐小屋!」

「カエル男さん。さっきから、何をブツクサ言っているのですか?」

(――ブツクサだと!美衣奈のためにわざわざ口に出してやってるのに!)

「俺が『スタート』と宣言し、『エンド』と言うまでにやった一連の作業を『豆腐小屋』という名前の術式として登録したのさ。一度登録した術式は、以後、名前を詠唱するだけで何度でも使えるんだ」

「はあ………」

(わかってないな)

「まあ、パソコンのマクロみたいなもんだ」

「私もツナやお寿司は大好きです!」

「そりゃあやなくてやがな!」

 と、軽いボケとツッコミを披露したところで、実際に新しく作った術式『豆腐小屋』を実行して見せよう!

CALLコール! 豆腐小屋!」

 俺がそう叫ぶと、建てたばかり豆腐小屋の横の一角が光り輝きだした。
 目の前に光のカーテンに覆われた直方体が現れ、やがてその光のカーテンがめくれると中から全く同じ豆腐小屋がもう一軒現れた。

 もちろん、いくら錬金術でも無から有は生み出せない。
 俺のインベントリーからは豆腐小屋を建てるのに必要な木材と石とガラスが消費されていた。

 それから俺は「CALL!豆腐小屋!」を連呼し、豆腐小屋を3軒X4軒つなげたちょっとした豆腐邸宅を建てたのだ。

「あっと言う間に邸宅ができました!ツーバイフォー工法みたい!」

「それぞれの豆腐小屋に設置したい家具があったら言ってくれ。作業箱を使えば、ちょっとした椅子やテーブルなら錬成できるからな」

「えーと、だったらここは台所、あっちはリビング、ダイニング、寝室にして……」

「そうだ!離れに豆腐小屋をもう一軒、建てておこう。そこは大きい物入れを一杯置いてやるから、美衣奈の倉庫にしろ」

「わあい!そこは私の倉ですね。って呼ぼうかしら」

「―――それだけは、やめて下さい!」

 いろいろと作業をしていたら、夜になり暗くなってきた。
 だが、二人で立ててまわった松明が、くっきりと周囲を照らし出す。
「始まりの家」を中心に、半径500ブロックほどの地帯は、松明が等間隔に立てられ、まるで昼間のような明るさだった。
 これなら、モンスターが沸いてくる心配をしなくてもいいだろう。



 ―――朝チュン。

「それじゃあ、ちょっくら、行ってくるわ!」

「気を付けてね!早く戻ってきてね!ケーキ作って待ってますから!」

 俺は涙目の美衣奈の腰に手をまわして抱き寄せると、きつくハグをした。

 翌朝、俺は長沼 美衣奈を一人「始まりの家」に残し、大渓谷目指して旅立ったのだ。



 これが美衣奈との今生の別れになろうとは、神ならぬ身には知るよしもなかった。
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