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第1章「始まりの塔」

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 さて、このままボーと夜明けを持っているのも暇だ。
 俺は砂の塔の上でできる範囲の作業をすることにした。

 俺はインベントリーを開くと、昼間に伐採した杉の木の原木を作業用枠に入れて「材木」にした。
 出来た材木のうち半分を再び作業用枠に入れ、「木の棒」にしておいた。

 そうこうするうちに、夜空の月と星は東から西へと移動し、東の空が白み始めた。
 いつの間にか、真央の叫び声も消えていた。
 少し明るくなった地面を見下ろしたが、彼女の姿がなかった。
 どこかに逃げたのが、殺されてリスポーン地点に移動したのか。
 代わりにゾンビが5匹、じっとこちらを見上げていた。

 完全に朝日が昇った。
 俺を見上げてしつこく狙っていた5匹のゾンビ共は朝日を浴び、たちまち燃え上がった。
 ソンビは光を浴びると全身が燃え、消滅してしまうのだ。
 こいつらは夜、暗くなると生まれ、朝、明るくなると燃えて消えてしまう。
 たった一晩だけの命だ。
 思えば、はかない存在だ。

 俺はゾンビ共が燃えて腐った肉の塊になるのを確認してから、砂の塔を降りていった。
 朝になっても燃えないモンスターもいるからまだ油断はできない。

「やれやれ、女の悲鳴を聞いて、変なスケベ心を出すんじゃなかった。一晩、時間を無駄にしちまったぜ」

 俺はブツブツと独り言をぼやきながら、丘のふもとに作った拠点を目指して森を歩いていった。

「あんどおおおおお!!」

 背後からモゴモゴとこもった女の声がした。
 かなりハスキーボイスになっているが、高見 真央の声だ。

「なんだ、生きていたのか?」

 俺は振り返った。
 セーラー服をボロボロに引き裂かれた真央が樫の木の木陰に立っていた。

「あんどおおおおお!!」

 真央は俺に向かって両手を突き出して、つかみかかろうとした。

 と、陰から飛び出た真央の両手が、朝日を浴びて燃え上がった。

「ぎゃああああああ!!」

 真央は悲鳴を上げて、また、木陰に逃げ戻った。
 真央は両手の炎を、何度も木の幹に叩きつけて消した。

「あれれれ?何してんだ、お前?もしかして…………」

 真央は昨夜、ゾンビに襲われ、自分もゾンビになったのだった。

 青黒い肌をした真央は木陰から出ることができず、それでも俺のことを恨めしそうに白濁した目で睨みつけている。

「あんどうおおお、ころすうううう!あんどうおおお、ころすうううう!」
「かなり知能が低下しているみたいだな」

 真央は同じ言葉を繰り返し、ふらふらと体を揺らしながら立っている。

「あんどうおおお、ころすうううう!あんどうおおお、ころすうううう!」
「いや。ゾンビになる前と、あんまり変わらないか」

 元が美少女だったので、たとえゾンビになってもそんなに気持ち悪くなかった。
 むしろ、セーラー服の裂け目から覗く青黒い肌がセクシーでもあった。

「ゾンビ萌えか。俺にこんな性癖があるとは知らなんだ。ゲロ!ゲロ!ゲロ!」

 俺はゲスい笑い声をあげた。
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