卒業式

はしゅかろ

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卒業式

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「好きです。付き合ってください。」
卒業式
旅立ち、別れの行事である。そして始まりでもある。
そして僕はある女の子にそんな言葉を言っていた。
 
期末テストが終わり、あとは冬休みを待つだけの時期になった。
友達とテストの話をしていた時にある人が視界に入った。
僕は1年のころからずっと好きだった人がいる。
でも、話したことは指で数えるくらいしかない。
もともと仲が良くて好きになったわけではなく、いつの間にか彼女を目で追っていたからなのかと思っている。
奇跡的に3年間同じクラスだったけど、いつもクラスの中心にいる彼女にはしゃべりかけることは難しかった。
僕のこの気持ちは自分以外知らないはずだ。そうであってほしい。
そうでなければこの恋は叶わない。
その子が視界に入ってそんなことを思っていた。
こちらに目を向けずに自分の席へ向かっていく。
そしてしたくないテストの会話に戻った。
家に帰って真っ先に自分の部屋に行きたいところだ。
テスト後はいつもお母さんがテストのことを聞いてくるからだ。
いつもそれで足止めを食らってるので今日は早く部屋に行きたい。
何とかバレずに部屋に入れたが、いつ聞かれるのかわからないので作業に取り組むことにした。
僕は中学生ながらボカロPとして何曲か投稿している。
今は自分の曲を自分でカバーしたのを編集しているところだ。
年末までには投稿したいと思っている。
曲は作ったことはあるが、自分で歌うのは初めてだったのですごく練習していた。
自分は正体を隠したいわけではないのでカバーをやってみた。
そしてカバー曲に選んだのは唯一のラブソングだ。                 
その曲は僕の好きな人のことを想像して作ったので、もしかしたらバレるかもと思いながら作業をしていた。
そのせいで大事なテストをおろそかにしてしまった。
前日に夜更かしして勉強はしたのでそれなりの点は取れると思うが、自信はない。
親にいろんな機材を買ってもらったが勉強もしっかりやるというのが条件で出された。
僕はこれからも活動を続けていきたいので、回収されると面倒だ。
2,3時間くらい編集をして、ベットに倒れこんだ。
あとラスサビだけになったので、年末までには間に合いそうだ。
僕は2年の夏休み中、友達にこんなことを言われた。
「お前さ、音楽センスあるから曲作ってみたら?」
自分は運動はそれなりにできるが、それよりも音楽が好きで得意だった。
音楽のできる男子は少ないらしいので、自分はよく知られていた。
自分でも自信はあるが、天才ではないことは自分でもわかっている。
でも、友達にそんなことを言われたのでとても嬉しかったし、曲作りもやってみたいと思っていた。
そのことは夏休み入ってすぐ言われたので親に頼んで機材を買ってくれた。
作詞、作曲を1からだったので色々調べてやっていた。
でも、イメージがすぐに出てくるわけではなく1週間くらい悩んでいた。
そんな時、不意に人の影が出てきた。
「これだ!これなら書ける!」
そこからは早かった。
2日で作詞を終わらせて、次に日にはサビが完成した。
学校の課題はすぐに終わらせておいて正解だった。
目標を夏休みが終わるまでとしたので、クオリティの高いものを目指して作っていた。
そして8/30、ついに終わった。
その日は疲れてすぐに寝てしまった。
次に日の朝、曲を作ってみたら?と言われた友達に作ったことを伝え、曲も送った。
その友達は音楽が得意なわけではないが、曲の感想を言ってくれた。
最初の言葉はこれだった。
「この曲って誰かに向けての曲?」
図星だった。
その通り、誰かに向けた曲だ。
それは、僕の好きな人だ。
あのときに出てきた人は僕に好きな人だった。
そして、自分の気持ちを乗せるだけだったので、書きやすかった。
友達には察せられないようにごまかした。
好きな人がバレるのは嫌だ。
それからは、なにかいいイメージが浮かんだらメモをするようにして、次の曲の準備を進めていた。
映像を作るのが得意な友達がいたので、その友達にMVを作るように頼み、その後youtubeなどに投稿した。
めっちゃバズってはなかったけど、一部のボカロ好きには人気になった。
その後冬休みに1曲、春休みに1曲といいペースで曲が作れていた。
でも、受験勉強があったのでイメージの書き出しは一旦やめた。
夏になって、案が浮かんだ。
カバーをしてみないか、と。
とりあえず保留にして、中間テスト後にやろうと決めました。
特に変わらないテストを終えて、家に帰ってすぐに作業に入ろうとした。
しかし、お母さんに呼び止められた。
速く作業を始めたかったので、適当に返して部屋へ行った。
歌う曲を決めてなかったので、歌いやすい曲にしようと思っていた。
一番簡単な曲は、最初に作った好きな人への曲だった。
いい機会だと思った。
この曲を歌って、好きな人に送り、これが僕の気持ちだと伝える。
1番のタイミングは、「卒業式」
卒業式までに作り終わる、受験があるから早めに終わらせる。
この条件から年末まで、と決めた。
そこからは歌の練習、Mixのためにハモリの音の練習などいろんなことをした。
そして今日、後ラスサビというところまで終わった。
すべての音は取れてるからあとくっつけるだけだから1週間以内には終わるだろう。
まだ12月に入ったばっかりだから余裕があるから、終わったらしっかり確認できる。
そして、Mixが終わり、確認が終わるのがクリスマス前だったので、クリスマスに投稿することにした。
投稿をし終わり、好きな人に曲を送る日はいつにしようか悩んでいた。
今にうちに送っておくか、卒業式の少し前に送るか。
私立か公立か知っておくべきだ。
「どうやって聞こう」
そんな言葉が口から出てきた。
相手とはほとんど話してない相手。
いきなりlineしたらなんか怖いよなぁ。
そんなことを考えながら眠りについた。
悩んでいたら年が明けていた。
「このタイミングだ!」
あけおめのついでに志望校を聞こう。
いざ送ろうとしたとき、なぜか送れない。
みんなもあるのかな、好きな人にline送るとき。
そうしていると、相手のほうから、
「あけましておめでとう!」、と送られてきました。
あ、と一瞬思考停止になりました。
もういいやってなり、あけおめを送った。
その後また送れなくなった。
しかし、もう一回送ってるので覚悟を決めて志望校を聞いた。
答えてくれた。
私立の推薦だそうだ。
同じ学校には行けなさそうだ。
これは今日送ったほうがいいと思い、この曲おすすめだよ、とボカロバージョンを送った。
とりあえず聞いておくね~、会話終了。 
これだけでも上出来だろう。
そして時は進み3/2、明日は卒業式だ。
明日の式が終わった後に話がある、とだけ送った。
卒業式の準備は済ませていたので、思いを伝えるまでのシミレーションをしてから眠りについた。
そして、朝起きてから来てほしい場所と時間を送ってから学校へ向かった。
式が終わった、これからだ。
集合時間の5分くらい前に着いた。
2、3分くらい待って彼女が来た。
顔が燃えた瞬間、ドキッとした。
可愛かった。
近づいてきて「話って何?」と聞いてきた。
よし、やるぞ。
「これをまず聞いてほしい」と言って、僕が歌っているほうの曲を流し始めた。
「あ、この曲」、聞いてくれてたので、早めに話を始めた。
「これ、僕が歌ってるんだけどさ、」心臓がバクバクする。
「この曲君に向けた僕の気持ちなんだ。」
言った。言ってしまった。もう戻れない。
「そうなんだ」
「だからここで言う。」もういちど息を吸った。
「好きです。付き合ってください。」
卒業式は、旅立ち、別れ、そして始まり。
ここで振られてもいい、別れなのだから。
でも、振られたくない、始まりなのだから。
数秒の沈黙のあと、彼女が言った。
「ありがとう。私も好きだよ。」「じゃ..」「でも」
そう言って僕の声を遮った。
「私は君とは付き合えない」
彼女は目に涙を浮かべながらそう言った。
「なんで...」
言ってはいけないとは思っていたけど、出てしまった。
「君になら話してもいいかな」
彼女は涙をぬぐって話し始めた
「私は中学を卒業したら外国に行かなきゃいけなくなるの。親の仕事でね。
それで私だけ日本に残って一人暮らしするってお願いしたんだけど、受け入れくれなくて、私は一人でやっていけるのにって思ってるのに。」
彼女は話しているとまた涙が出てきていた。
「それって今から変えることってできるの?」
びっくりしたような顔でこっちを見てきた。
「それってどういうこと?」
僕は一度深呼吸して話し始めた。
「僕と一緒に住もうよ!多分親は一人でいることを心配してると思うんだよ。
いなかったんだよ、いままでに君を任せられる人が。」
また涙があふれ出ていた。
「うん。そうだよ。私が信じられる人が君しかいなかったからだよ。」
泣きながらそう言った。
「君の親のところに僕も連れてってくれない?僕が説得する」
「うん。そうしたい。ううん、そうしてもらう。」
笑ってくれた。やっぱり笑顔が似合う。
「なら、今のところは仮だけど、お願いします。」
「よろしく。じゃあ行こうか。」
手を彼女に差し伸べる。その手を取って
「うん!行こ!」
「始まり」の卒業式がこれで終わった。そして始まった。
 
 
あれからどれくらいたっただろう。「2人」で過ごした日々はとても早く進んでいった気がする。
そしてまた、「始まり」がやってきた。
僕たちは違う大学に進学するけど、過ごし方は変わらない。
毎日笑って、楽しむ生活はこれからもずっと続くだろう。そうであってほしい。
そんな毎日を守るのが僕の役目だ。
最初のほうは戸惑ったり、気まずくなったりした。
ケンカだって数えられないくらいしたと思う。多分これからもすると思う。
でもお互いに支え合いながら生活して、お互いを信頼することができていると思う。
いろんなところに行ったり、誕生日にはプレゼントをあげたり、クリスマスにはお家パーティしたり、いろんなことをした。
いまだってボカロPとしての活動もしてるし、案をもらったりしてる。
作り終わったら真っ先に聴いてもらうし、時々歌ってもらってる。
こうした毎日が大好きだ。
あの始まりの日がなければ、この毎日はなかっただろう。
曲を作っててよかった。音楽がやれててよかった。
彼女を好きになってよかった。彼女に好かれていてよかった。
「遅いよ~置いてっちゃうよ~」
「最後なんだしちょっと待ってくれよ~」
僕たちはまた二人でスタートラインに立ちに行く。
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