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23.そして、悪夢は繰り返される

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「……な……ん、で……。かぎ、は――」
「ん? 玄関の鍵のことかい? 一緒に連れてきた捜索隊長は『解錠魔法』を使えるんだ。普通の鍵なら簡単に開けられる。まぁ、通常は禁止されている魔法だけれどね。今は緊急だから許可をしたんだ」
「…………」
「さっき、誰かの名前を言っていたね? けれど姿が見えないということは、やはりここに【光の精霊】がいるのか。『洗脳魔法』を解除出来る上位魔導師はこの国にいないから、調べた結果、他に考えられるのは【光の精霊】が使う『浄化』しかないとメローニャが教えてくれたのさ。ふふ、その様子じゃ正解だったみたいだね。誰が【精霊】を召喚したのかは分からないが、死に値する奴だなソイツは」
「な……にを……」
「あぁ、何をしたのかって? 魔物にしか効かない『麻痺魔法』を“魔法石”に詰め込んで、この部屋に放り込んで解放したのさ。魔物は異界のモノ、同様に【精霊】も異界のモノだから、もしかしたら効くかと考えたが、見事に大当たりだ。今はそこら辺に無様に寝っ転がっているのか? ははっ、見えないのが残念だな」


『っくしょ……。オレサマが……目を離してるスキに……んなモン……用意してた……のか……』


 アーテルが動けない身体で、悔しそうに言葉を出す。


「そんなことより――イシェリア~?」


 コザックはゆっくりとした猫撫で声で囁き、カタカタと小刻みに震えているイシェリアの項に唇を押し当てると、ベロリと大きく舐めた。


「ひ……っ!?」
「君は……黒髪の男と“寝た”かい?」


 コザックの質問に一瞬意味が分からなかったイシェリアは、無意識に問い返していた。


「“寝る”……?」
「あぁ! その様子だとその男と寝てないようだね。ははっ、心から安心したよ。それにしても、髪の毛がこんなに短くなってしまって……。私のお気に入りの美しい髪が……。まぁ、また伸ばせばいいことか。それに、イシェリア? 離縁で傷心したのなら、真っ先に私のもとへ帰ってくれば良かったんだよ。何故旅になんて出たんだい? 傷心を考えられなくなるくらい、君をたっぷりと慰めてあげたのに……」
「……?」


(離縁で傷心の旅……? な、何を言っているんでしょうか……この人は――)


 逃げようにも、後ろからガッシリと抑え付けられており身動きが取れない。
 コザックは恍惚な表情でイシェリアの首筋を何度も舐め、前に回した手で彼女の胸を執拗に揉んでいる。

 イシェリアの身体の震えが全く止まってくれない。大量の冷や汗も流れ始めた。


(『洗脳魔法』が解かれた直後は気付かなかったけれど……、こんなにこの人が不気味で悍ましい人だったなんて……! ど、どうしよう……。怖くて身体が思うように動いてくれない……っ)


「あぁ……。君の久し振りの感触と匂い、汗の味も本当に堪らないな……」
「……っ。お、お願いです、離して――」
「イシェリア? 何故逃げようとするんだい? 君は私のことを心から愛しているんだろう? 愛する私からどうして離れようとするんだ?」
「ち、ちが……。愛してなんて――」
「あぁそうだ! イシェリア、朗報だ! 漸く君を抱くことが出来るんだ。神官の許可がやっと下りたんだよ。君の大好きな私のモノが、君の中に挿入はいるんだ。なぁ、嬉しいだろ? 今まで上の口で私のモノを美味しそうにしゃぶって舐めていたじゃないか。私の精液を咽るほど飲み干して、顔中に私の精液を付けて……。最高に唆られる光景だったな、アレは……クククッ」
「……めて……。止めて……下さい……」
「やっと君の下の口でも私のモノを咥えられるんだ。君の歓喜の表情がありありと目に浮かぶよ。あぁそうだ、愛する私の為に、君は目の前で自慰もしてくれたね。脚を大きく開いて、君の大事な部分が丸見えで。恥ずかしそうに自分の胸とソコを触る君は扇動的で、そのまま貫きたい衝動を我慢するのにかなり苦労したよ。それをもう我慢しなくていいんだ。城に戻ったらまたやってくれ、イシェリア。君が愛する私の為に。今度はちゃんと自分でイけるまで続けてみようか。君のその細く美しい指で解して柔らかくなったソコに、君が大好きな私のモノをたっぷりと咥えさせてあげよう」
「……う、く……。もう……もう止め……て……。お願……い……」


 思い出したくない過去を掘り起こされ、心がズタズタになったイシェリアの両目から、ボロボロと大粒の涙が零れ出る。
 コザックはそれに歓喜の笑みを見せ、彼女の顎を指で掴み無理矢理自分に向けさせると、その涙を唇と舌で残さず舐め取っていった。


「うぅ……っ。や、め――」
「あぁ……やはり君の涙は格別に美味しいな……。枯れる程に飲み干したいくらいだ……。君の血は帰ってからゆっくり味わうとしようか。極上のデザートとしてね……。ク……クククッ」
「……はぁ、変態言動はもういいわ。今のこの子の状態なら簡単に『洗脳魔法』を掛けられるわよ」
「何? まだ精神的に弱らせていないが……」
「あらあら、自覚が無いのが流石よねぇ。捜索隊長は外で待機させてるから、やるなら今よ」
「あぁ、もう出来るのだったら頼む。――イシェリア、今から君は私のことをもっともっと愛するようになるんだ。愛し合う私達は、ずっといつまでも一緒だ」



 ……この人を愛する……?


 ――違う違う違うっ! 私はこんな気持ち悪い人、全然愛してなんてない……っ!!



 私の“愛する人”は――



 ……ユーリ、さん……?




 ――違う。ユーリさんのことは“好き”だけど、違う……。




 私が“愛する人”は……



 私の“愛した人”は――





 どこへ……いったの――?





 メローニャが詠唱を唱え始める。イシェリアの身体が淡い桃色の光に包まれた。


『マズい……! このままだと、またイシェリアが『洗脳』に掛かっちまう……! 次『洗脳』に掛かっちまったら、オレサマの力じゃ解けねぇ! くそっ! 動けよ、頼むから動いてくれオレサマの身体っっ!!』


 アーテルの必死の願いも虚しく、麻痺が解ける気配は一向に無く、身体が全く動かない。


 ――そしてとうとう、メローニャの詠唱が終わってしまった。
 イシェリアの身体から光が消え、彼女はボーッとした顔で前を見ている。
 コザックはイシェリアを身体ごと自分の方へ向かせると、彼女を抱きしめながら言った。


「愛してるよ、イシェリア。君も私を愛しているだろう?」


 その言葉に、イシェリアはコザックをゆっくりと見上げて小さな口を開く。

 彼女の黄金色の瞳は、泥沼のように濁っていて――


「……はい、私も陛下を心から愛しております」
「……は……はははっ! そうかそうか! そうだよな!? 君は私だけを愛しているんだ。君は私だけのモノなんだ。なぁ、そうだろうイシェリア!?」
「はい、陛下。私は貴方様だけのモノです……」


 頬を染めらながら言葉を紡いだイシェリアは、ふっと意識を失った。


「イシェリアッ!?」
「『洗脳魔法』の負荷が大きかったのね。暫くしたら普通に目を覚ますわよ」
「そうか……」


 コザックは満面の笑みを浮かばせながらイシェリアの額と頬に唇を寄せると、彼女を両腕に抱きかかえた。


「城に帰るぞ、メローニャ。黒髪の男がいたら即座に殺して秘密裏に葬ろうと思っていたが、いないのなら仕方ない。それより早く帰って、目覚めたこの子を思う存分抱き潰したい」
「はぁ、セッカチねぇ。そこら辺に転がってる【光の精霊】はそのままでいいのかしら?」
「二回目の『洗脳魔法』は、もう【精霊】には解けないんだろう? ならば放っておけばいい。姿が見えないから結局は何も出来ないしな」
「まぁ、それもそうね」


 話しながら、二人はリビングを出て行ってしまった。気を失ったイシェリアを連れて――



『……ちきしょうッ! 早く帰ってこいよあのバカヤロウがぁーーッッ!!』



 床に突っ伏したアーテルの、誰にも聞こえない叫び声が、虚しくリビングに木霊したのだった……。



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