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22.『魔の手』、現る

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 ユーリとイシェリアは、指を絡ませ寄り添い合いながら町中を歩いていた。
 イシェリアがユーリの家で暮らし始めてから三週間になったが、町人達の間では、二人は『恋人』を通り越して『新婚夫婦』だと思われていた。

 町を歩く時は、常に恋人繋ぎで身体がくっつくほど寄り添い、町中なのにユーリは堂々とイシェリアの額や頬にキスをしているからだ。
 勿論イシェリアは恥ずかしがって止めようとするが、ユーリは何処吹く風だ。

 結局彼女が根負けしそれを受け入れ、彼女も彼に同じことをする。
 それが終わると至近距離で見つめ合い、やがてユーリは楽しそうに、イシェリアは照れたように笑い合って。


 ……ここに住む町人達は呆れを通り越して、常に砂を吐くほど戯れ合う二人を微笑ましく、生温かく見守ることにしたのだった。




 必要な物をお店で買い帰路に就いていると、不意に「ピィ」と甲高い声がし、空から青色の小鳥がパタパタと飛んできた。
 その鳥はユーリの肩に乗ると、そのまま毛づくろいを始める。


「わぁ、可愛いです……! その鳥さんは?」
「伝書鳥ですよ。仕事関係の手紙を運んでくれるんです」


 ユーリは小鳥の足に付いていた小さな紙を外すと、中身をザッと目を通す。


(『仕事』……。そうです、今までずっと一緒にいて頭から抜けていましたが、この人は“暗殺者”――)


「……すみません、イシェリア。急用の仕事が入りました。家に帰って荷物を置いてから、すぐに出掛けます。僕が戻ってくるまで決して外に出ないで、鍵を掛けて僕の帰りを待っていて下さいね? そんなに時間は掛かりませんし、なるべく早く戻りますから」
「……はい、分かりました……」


 家に到着するとユーリは買ってきた物を手早く片付け、イシェリアの頬と額にキスをして彼女をギュッと抱きしめる。


「いってきます」


 ユーリは微笑みながらイシェリアの頭を撫でると、足早に玄関を出て行った。


「いってらっしゃい……」


 ユーリの背中を見送り、扉を閉めて鍵を掛け、すごすごとリビングに戻る。


(ユーリさん、“暗殺”のお仕事でしょうか……。けど、一緒にいる内にユーリさんのこと少しは分かってきたけど、“暗殺”なんてするような人じゃ――)


 イシェリアが物思いに耽っていると、ポンッという音と煙と共に、何とアーテルが姿を現した。


『よっ、イシェリア。久し振りー』
「えっ、アーテルッ!? ちょっ、今までどこに行っていたんですかっ!? 突然いなくなって心配していたんですよっ!? ずーっと姿を現さないで!!」
『悪ぃ悪ぃ、ちょいと【精霊界】に戻ってたんだ。召喚された【精霊】は、定期的に【精霊界】の空気を吸わないと弱っちまうからな。んでまた喚ばれて、アルジの命令であのクズ王の動向を見張ってたんだよ。そんで今、すっげぇヤバい状況になってるから急いでこっちにすっ飛んできた』
「えっ!?」
『アンタが生きているのがバレて、クズ王がアンタを捜して捕まえて城に連れ戻そうとしてるんだ。この場所も既にバレちまってる。今すぐここから逃げるぞ!』
「えっ、ええぇっ!?」
『驚いてる暇はねぇぞ! 早く――』


 アーテルがイシェリアを急かそうとしたその時、ガチャン!! という窓硝子が割れる音と同時に、小さな丸い石がリビングに投げ込まれた。
 それは床に落ちるとパリンと粉々に砕け散る。


「え? こ、これは――」
『……ぐっ!?』


 突如にアーテルがビクビクと身体を震わせ、羽が動かなくなったと思ったらパタリと床に落ちてしまった。


「あ、アーテルッ!?」
『こ、れは……。マヒ……だ……。イシェ……、はや……逃げ――』
「アーテルッ!!」


 慌ててアーテルのもとに駆け寄ろうとしたイシェリアの後ろから、ニュウッと両腕が回され、誰かに抱き竦められた。


「えっ!?」
「――見つけた……やっと見つけた、私の可愛い愛しのイシェリア……。ずっとずっと……ずーっと君に会いたくて会いたくて……。君の声を聞きたくて、君に触れたくて仕方なかったよ……。クク……フフフ……ッ。ハハハハ……ッ!!」



 耳元に聞こえてきたその声に、イシェリアはヒュッと息を呑み、身体がビシリと石のように硬直する。



 狂ったように嗤いながら、後ろから自分を強く抱き竦めているのは、この世で一番会いたくない相手――国王コザックだった――


















※後書き※

ド変態野郎にめげず、ここまでお読み下さり本当にありがとうございます。
次回、通常は朝に更新するのですが、爽やかな一日の始まりで頑張る気持ちを、ド変態野郎の所為で毒の沼地に足を突っ込むような不快な気持ちに変えてしまったら土下座の勢いですので、明日は夕方~夜に更新の予定です。
引き続きお楽しみ頂けたら幸いです!



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