15 / 38
15.上書き *
しおりを挟む「……め……て……」
イシェリアの微かな呻き声に、ユーリはすぐに目を覚ました。
彼の腕の中で、イシェリアは額から脂汗をダラダラと流しながら眉を顰め、何度も同じことを呻いている。
「へ……いか……。止め……くだ……い……。ぶたな……で……。かま……いで……。お……ねが……」
「っ!?」
そしてイシェリアはきつく閉じた瞼から、透明で綺麗な涙をポロポロと流し始めた。
ユーリはすぐにベッドの脇にあるランプを点ける。
「イシェリア……イシェリアッ!!」
ユーリの鋭い呼び声に、イシェリアはハッとして涙に濡れた両目を開けた。
「……あ……。え……わ、私……?」
「……イシェリア。少し身体を見せて下さいね」
「えっ!? や……ちょ、待っ――」
イシェリアの制止に構わず、ユーリは彼女のシャツを膝下の裾から首元まで大きくめくり上げ、勢い良く頭から脱がせる。
「……っ!!」
イシェリアの身体のあちこちに、何かで打たれたような、くっきりとした朱色の痛々しいみみず腫れがあり、噛まれて歯型が残った裂傷も無数にあった。
それはどれも、ドレスを着ていると見えない箇所にあって。
二の腕の裏側や太腿の付け根など、痛みを酷く感じる場所にもビッシリとつけられていた。
桃色の乳首にも裂傷の跡があって――
王城を離れて数日も経っているのに、こんなにクッキリと痣が残っているのは、恐らく痣が暫く消えないような特殊な物で打たれたのだろう。
噛み跡も、歯を立て深く噛まれたに違いない。
「…………」
ユーリの唇が、血が滲むほど強くきつく噛み締められる。
「う……。み、見ないで下さい……。こんな……こんな醜い身体――」
イシェリアが涙目で自分を抱きしめて身体を隠そうとしたのを、ユーリは彼女の両手首を片手で掴み、頭の上で優しく押さえ付けた。
「醜くなんて決してありません。とても……すごく綺麗です。いつまでも見ていたいくらいに。――嘘ではありません、僕の本心です」
「え……」
「この二年間、酷く辛く……苦しい思いをされてきたのですね……。助けることが出来ず、本当に申し訳ありませんでした……」
「えっ!? いえっ、そんな――貴方が謝ることでは……っ!」
ユーリが余りに辛そうな声で謝ってきたので、イシェリアは慌てて首を横に振る。
「痛みは……?」
「あ、いえ……。今はもう大丈夫です……」
「そう……良かった。……せめてものお詫びとして、“上書き”してもよろしいですか?」
「う、“上書き”……?」
「貴女をうんと気持ち良くさせたい」
ユーリはハッキリとそう言うと頭を下げ、イシェリアの首筋に唇を這わせ始めた。
イシェリアは彼の突然の行動に目を白黒させる。
「え、あ……えっ!?」
「大丈夫、決して痛くしません。約束します。ですので、どうか僕に身体を委ねて下さい」
「……っ」
ユーリはイシェリアのすぐ耳元でそう囁くと、彼女の上半身に唇と舌を這わせていく。
特に、朱くミミズ腫れになっている部分と噛み跡の部分を優しく口付けされ舐め上げられ、イシェリアは耐え切れず喘ぎ声を漏らしてしまった。
「ふふ……いいですよ。我慢せずに声を出して下さい。貴女の可愛い声を、僕はもっと聞きたい。……聞かせて欲しい」
「う……あ……」
クスリと笑うユーリに、イシェリアは顔全体を赤くさせて口をパクパクさせる。
そして、ユーリの口がイシェリアの胸の先端を軽く咥えると、彼女の身体がビクリと跳ねた。
咥えながら舐め、優しく吸い上げる度、彼女はピクピクと身体を震わせる。もう片方の乳首にも同じことをし、彼女から甘い声を出させた。
ユーリは大きく息をつくと一旦頭を上げ、イシェリアの脚を開かせた。そして、太ももの内側にも唇と舌を這わせる。
ミミズ腫れと噛まれた部分は念入りに舐める。嫌な思い出を塗り替えられるようにと願いを込めて。
「――イシェリア」
「あ……。は、はい……」
「ここは、何もされてない……ですよね?」
ユーリは下着で隠されている場所を指で優しく撫でると、彼女の微かに息を呑む音が聞こえてきた。
「……っ。脱がせますよ」
「えっ!? やだっ、だめ――駄目です……っ!」
慌てたイシェリアの阻止より早く、ユーリは一旦脚を閉じさせてスルリと下着を取り除くと、再び大きく開かせる。
「っ!!」
性交していないのは一目で分かった。そこは綺麗な桃色のままだったからだ。
しかし、その柔らかい部分にもいくつか深い歯型の跡があり、頭を覗かせているプックリとした小さな芽にも、噛み跡のような赤い一筋の傷があって――
ユーリの前髪の隙間から、紅く輝く鋭い光が発せられたのをイシェリアは見た。
それは、背筋が凍るくらいの、凄まじい憤怒の紅い光で――
イシェリアの身体が、本能的に殺気を感じ取り、ブルリと大きく震えた。
「……“上書き”、しますね。遠慮せずに声を出して構いませんから」
ユーリは何度も深く息を吸って吐くと、イシェリアの秘所に顔を埋め、そこを丹念に舐め始めた。
半分隠れている小さな芽は、口に含ませ、舌で転がしながら優しく吸い上げる。決して噛んだりはしない。
何度もそれを繰り返され、イシェリアの内側からグングンと何かが迫り上がってきて。
「あっ、ああぁッッ!!」
やがてそれが頭の中で真っ白になって弾け飛び、身体がビクビクと波打った。
コザックの“お仕置き”の時にいつも感じていた激痛とは全く違う、激しいけれど酷く心地良い快感だった。
グッタリとベッドに身体を沈ませて乱れた息を整えていると、溢れてきた愛液を舐め終わったユーリが、イシェリアの身体を優しく抱きしめてきた。
そして、彼女の頭を静かに撫でる。
「イシェリア、もう一度おやすみなさい。今度はきっと、良い夢が見られると思いますよ」
「……ユーリ、さん……」
「はい……?」
「ありがとう……ございま……す――」
イシェリアは重くなった口を開き何とか言葉を出すと、すぅっと瞼を閉じて意識を手放した。
「……イシェリア……。イシェリア、本当に……ッ」
ユーリは切なそうに眉根を顰め、唇をギュッと噛み締めると、眠るイシェリアの額と頬に何度も唇を落とし、彼女の華奢な身体を守るように包み込んだのだった――
756
お気に入りに追加
1,666
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる