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永遠に一緒となる元娘と元義父のお話【メリバルート〜救済エンド〜】
8.永遠に一緒
しおりを挟む「そう……。実のお父さんが亡くなられて、義理のお母さんに森に置いていかれて……。まだ十歳なのに、大変な目に遭ったのね……」
「えぇ、そのお母さんは、恐らくあの子のことを迎えには……」
大人達のヒソヒソと話す声が扉越しに聞こえ、少女はオレンジ色の瞳を潤ませ、涙ぐんで俯いた。
「お待たせ、ユーティスちゃん。あなたは今日からこの孤児院で生活するのよ。心配しなくて大丈夫よ? 先生達も皆優しいし、子供達も良い子ばかりだから、ユーティスちゃんもすぐに溶け込めるわ。これから一緒に暮らす子供達を紹介するから、付いてきてくれる?」
扉から年配の院長が出てきて、ユーティスの手をそっと握って歩き出す。彼女は涙目で俯いたまま、黙って付いていく。
そこへ、一人の先生が駆け寄り院長に報告しに来た。
「院長、いつもの如く抜け出して遠くに行っていたあの子を捕まえ確保しました! 全く、毎日毎日抜け出してあちこち行くんだから……! 誰かを捜してるって言ってたけど、あの子を捜すこっちの身になって欲しいわ!」
「あらあら、御苦労様でした。あの子はすごく元気で子供達のリーダー的存在だけど、その抜け出し癖は何とかしないとねぇ……。無事に見つけられて良かったわ。ありがとうね」
「いえいえ、院長の為なら!」
「その子、日中は大抵孤児院の中にいないから、初日にユーティスちゃんに紹介出来そうで良かった。――さぁ、着いたわ、ここよ。入りましょう」
院長がガチャリと扉を開けると、そこは子供部屋だったようで、十数人の子供達が集まっていた。
子供達の視線が一斉にユーティスに注がれたが、彼女は顔を上げることが出来ないでいた。
その時、「えっ!?」と言う驚愕の声が子供達の方から聞こえてきたが、悲しみに暮れているユーティスには、それに構う余裕など持っていなかった。
「皆、新しいお友達を紹介するわ。名前はユーティスちゃん、年は十歳よ。ここに来たばかりで慣れないことも多いから、皆で助け合っていきましょうね」
「はーい!!」
「わっ、すっごい可愛いじゃん? ねぇユーティスちゃん、今度僕と二人で――」
「ちょーっと待った! おいコラ、よく聞け男ども!! ユティはオレの奥さんなんだからな!? コイツに手ェ出したらタダじゃおかねぇぞ!!」
「……っ!?」
ユーティスはその声に弾かれるように頭を上げた。
彼女の目の先には、燃えるように鮮やかな紅い髪と、キラキラと輝いたルビー色の瞳の、顔立ちの整った同い年くらいの少年がいた。
ユーティスと目が合うと、少年はニッと、太陽のような眩しい笑顔を浮かべた。
「ユティ! ずっと……ずーっと捜してたんだ!! まさかオレと同い年だなんて……! オレ、今なら神サマにすっげー感謝出来るよ! ユティとこんなに早く逢わせてくれてありがとな、って!!」
声変わりが始まる前の少年特有の高い声だけど、ユーティスはその口調に確かに覚えがあった。
それに、自分のことを『ユティ』と呼ぶのは、昔も今も只一人だけ――
「っ!!」
その瞬間、様々な記憶が頭の中を駆け巡る。
莫大なその記憶達にクラクラしながらも、ユーティスは少年の名前を呟いていた。
「……ゼ、ノ……? ――ゼノ、なの……?」
「……っ!? ユティ、オレのこと思い出してくれたのかっ!? やった! すっげー嬉しい!!」
ゼノは満面の笑顔でユーティスに駆け寄ると、彼女の身体を強く抱きしめた。
そしてそのまま端正な顔を近付け、唇を重ねる。
瞬間、周りから黄色い悲鳴が飛び交った。
「こっ、コラ!! 何してるの!? まだそんなこと早いでしょうっ!?」
院長が慌てて二人を引き剥がす。それにゼノはブーブーと文句を言った。
「再会したら、抱きしめて沢山キスする約束をしてたんだよ! まだ一回しかしてないじゃんか! 約束はちゃんと守らなきゃだろ? 院長だっていつも言ってるじゃん! それにユティはオレの奥さんなんだからいいんだよ!」
「まだ十歳なのに何マセたこと言ってるの! それに、あなた達知り合いだったの? あっ、もしかして、ゼノ君が毎日捜してた子って――」
「そう! コイツ……ユーティスだよ! オレの可愛い、大切な愛しの奥さん!」
「だから十歳で奥さんは早いのよ!?」
院長とゼノのやり取りに、ユーティスは思わずフフッと笑ってしまった。
その笑顔に、ゼノは勿論、他の男の子達も見惚れてしまう。
「相変わらず、笑顔がすっげー可愛いなぁ、流石オレの最高の奥さん――って、コラ男ども! オレのユティに見惚れてんじゃねぇよ! 目ん玉全てほじくるぞ!?」
「勝手にお前のにすんなよな、ゼノ! ユーティスちゃんビックリしてるだろ!?」
「オレ達は前世で『夫婦』だったの! だから今世でも『夫婦』になるんだよ! これ決定事項! お前らが入る隙間なんて微塵にもねぇの!」
「はぁっ!? 何ワケ分かんないこと言ってんだバカゼノー!」
「あぁっ!? 誰がバカだってぇ!? バカって言った方がバカなんだよバーカッ!」
「お前だって言ってるじゃんかバーーカッ!!」
「こーら、ケンカはやめなさーい!!」
ギャーギャー騒ぐゼノ達を、ユーティスは微笑みながら見ていた。
(ゼノ、すごく楽しそう……。良かった……本当に良かった。願い通りに同い年になってるのはビックリしたけれど……。森に捨てられてすごく悲しかったけど、ここでなら楽しくやっていけそう。だって、ゼノがいるから――)
「ユティ! この孤児院を案内してやるよ。行こうぜ!」
思考に耽っていたユーティスの耳にゼノの声が聞こえたと同時に、自分の指に温かい指が絡められる。
「あー! 抜け駆けはずりーぞ、ゼノー!」
「ふふん、オレ達は『夫婦』だからいいの!」
「会って初日で『夫婦』ってワケ分かんねー!」
「ちょっとゼノ! ユーティスちゃんをあまり引っ張り回すんじゃないわよ!」
子供達の声を背に受けながら、二人は笑い合うと、絡め合った指を強く握り締めた。
――大きな苦難を乗り越えた、二人が共に歩む道は、きっと賑やかで明るい“幸せな未来”が待っていることだろう――
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