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永遠に一緒となる元娘と元義父のお話【メリバルート〜救済エンド〜】

7.また会える日を胸に

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 ユーティスは、様々な色のアイリスの花に囲まれてスヤスヤと眠っていた。
 そこに、自分を呼ぶ声が聞こえた。

 懐かしくて温かい、自分がよく知っている者の声だ。


「――ティ。ユティ? 起きろよ、ユティ。そんな所で寝てたら風邪ひいちまうぜ?」
「……ん、んん……? 大丈夫だよ……。ここは“天の国”だから、風邪なんてひかないよ……」
「あ、そっか。そうだったな」
「ふふ、そうだよ……」


 ユーティスは目を擦りながらムクリと起き上がると、笑いながら自分を覗き込んでいる人物を見上げ、ニコリと微笑んだ。


「おかえりなさい、ゼノ。ごめんね、待ちくたびれて眠っちゃった」
「あぁ、悪ぃ……遅くなっちまって。――隣、いいか?」
「うん、どうぞ」


 ゼノはユーティスのすぐ隣に座ると、風に揺れるアイリスの花を眺めた。
 おもむろに、ユーティスが口を開く。


「……大変だった? ここに来るまで……」
「いや? 全っ然?」
「…………本当に?」
「……実は、すっげー大変だった。死んでるけど、『あぁ、死ぬわオレ』って数え切れない位思った。血反吐なんて何千回吐いたことか……。精神的ダメージも徹底的に容赦無くてさ……。こうやってここにいるのが不思議なくらいだぜ」
「……うん、そっか。――よく頑張ったね? 偉い偉い。流石私の素敵で格好良い旦那様」
「おぅ、もっともっと褒めてもいいぞ?」
「あははっ」
「……お前のさ、“幻”にも散々責められたよ。『どうしてあんな酷い“お仕置き”をしたの』って、泣きながら……。他は何とか耐えられても、それだけはかなりキツかったな……」
「……ゼノ。もしかして謝ろうとしてる?」
「……ダメ……か?」
「そのことは全て、あの時の炎に呑まれて灰になって消え去ってるよ。もう、考えるのも謝るのも無しね?」
「……“本物”のお前は、絶対にそう言うと思ってた。だからすぐにアレが“幻”だって気付いたんだ。“幻”でもお前に責められて辛かったけど、“幻”でもお前に会えて嬉しいっていう複雑な感情が生まれてた」
「ふふっ、ホントに複雑だね」
「だろ?」


 二人は笑うと、ここで初めて顔を見合わせた。


「……あの場所にいる間、お前に会うことだけを支えに頑張ったよ。お前の存在が、あの地獄以上の辛い日々を乗り越える力になってた」
「……私も。約束、守ってくれるって心から信じてたから。待ってる間、不安なんて全然感じなかったよ。――会えて……すごくすごく嬉しい、ゼノ」
「オレもだ、ユティ。ものすっげー嬉しい。……一つだけ、贅沢を言えば――」


 ゼノは、ユーティスの頬に手を伸ばす。
 その指は、彼女の頬に触れることなくスッとすり抜けていった。


「……お前に、もう一度触れてぇなぁ……」
「……うん。私もだよ、ゼノ」


 ユーティスは、泣き笑いの顔でゼノを見上げた。


 二人は、魂のみの存在なのだ。だから実体は無く、お互い触れることは決して出来ない――


「……ユティ。お前さ、ここでも善行を積んで、『生まれ変わりの権利』を貰ったんだってな? その期限はいつだ?」
「うん、実は今日が期限だよ。今日を過ぎたら、もう二度と生まれ変われずに、ここで魂が消滅するまで暮らすことになる――」
「危ねぇ……ホントギリギリだったんだな。待たせて本当に悪かった……。けど、間に合って良かった。――先に行けよ、ユティ。オレもすぐ後を追うから。ここに来たと同時に、オレも『生まれ変わりの権利』を貰ったからさ。あの地獄以上の超絶キッツイ場所でよく頑張りました、っていうご褒美にさ」


 ユーティスはゼノの言葉に、パッと花が咲いたような笑顔を浮かべた。


「本当っ!? じゃあ私達、一緒に生まれ変われるね! 同じ世界にいけるね!」
「あぁ、そうだ。――ユティ。生まれ変わっても、オレは絶対にお前のことを忘れない。必ずお前を見つけ出す。例えお前がオレを忘れても、オレだけは絶対に忘れない。再び約束する、ユーティス。オレ達は生まれ変わっても、ずっと一緒だ。永遠に一緒だ」
「うん……。絶対に見つけてね、私を。私も、ゼノのこと忘れないから。もし忘れてても、必ず思い出すから」
「あぁ、オレが思い出させてやるから安心しろ。……なぁ、ユティ……。もし、さ。もし……願いが叶うなら、オレはお前と同い年になりてぇな。そんで、子供の頃に出会いてぇ。そしたら、より長く一緒にいられるだろ? またさ、二人で色んな場所に行こうぜ? これも約束、な?」
「うん!」


 ユーティスが泣きながら笑うと同時に、彼女の身体が虹色に輝き出した。


「――時間だ……。またね、ゼノ。私に会ったら、一番に抱きしめてね?」
「あぁ。ついでに沢山キスしてやるから覚悟してろよ? それが町のド真ん中でも、公衆の面前でも、だ」
「あははっ、それは恥ずかしいな。でも、うん。楽しみにしてるね――」


 眩い輝きが放たれ、その光が無くなった時、彼女の姿も消えていた。
 そして、間も置かずゼノの身体も輝き出す。


「必ず……必ず見つけ出すからな、ユティ。世界の果てまでも捜して――」



 ゼノの微笑みと共に、彼の身体も虹色の光と共に消えていった――



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