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永遠に一緒となる元娘と元義父のお話【メリバルート〜救済エンド〜】

1.二本の花 *

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「あら~? ゼノ、もう帰るの~?」


 ギルドの任務が滞りなく完了し、受付に報告して足早に帰ろうとするゼノを、冒険家の女が引き止めた。

「今からアタイと一緒に飲みに行きましょうよ~。毎日、家とギルドと現場の往復だけじゃツマンナイでしょ~? たまには息抜きも大事よ~?」

 ゼノは、女を一瞬だけ凍りつくような視線で一瞥したが、すぐに元の瞳の色に戻り、小さく笑って答えた。

「悪ぃな、家でオレの可愛い奥さんが待ってんだ。オレの帰りを心待ちにしてるし、急いで帰らねぇと」
「えぇ~? そんなつれないこと言わないでさ~」
「アリシャ、ゼノを誘うのは時間の無駄よ? この人、奥さん一筋だもの。あわよくば……なんて考えはゴミ箱に捨てなさいよね」

 そこに、アリシャと呼ばれた女冒険家の相棒であるエレサが会話に加わってきた。

「え~? まさか~、そんなこと考えてないわよ~? アタイはただ、ゼノとの親睦を深めようと~」
「面食いのアンタにその言葉は説得力皆無ね。――ごめんなさいね、ゼノ。引き止めてしまったお詫びにコレあげるわ。アタシの実家が花屋でね、売れ残った花をギルドに飾って貰おうと持って来たのよ。気に入った花があったら貰って頂戴」

 エレサがそう言うと、両手に持っていた沢山の花をゼノの前に差し出した。
 彼はそれに首を軽く左右に振る。

「いや……オレ、花には全く興味ねぇし……」
「バカね、奥さんにどうぞって意味よ。女は大体花が好きだし、奥さんも喜ぶんじゃないかしら? 好きなだけ貰っていいわよ」
「…………」

 ゼノは少し考え、何となく気になった花を二つ選んだ。

「じゃ、コレとコレ貰ってく。ありがとな」
「気にしなくていいわよ。その代わり、今度奥さんに会わせてよ。表通りの食堂で働いてたみたいだけど、随分前に辞めちゃったんでしょ? アタシまだ見たこと無いのよね。アンタが毎回『可愛い奥さん』って言うから、気になって仕方ないわ」
「……まぁ、いつか……な。オレの奥さん、恥ずかしがり屋だし。ま、そこも超可愛いんだけどさ」
「はいはい、ノロケはもういいわよ」

 苦笑を浮かべたエレサと頬を膨らませたアリシャに、ゼノはまた小さく笑うと、ヒラリと手を振りギルドから出た。
 家に急いで向かいながら、手に持つ二本の花を何となく眺める。


(……アイツって、花好きだったっけ? 花なんかあげたことねぇし、今まで家に飾ってたこと無かったよな……。――ま、アイツはオレがいれば喜ぶし、こんなの必要ねぇんだけど。アイツに渡して興味ねぇようだったら捨てるか)


 家の玄関に着いたゼノは、上着のポケットから鍵を取り出し、扉の鍵穴にそれを差し込み二度回す。カチャリ、と扉が開く音がした。
 その扉は、内側からは開けられない特殊な仕様になっているのだ。

 乱暴に開けると、奥の方からトタトタと駆けて来る足音が聞こえ、肩まで伸びた明るいブラウン色の髪の、可愛らしい可憐な女性が姿を現した。
 肩が露出した薄く透けるワンピースで、首から足元まで、身体中に小さな朱い痕が付いているその女性は、ゼノのもとまで来ると、ニコ、と微笑んで言った。


「おかえりなさい、ゼノ」


 彼女の名はユーティス。ゼノの最愛の妻だ。
 以前、この家から黙って逃げ出したので、手首と足首に鎖を繋いでリビングに拘束していたが、この数ヶ月は逃げる様子は全く見受けられなかったので、鎖を解除したのだ。
 それ以降、ユーティスはこうやってゼノを出迎えるようになった。
 彼が朝仕事に行く時も、玄関まで一緒に来て笑顔で見送ってくれるので、その場で抱き潰したい欲望を何とか抑え、後ろ髪を引かれるように家を出るのが日課となっていた。


「ただいま、ユティ」


 ゼノは愛しの妻に笑顔を向けると、すぐさまユーティスを引き寄せ、抱きしめる。そしてその小さな唇を奪うと、濃密な口付けを開始した。

 今日はもう出掛ける予定は無いので、朝まで思う存分彼女を抱ける――

 彼女を毎日何度抱いても、一日中抱いても『飽きた』なんて感情は全く生まれない。
 今日まで数え切れないほど抱いたが、彼女は最初と変わらず初々しいままだ。
 顔を赤く染め、潤んだ瞳で自分を受け入れる彼女に、欲情が止めどなく溢れてきて。寝ることも忘れ、彼女の全てを隅々まで貪っていく。

 彼女の身体は、自分にとって魅惑の“禁断の果実”だ――


 しかし最近、彼女を抱いた後、胸の痛みを感じるようになった。
 その痛みの原因は全く分からない。ただ、胸の奥がズキズキと悲鳴を上げるように痛む。

 その痛みに酷く不快と苛立ちを覚え、それを掻き消すように彼女を激しく抱いても、やはりその痛みは消えてくれない。


 ゼノはその思考を頭から追いやると、ユーティスの舌と自分の舌を絡ませ唾液を吸いながら、ワンピースの胸元から手を差し込み、形の良い彼女の胸を揉みしだく。桃色の先端をキュッと抓ると、ビクリと彼女を身体が震え、その相変わらずの初々しい反応にゼノの欲が一気に溢れ出した。
 
 リビングに行く時間が惜しいし、一回この場で抱いてしまおうか――

 ゼノがそう考えながら、口内を貪りユーティスの触り心地の良い乳房を愛撫していると、いつもは従順な彼女なのに、今日は首を振って自分から逃れようとしている。


「……オレを拒絶するのか、ユティ? そんな悪い子には、きっちりと“お仕置き”しなきゃいけないよな?」


 己を拒否するユーティスの姿に立腹したゼノは、唾液の糸を垂らして唇を離すと、淀んだ赤黒い瞳で彼女を冷たく見下ろした。
 ユーティスは、それに首を大きくブンブンと横に振る。

「ち、違うの。ゼノが持っている、そのお花――」
「……あぁ、これか」

 ユーティスを見た瞬間、彼女のことで頭が一杯になり、すっかり忘れていた。危うく握り潰すところだった。

「お前にやるよ。テキトーに選んだから、気に入るか分かんねぇけど。いらなかったら捨ててくれ」

 ゼノはユーティスを抱きしめたまま、手に持っていた二本の花を差し出すと、彼女は驚いたように両目を見開き、その花をジッと見つめた。


「青色と……白色の“アイリス”……」


 ユーティスはポツリと呟くと、途端オレンジの瞳を潤ませる。そして自分の反応に困惑しているゼノを見上げると、ニコッと笑った。


 ――パッと花が咲いたような、見惚れるような笑顔で。


「ありがとう、ゼノ。すごく嬉しい。大事に、大事にするね。私、これからも頑張るから」


 心から喜んでいるユーティスを見て、ゼノはこんなに可愛い彼女の笑顔を見られるなら、もっと早く花を贈れば良かった、と強く後悔した。
 そして、いつものように胸がズキリと痛む。しかも今度は、身体全体に響くような大きな痛みだった。

 ゼノはそれらの感情を必死で奥に留めると、ユーティスを抱き上げ足早に自分の部屋まで行く。
 そしてベッドに彼女を降ろすと、自分の着ている服を荒々しく脱ぎ捨て、驚く彼女を貪るように抱いたのだった。



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