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永久に囚われた元娘と、永遠に逃さない元義父のお話〜if ending〜【メリバルート】

7.怒りが込み上げて

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「それよりさぁ、ユティ。オレをただの“想い出”にするなんてヒドくね? オレはお前の旦那なのにさぁ。お前はオレの奥さんなんだから、オレのことを常に“一番”に考えてなきゃダメだろ? オレの幸せを“一番”に願うようにさ? 今もお前はオレのこと大好きで堪んねぇクセに。なぁユティ、そうだろ?」
「…………え、ぇ……?」
「でもさぁ、ユティ。いくらオレの幸せを“一番”に願ったとは言え、オレから離れる選択は一番ダメだったなぁ。アイツの言葉を鵜呑みにしてさぁ。オレはお前をそんな悪い子に育てた覚えはねぇのに。悪い子には“お仕置き”して躾し直さなきゃいけないなぁ……?」
「……っ!?」


 耳元で、ゼノの低く囁くような声が外套の外から聞こえる。恐らく屈んで頭を下げているのだろう。


 ……ゼノの言っていることが、全然分からない。把握出来ない。
 “旦那”? “奥さん”? それは私に言ってるの?
 王女様に、じゃなくって……?
 

「あぁ……そうだ、髪バッサリ切ったんだよな。長い髪も似合って良かったけど、短い髪も似合うなぁ、お前。何でも似合うなんて、さすがはオレの可愛い奥さんだ。――あぁ、でもこの短さだと首が丸見えでキスマークが隠せないぜ? お前さぁ、恥ずかしがってオレが付けたの髪でいつも隠してたもんなぁ。その反応も初々しくて可愛くて良かったけどさ。もう隠さなくていいほどオレのことを愛してるって? ――ははっ、いいぜ? じゃあ今度、遠慮なく沢山付けてやるよ。お前の白く細い首に朱色は映えるんだよなぁ。――ホントお前ってオレのこと大好きだよなぁ? ククッ」


 長い指でうなじをスウッとなぞられ、彼の台詞も相俟り、私の背筋がゾッと強く震えた。


 ……おかしい。ゼノが何かおかしい……!
 何で未だに私のことを“奥さん”って呼ぶの? 王女様と結婚して、一緒に幸せに暮らしているんじゃないの? 王女様が“奥さん”だよね……?
 あっ! もしかして、私に意図せず会ってしまって、ゼノは王女様と幸せになったけれど、私は独りのままだったから罪悪感で思わず口走っちゃったとか……?

 ……そんなの気にしなくていいのに。
 ゼノが幸せなら私は嬉しいのに。何とかゼノにそれを伝えて食堂に戻らなきゃ。あまり遅くなるとルイゼさんに心配掛けちゃう……。


「――ゼノ、聞いて? 私は本当にゼノの幸せを“一番”に願っているから。ゼノが幸せなら私も嬉しい。だから、私のことは全然気にしないで、王女様と幸せになっていいんだよ? ほら、早く王女様のところに戻ってあげて。――あ、宿屋はもうすぐそこだから。目の前に見えるでしょう? 私、食堂に戻らなきゃ。だから……その、離して貰えるかな……? 久し振りにゼノと話せて嬉しかったよ……」


 私は混乱しているであろうゼノを刺激しないように、優しく静かに声を出すと、私の首筋を撫でていた指がピタリと止まった。


「お前がオレの幸せを“一番”に考えてるのはよく分かってるさ。……けどさぁ、ユティ。お前何言ってんだ? 何でオレが王女と? それにどうしてお前が食堂に戻らなきゃいけない? お前はこれからオレと一緒に暮らすのに。オレがお前を一生養うのに、あそこで働く必要なんてねぇだろ?」
「…………え??」


 ……いよいよもって、ゼノの言ってることが分からない。
 グチャグチャになりかけた心の奥から、沸々とやるせない怒りが湧いてくる。
 その感情に身を任せ、私は勢い良く口を開いた。


「ゼノこそ何言ってるの!? あなたには王女様がいるでしょう!? 想い合っている王女様が!! 最初の国で“親子”として暮らしていた時、夜中に王女様と何度も会ってたってこと、私知ってるんだから!! 王女様の香水の匂いもしっかり付いてたんだからね!? 本当にさっきから何を言ってるの!? 私をからかうのもいい加減にしてっ!! あんなに辛くて切ない気持ちが、ようやく“想い出”になったのに!! もう振り回さないでよ!! ゼノは早く王女様のところに戻って! そして幸せに……沢山幸せになって暮らしてよ!! 私のことはもう放っておいて!! 私はゼノがいなくても一人でやっていけるんだからっ!!」


 私のかつてない強めの口調と言葉に、思わずといった感じでゼノの身体がビクッとし、腕の力が緩む。
 その隙を私は見逃さず、その腕を強引に振り払うと、勢い良く外套から飛び出したのだった。



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